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2004.10.27

子別れ(こわかれ) 

通常、上、中、下の3部に分けて演じられますね。 この1枚:子別れ 

腕はいいが、大酒飲みで遊び人の大工・熊五郎。

ある日,
山谷の隠居の弔いですっかりいい心持ちになり、
このまま吉原へ繰り込んで精進落としだと怪気炎。

来合わせた大家が、
そんな金があるなら女房子供に着物の一つも買ってやれ
と意見するのもどこ吹く風。

途中で会った紙屑屋の長さんが、
三銭しか持っていないと渋るのを、
今日はオレがおごるから
と無理やり誘い、
葬式で出された強飯の煮しめがフンドシに染み込んだ
と大騒ぎの挙げ句に三日も居続け。

四日目の朝、
神田堅大工町の長屋にご機嫌で帰ってくると、
かみさんが黙って働いている。

さすがに決まりが悪く、
あれこれ言い訳をしているうちに、
かみさんが黙って聞いているものだから
だんだん図に乗って、
こともあろうに女郎の惚気話まで始める始末。

これでかみさんも堪忍袋の緒が切れ、
夫婦げんかの末、
もう愛想もこそも尽き果てた
と、せがれの亀坊を連れて家を出てしまう。

うるさいのがいなくなって清々した
とばかり、
なじみのおいらんが年季が明けると家に引っ張り込むが、
やはり野に置け蓮華草、
前のかみさんとは大違いで、
飯も炊かなければ仕事もせず。

挙げ句に、
こんな貧乏臭いところはイヤだ
と、さっさと出ていってしまった。

一方、夫婦別れしたかみさん。

女の身とて決まった仕事もなく、
炭屋の二階に間借りして、
近所の仕立て物をしながら亀坊を育てている。

ある日、
亀坊がいじめられて泣いていると、
後ろから声を掛けた男がいる。

振り返ると、何と父親。

身なりもすっかり立派になって、
新しい半纏を着込んでいる。
仕事の帰りらしい。

あれから一人になった熊五郎、
つくづく以前の自分が情けなくなり、
心機一転、
好きな酒もすっかり絶って仕事に励み出したので、
もともと腕はいい男、
得意先も増え、
すっかり左団扇になったが、
思い出すは女房子供のことばかり。

偶然に親子涙の再会とあいなり、
熊はせがれに五十銭の小遣いをやってようすを聞くと、
女房はまだ自分のことを思い切っていないらしいとわかる。

内心喜ぶが、まだ面目なくて会えない。

その代わり、
明日鰻を食わせてやる
と亀坊に約束し、
その日は別れる。

一方、家に帰った亀坊、
もらった五十銭を母親に見つかり、
おやじに、
おれに会ったことはまだおっかさんに言うな
と口止めされているので、しどろもどろで、
知らないおじさんにもらった
とごまかすが、
もの堅い母親は聞き入れない。

貧乏はしていても、
おっかさんはおまえにひもじい思いはさせていない、
人さまのお金をとるなんて、何てさもしい料簡を起こしてくれた
と泣いてしかるものだから、
亀坊は隠しきれずに父親に会ったことを白状してしまう。

聞いた母親、
ぐうたら亭主が真面目になり、
女ともとうに手が切れたことを知り、
こちらもうれしさを隠しきれないが、
やはり、まだよりを戻すのははばかられる。

その代わり、
翌日亀坊に精一杯の晴れ着を着せて送り出してやるが、
自分もいても立ってもいられず、
そっと後から鰻屋の店先へ……。

こうして、子供のおかげでめでたく夫婦が元の鞘に納まるという、
「子は鎹(かすがい)」の一席。

【うんちく】

長い噺

幕末の初代春風亭柳枝作。

長い噺なので、上中下に
分けられています。

普通は、中と下は通して演じられ、
別題を「子はかすがい」といいます。
かすがいは大工が使う、
大きな木材をつなぐための
カギ型の金具で、打ち込むのに
ゲンノウを用いるので、
母親が「ゲンノウでぶつよ」と
脅かす場面が、幕切れの
「子はかすがい」という
地のサゲとぴたりと付きます。

「かすがいを打つ」

という慣用句もあり、
人の縁をつなぎ止める意味です。

上は五代目古今亭志ん生が、
「強飯(こわめし)の女郎買い」
として独立させ、
紙屑屋を吉原に誘う場面の
掛け合いで客席を沸かせました。
むろん、後半の「子別れ」は別に
みっちりと演じています。

