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2004.10.28

疝気の虫(せんきのむし)

疝気の虫

世の中には、ずいぶんとふざけた虫がいるもんで。

ある医者が妙な夢を見る。

おかしな虫がいるので、
掌でつぶそうとすると、
虫は命乞いをして
「自分は疝気の虫といい、
人の腹の中で暴れ、
筋を引っ張って苦しめるのを職業にしているが、
蕎麦が大好物で、
食べないと力が出ない」
と告白する。

苦手なものはトウガラシ。

それに触れると体が腐って死んでしまうため、
トウガラシを見ると別荘、
つまり男のキンに逃げ込むことにしているとか。

そこで目が覚めると、
これはいいことを聞いたと、
張り切って往診に行く。

たまたま亭主が疝気で苦しんでいて、
何とかしてほしいと頼まれたので、
先生、この時とばかり、
かみさんが妙な顔をするのもかまわず、
そばをあつらえさせ、
亭主にその匂いをかがせながら、
かみさんにたべてもらう。

疝気の虫は蕎麦の匂いがするので、勇気百倍。
すぐ亭主からかみさんの体に乗り移り、
腹の中で大暴れするので、
今度はかみさんの方が七転八倒。

先生、ここぞとばかり、
用意させたトウガラシをかみさんになめさせると、仰天した虫は急いで逃げ込もうと
その場所に向かって一目散に腹を下る。

「別荘はどこだ、別荘……あれ、ないよ」

【うんちく】

疝気って?

江戸時代の漢方の病名など
大ざっぱですから、要するに
男のシモの病全般-尿道炎・胆石・
膀胱炎・睾丸炎等々、ひっくるめて
疝気と称していました。昔から
「疝気の大きんたま」
などというのもそのためです。
ちょうど女の癪(しゃく)に相当するもので、

「悋気(りんき)は女の慎むところ、
 疝気は男の苦しむところ」

というのは落語のマクラの紋切型。
落語に登場の病気では、癪・恋わずらい
と並んでビッグ3でしょう。
「藁人形」「万病円」「にせ金」
「夢金」「狸の釜」ほか、
挙げればキリがありません。

この噺の「療法」はもちろん
インチキのナンセンスですが、
実は、疝気の正体は
フィラリアという寄生虫病
という説もあり、あながち
虫に縁がなくもありません。

なお、噺の中で疝気の虫が
そばが好物というのは、
そばは腹が冷えるので、
疝気には禁物とされていたのを
戯画化したのでしょう。

戦後では、五代目古今亭志ん生の
独壇場で、四代目三遊亭円遊も得意でした。
音源は、志ん生のものがほとんどですが、
現・立川談志、大阪の四代目桂福団治の
CDもあります。

志ん生と「疝気の虫」

1949年の新東宝映画「銀座カンカン娘」で、
落語家・桜亭新笑に扮した
五代目志ん生(当時59歳)が
「疝気の虫」を縁側で稽古する場面を
御記憶の方も多いでしょう。

旧満州から帰国後間もなく、
まだすっきりと痩せていますが、
そばをたぐる仕草は
なかなか鮮やかなものです。

志ん生は実演では
最後に「別荘・・・・」と言って、
キョロキョロ辺りを見回す仕草で
落としていました。

その他の演者では、バレ(艶笑)の
要素を消すため、

「ひょいと表に飛び出した」
「畳が敷いてあった」「スポッ」

などとすることもあります。 

疝気のマジメな療法

最近人気の怪談集「新耳嚢」の本家、
根岸鎮衛著「耳嚢」巻五に、
疝気の薬として
ブナの木の皮を用いたところ、
翌日にはケロリと治ってしまったという
逸話が載っています。
漢方にはこのような処方はなく、

「阿蘭陀(おらんだ)法の書を翻訳
 する者有て其(の)説を聞(く)に、
 符を号するが如しとかや(よく合致
 するようだ)」

とあります。同書にはそのほかにも、
疝気治療に関するまじないや薬の
記述が多く、やれ

「マタタビ一匁を酒か砂糖湯に
 溶かしてのむ」

とか、四国米を毎日4~5粒ずつ
食べろとか、
著者当人も相当悩まされた末、
ワラにもすがったあとがありありです。

おすすめCD疝気の虫

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