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2004.10.24

あたま山(あたまやま) 

落語には、ずいぶんシュールなお話もあるもんで。 この1枚:あたま山

春は花見の季節。

周りはみな趣向をこらして
桜の下でのみ放題食い放題の
ドンチャン騒ぎをやらかすのが常だが、
ここに登場のケチ兵衛という男、
名前通りのしみったれ。

そんなことに一文も使えないというので、
朝から晩までのまず食わずで、
ただ花をぼんやり見ながら
さまよい歩いているだけ。

しかし、さすがに腹が減ってきた。

地べたをひょいと見ると、
ちょうど遅咲きの桜が、
もうサクランボになって落ちているのに気づき、
「こりゃ、いいものを見つけた」
と、泥の付いているのもかまわず、
一粒残さずむさぼり食った。

翌朝。
どういうわけか頭がひどく痛んできて、
はて、おかしいと思っているうちに、
昨日泥の付いたサクランボを食ったものだから、
頭の上にチェリーの木の芽が吹いた。

さあ大変なことになった
と、女房に芽をハサミで切らせたが、
時すでに遅く、
幹がにょきにょきっと伸び出し、
みるみる太くなって、
気がついた時は周りが七、八尺もある
桜の大木に成長。

さあ、これが世間の大評判になる。

野次馬が大勢押しかけて、
ケチ兵衛の頭の上で花見をやらかす。

茶店を出す奴があると思うと、
酔っぱらってすべり落ち、
耳のところにハシゴを掛けて登ってくる奴もいる。

しまいには、
頭の隅に穴を開けて、
火を燃やして酒の燗をするのも出てくる始末。

さすがにケチ兵衛、閉口して、
「いっそ花を散らしてしまえ」というので、
ひとふり頭を振ったからたまらない。

頭の上の連中、
一人残らず転がり落ちた。

これから毎年毎年、
頭の上で花が咲くたびに
こんな騒ぎを起こされた日にはかなわない
と、ケチ兵衛、
町中の人を頼んで、
桜の木をエンヤラヤのドッコイと引っこ抜いた。

ところが、
あまり根が深く張っていたため、
後にぽっかりと大きな穴が開き、
表で夕立ちに逢うと、
その穴に満々と水がたまる。

よせばいいのに、
この水で行水すれば湯銭が浮くとばかりに、
そのままためておいたのがたたって、
だんだんこれが腐ってきて、
ボウフラがわく、鮒がわく、鯰がわく、鰻がわく、鯉がわく……
とうとう、今度は頭の池に養魚場ができあがった。

こうなると釣り師がどっと押しよせ、
ケチ兵衛の鼻の穴に針を引っかけるかと思えば、
釣り舟まで出て、
芸者を連れてのめや歌えの大騒ぎ。

ケチ兵衛、つくづくイヤになり、
こんな苦労をするよりは、
いっそ一思いに死んでしまおうと、
南無阿弥陀仏と唱えて、
自分の頭の池にドボーン。

昔はケチの小咄だった

昔は、ちょっと毛色の変わった
ケチの小咄程度としか見られず、
マクラ噺として扱われていましたが、
なかなかどうして、その奇想といい、
シュールこの上ないオチの見事さといい、
落語屈指の傑作といっていいでしょう。

彦六で亡くなった八代目林家正蔵が、
頭池に釣り舟が出るくだりを
加えるなどして、一席噺にまとめあげました。
その正蔵も、それでもまだ短いので、
最初に、河童の子が逆に人間に尻子玉を抜かれ、
親が「素人にしちゃ上出来だ」
と感心する小咄を振っていました。
五代目古今亭志ん生は、
「もう半分」のマクラにこの噺を用いています。

「頭の池に身を投げた」というオチは
「考えオチ」といい、
客をケムに巻くものですが、
両巨匠の「解説」は後述します。

音源は、一席ものとしては、
現在は正蔵(彦六)師のものしかありません。

ケチ兵衛の投身自殺
どうやって自分の頭の池にざんぶり飛び込んだか。
正蔵、志ん生両師匠の見解は?

正蔵

年寄りに聞くってえと、
細長いひもをぬう場合、
最初は糸目を上にしてぬって、
ぬいあがると物差しをあてがって、
一つ宙返りをさせる。
すると完全な細ひもになる。

理屈はあれと同じで、
頭に池があれば、
人間がめくれめくれて、
みんな池の中にへえっちまう。

志ん生

おかァさまが、
赤ちゃんの付けひもなどをぬうときに、
スーッとぬっといて、
クルッとこうひっくり返します。

煙草入れの筒も、そうなんで、
ぬっといて、キュッとやって、
クルクルクルッとひっくりかえす。

で、まァ、ケチ兵衛さんが、
自分で自分で自分の頭の池に
身を投げたのは、
やっぱりその型でな、
グルグルグルグルッと(指先で三つばかり円を描いて)
こうなって、えー、そうして、えー、身を投げた。

これでおわかりでしょうか?

サクランボ
泥のついた桜の実を種ごとかじったのが、
ケチ兵衛の災厄の始まり。

ところが、世界中には似たような話もあるもの。

ドイツのビュルガーが18世紀にものした
「ほらふき男爵の冒険」に、
主人公・ミュンヒハウゼン男爵が
鹿撃ちに出かけ、
猟銃に弾丸とまちがえてサクランボの種をこめて
撃ったところ、見事命中。

一年後に
同じ場所に行ってみると、
出会った大鹿の頭に桜の枝が生い茂っていた
というホラ話がありました。

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