志ん生は母親の表現に優れ、
六代目三遊亭円生は、上の
通夜の場面から綿密に演じました。
戦後では、やはりこの二人が
双璧だったでしょう。

CDは両者のほか、八代目可楽、六代目柳橋、
故人志ん朝、現談志、円窓、小朝と、おびただしく出ています。

熊&紙長さんの「掛け合い漫才」

熊「いくらあんだい? 一両もあんのかい一両も?」
長「一円? 一円なんぞあるもんか」
熊「八十銭かァ?」
長「八十銭ありゃしないよ」
熊「六十銭か」
長「六十銭・・までありゃいいんだがね」
熊「五十銭だな」
長「五十銭にちょいと足りねえんだ」
熊「じゃ四十銭だ」
長「もうすこしってとこだ」
熊「三十五銭か」
長「もう、ちょいとだ」
熊「三十銭か」(このあたりで客席にジワ)
長「もうすこしだ」
熊「二十五銭だな」
長「うう、もうちょいと」
熊「二十銭かァ」
長「うう、くやしいとこだ」(爆笑)
熊「十五銭かァ?」
長「もうすこし」
熊「十銭か」
長「うう、もうちょいと」(高っ調子で)
熊「五銭だな?」
長「もうすこしィ」
熊「三銭か」
長「あ当った」
熊「あこら三銭だよ」

最後の「三銭だよ」に絶妙の間で
客の大爆笑がかぶさります。
志ん生のライブならではの醍醐味。
活字では、とうてい
表現しきれません。

ゲンノウでぶつ

母親が五十銭の出所を白状させようと、
子供を脅す場面があります。

ゲンノウ(玄翁)は言うまでもなく、
大工が使う大型の鉄の槌ですが、
六代目三遊亭円生はカナヅチ(金槌)で演じました。

芸談によると、古今亭志ん生に注意され、
なるほど、女が持つにはゲンノウは重くて大き過ぎる、
と気がついたそうです。

当の志ん生はというと、当然ながら
「ここにお父っつァんの置いてったカナヅチがあるから、
このカナヅチで頭ァ、たたき割るぞッ」
と言っています。

もっとも、単なる脅かしですし、
大きいから子供が怖がると考えれば、
ゲンノウでもいいと思いますが、
昔の落語家は、噺の中のちょっとした小道具にも
常にリアリティを考え、気を遣っていたことが分かりますね。

「女の子別れ」

明治初期に三遊亭円朝が、柳枝の原作を脚色し、
あべこべに、出て行くはがかみさん(母親)で、
父親が子供と暮らすという「女の子別れ」として演じました。

やはりゲンノウの場面を気にして、ゲンノウで脅すなら
父親の方が自然だろうというのが直接の動機だったようですが、
何よりも、「男の子は父親につく」という、夫婦別れのときの慣習や、
亭主の方が家を出るのは、(当時としては)不自然というのが
円朝の頭にあったのでしょう。

この「女の子別れ」は、
高弟の二代目円馬が大阪に伝え、
明治期には月亭文都が得意にしていましたが、
今は、東西ともこのやり方で演ずることはありません。

もっとも、東京嫌いの上方落語研究家・宇井無愁は、
「子供をカセにお涙ちょうだいのあの手この手を使った、
ウエットなヒネクレ落語で、
ドライな笑いを好む大阪の水には合いにくい」
と述べています。

下足番に習った「子別れ」

五代目古今亭志ん生が生前、対談で回想していますが、
志ん生がまだ二つ目で旅興行でさすらい歩いていたとき、
流れ着いた甲府の稲積亭といううらぶれた席で、
「子別れ」を一席やったところ、そこの下足番の爺さんに、
「あすこんとこはまずい」と注意され、
何言ってやがると思ったそうです。

よく聞いてみると、この爺さん、昔は四代目三升家小勝の弟子で
小常といったれっきとした噺家。
旅興行のドサまわりをしているうちにここに落ち着き、
とうとう下足番になり、年を取ってしまったとのこと。

昔はこういうケースはよくあったようで、
志ん生は夏の暑いさ中、爺さんのボロ小屋で
虫に食われながら「子別れ」をさらってもらったそうです。

何だか哀れな、物さびしい話ですが、
志ん生の自伝「びんぼう自慢」では、
習ったのは「甚五郎の大黒(→「三井の大黒」)
ということになっていて、こうなると
どちらが本当なのかは分かりません。

