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2004.10.21

鈴ふり(すずふり)

鈴ふり

高僧、禁欲の証しは? よくもこんな珍妙なことを考えるもんです。

藤沢の遊行寺という名刹。
この寺の住職は大僧正の位にあって、
千人もの若い弟子が一心に修行に励んでいる。

なにせ弟子の数が多いので、
さしもの大僧正も、この中から誰を自分の跡継ぎに選んだらよいか、
さっぱりわからない。

そこでいろいろ相談した結果、
迷(?)案がまとまった。

旧暦五月のある日、
いよいよ次期住職を決める旨のお触れが出る。

その当日、
誰も彼も、ひょっとしてオレが、いや愚僧がというので、
寺の客殿には末寺から押し寄せた千人の坊主がひしめき合って、
青々としてカボチャ畑のような具合。

そこで何をするかというと、
千人一人一人の男のモノに、
太白の紐が付いた小さな金の鈴をちょいと結んで
「どうぞ、こちらへ」。

次々と奥に通す。

一同驚いていると、
やがて御簾の内から大僧正の尊きお声。

「遠路ご苦労である。
今日は吉例吉日たるによって、御酒、魚類を食するように」

ただでさえ生臭物は厳禁の寺で、
酒をのめ、それ鰻だ、卵焼きだというのだから、
どうなっているのかと目を白黒させていると、
なんとお酌に、新橋、柳橋の特選、選りすぐりの芸者が
ずらりと並んで入ってくる。

しかも、そろって十七、八から二十という若いきれいどころが、
色気たっぷりにしなだれかかってくるものだから、
普段女色禁制で免疫の出来ていない坊さん連はたまったものではない。

色即是空、空即是色と必死に股間を押さえていると、
隣で水もしたたる美女が
「あなた、何をそう、下ばかり向いて」

背中をぽんとたたく。

あっと手を放したとたんに、
親ではなく伜の方が上を向き、
くだんの鈴がチリーン。

たちまち、あっちでもこっちでも
チリーン、チリーン、チリチリリーン。

千個の鈴の妙なる音色、
どころではない。

そのかまびすしい音を聞いて、
大僧正、嘆くまいことか。

涙にくれて、
「ああ情けなや。もう仏法も終わりである。
千人の全部が全部、鈴を鳴らそうとは」

ところがふと見ると、
年のころ二十くらいの若い坊さんがただ一人、
数珠をつまぐりながら座禅を組んでいる。
よく聞くとその坊さんの股間からだけは、
鈴の音なし。

大僧正、感激の涙にむせび、
これで合格者は決まったと、
早速呼び寄せて前をまくってみたら鈴がない。

「はい、とっくに振り切れました」

【うんちく】

志ん生おはこのエロ噺

五代目古今亭志ん生師の一手専売だったエロ噺です。
ネタがネタだけに、当人も寄席ではやれず、
特殊な会やお座敷だけのサービス品でした。
ただし、珍しくずうずうしくも
昭和36年5月の東横落語会で堂々演じたライブの音源が
このほどCD化されました。
脳出血で倒れる半年ほど前の、元気な頃の最後の高座です。

「鈴ふり」のマクラに志ん生が必ずつけたのが、十八檀林の言い立て。
挙げられる十八か寺は、
浄土宗で大僧正となるために修行しなければならない関東の諸名刹ですが、
この噺の舞台・藤沢の遊行寺(正中2=1325年、4世遊行上人・呑海の創建)
は時宗の総本山なので、あらすじとは無関係です。
ただ、同じく大僧正が登場するためと、
どの宗派にも共通する修行の厳しさを説明するために入れただけでしょう。

速記・音源ともに長らく志ん生のもののみでしたが、
最近、その長男で、マジメそのものの芸風だった十代目金原亭馬生の演じたCDも
発売されています。

十八檀林の言い立て

十八檀林というのは、以下の18のお寺をさします。
お坊さんは、寺を巡るごとに出世していったんですね。
志ん生の言い立てを再現してみましょう。

その修行の一番はなへ飛び込むのはってェと、
①下谷に幡随院(ばんずういん)
という寺がある。
その幡随院に入って修行をして、
その幡随院を抜けて、
②鴻巣の勝願寺(しょうがんじ)
という寺へ入る。
この勝願寺を抜けまして、
③川越の蓮馨寺(れんけいじ)
蓮馨寺を抜けまして、
④岩槻の浄国寺(じょうこくじ)
という寺に入る。
浄国寺を抜けまして、
⑤下総小金の東漸寺(とうぜんじ)
という寺に入り、東漸寺を抜けて、
⑥生実(おいみ)の大厳寺(だいがんじ)
へ入り、
⑦滝山の大善寺(だいぜんじ)
へ入る。ここから、
⑧常陸江戸崎の大念寺(だいねんじ)
へ入って、
⑨上州館林の善導寺(ぜんどうじ)
へ入る。それから、
⑩本所の霊山寺(りょうざんじ)
へ入って、
⑪結城の弘経寺(ぐきょうじ)
へ入って、ここで紫の衣一枚となるまで修行をしなければならない。
それから、
⑫下総の国飯沼の弘経寺(ぐきょうじ)
というところへ入る。
ここは十八檀林のうちで、隠居檀林といって、
この寺で、たいがい体が尽きちゃう。
そこを、一心になって修行をして、この寺を抜けて、
⑬深川の霊厳寺(れいがんじ)
に入り、霊厳寺を抜けて、
⑭上州新田の大光院(だいこういん)
に入って、
⑮瓜連(うりづら)の常福寺(じょうふくじ)
に入って、そうして、紫の衣二枚になって、
それより、えー、
⑯小石川の伝通院(でんずういん)
へ入り、伝通院を抜けて、
⑰鎌倉の光明寺(こうみょうじ)
へ入って、そこで緋(ひ)の衣一枚となって、それより、
⑱江戸は芝の増上寺(ぞうじょうじ)
に入って、増上寺で修行をして、緋の衣二枚
となって、はじめて大僧正の位となるという……
ここまでの修行が大変であります。

この1枚古今亭志ん生/鈴ふり

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