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コメント

コメントありがとうございました。返事はそこに書きましたが,書いている途中で自分のほうに載せるのもおかしい部分を削除し,ここでご連絡します。
いったん,
……参考にさせていただいています(前回の品川心中では,インデックスから行けなかったので未掲載かと思っていましたが,「子別れ」を読みに行ったときに見つけたので,あわててリンクさせていただきました。<今日確認したらまだリンクが張られていませんでした(^_^)>)。
としましたが,読み返しておかしいと思い,
参考にさせていただいています。
にしました。
リンクの確認は30分~1時間ほど前です。修正してあるようでしたらごめんなさい。
また,このコメントは,単なる連絡なので,削除してしまってください。

投稿: donmabo | 2005.06.19 20:24

はじめまして。
コマと申します。
半年ほど前から落語の魅力に取り付かれております。
といっても主に古今亭志ん生師匠になんですけれども。
寄席にも行きたいと思っているんですが、日々の雑事に追われなかなか達成できずにいます。
それはそうと、事後報告になってしまいますが、了承も得ず勝手に文中リンクを貼ってしまい、どうもすみませんでした。
今後お世話になる時は必ずその前に挨拶に来ます。
では、今後もよろしくお願いします!

投稿: コマ | 2005.06.20 03:41

donmaboさん

品川心中のリンクを張り忘れていました。
donmaboさんのご指摘で気づいた次第。
うっかりしてまして、すんませーん。

投稿: 古木優 | 2005.06.22 17:30

今夜でT&D終わりですね〜
近年稀に見る面白いドラマだったわ。
毎回始まる前に内容を千字寄席でチェックしてたんですよ。
役にたつなあ、千字寄席。
役にたつといえば、千字寄席の変わった利用法。
私、今、7ヶ月の妊婦なんですけど、胎教に読んであげてるんですよ〜
短いし、いっぱい載ってるし、私にも物珍しいし、調度良い!
こんな使い方、きっと誰もしていないよね。

投稿: 雪子 | 2005.06.24 18:17

雪子さん

ありがとうございます。
そうか、落語で胎教とは。
意外でおもしろい活用法ですね、それ。
落語って、人間の知恵が盛りだくさんですからね。
たしかに、いいかも。
私の子供にもしてみようかしら。

投稿: 古木優 | 2005.06.25 00:27

コマさん

コメントありがとうございます。
リンクも感謝。
これからもよろしくです。

投稿: 古木優 | 2005.06.26 15:35

落語にはまったく無知でしたのでこちらで色々勉強させていただき参考にさせていただきました。落語のあらすじだけでなく、背景やこぼれ話なども本当に楽しめました。ありがとうございました。

投稿: tsumire | 2005.06.28 09:29

tsumire さま

どうもありがとうございます。
これからも一層内容を充実させていきたく思いますので
今後ともよろしくお願いします。

投稿: たか | 2005.06.28 16:52

管理人さんへ
初めて書き込みします・・・
落語家さん以上に詳しい内容勉強になります。昔、落語にはまったことがあり!!またもや 落語フリークに!!!さっそくメルマガに登録します。これからもよろしく

追伸
トラバ張らしてもらいます。。。
自分もブログで落語の題目(大分、話はそれてますが・・・)で噺家風情の事してます。
良かったら、是非一度覗いてみてください(^_^)
子別れ(子は鎹)もお題目にしました・・・・

投稿: masacool | 2005.07.17 10:51

masacoolさん
ありがとうございます。
ごひいきに、お願いいたします。
うれしいなあ。
こっちも、TBさせていただきやす。

投稿: 古木 | 2005.07.19 16:40

はじめまして!

タイガーアンドドラゴンで
落語に興味が出てきて
よく、訪問してました。

そして先日初:高座を観に行きました。早速BLOGに書いちゃった。

林家正蔵さんの襲名披露で
子は鎹をやっていたので
TBさせていただきました。

ありがとうございます。

投稿: happy-silva | 2005.07.26 03:27

happy-silvaさん

ありがとうございます。
もっと充実させていきますんで、
よろしくお願いしますね。

古木優(ふ)

投稿: 古木優 | 2005.07.26 21:28

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