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2004.10.22

お直し(おなおし) 

妙におかしいんですが、思いを巡らすと悲しいもんです。 この1枚:お直し

盛りを過ぎた花魁(おいらん)と
客引きの若い衆が、いつしか深い仲に。

廓では「同業者」同志の色恋はきついご法度。

そこで隠れて忍び逢っていたが、
いつまでも隠し通せない。

主人に呼ばれ、
「困るじゃないか。
おまえたちだって廓の仁義を知らないわけじゃなし。
ええ、どうするんだい」

結局、
主人の情けで、女は女郎を引退、
取り持ち役の「やり手」になり、
晴れて夫婦となって仲良く稼ぐことになった。

そのうち、小さな家も借り、
夫婦通いで、食事は見世の方でさせてもらうから、
金はたまる一方。

ところが、好事魔多し。

亭主が岡場所通いを始めて仕事を休みがちになり、
さらにバクチに手を染め、
とうとう一文なしになってしまった。

女房も、主人の手前、
見世に顔を出しづらい。

「ええ、どうするつもりだい、いったい」
「どうするって……しようがねえや」

亭主は、友達から「ケコロ」をやるように勧められていて、
もうそれしか手がない、と言う。

吉原の外れ、
羅生門河岸で強引に誰彼なく客を引っ張り込む、
最下級の女郎の異称。

女が二畳一間で「営業」中、
ころ合いを見て、客引きが
「お直し」
と叫ぶと、
その度に二百が四百、六百と花代がはねあがる。

捕まえたら死んでも離さない。

で、「ケコロはおまえ、客引きがオレ」

女房も、今はしかたがないと覚悟するが、
「おまえさん、焼き餠を焼かずに辛抱できるのかい」
「できなくてどうするもんか」

亭主はさすがに気がとがめ
「おまえはあんなとこに出れば、ハキダメに鶴だ」
などとおだてを言うが、女房の方が割り切りが早い。

早速、一日目に酔っぱらいの左官を捕まえ、
腕によりをかけてたらし込む。

亭主、タンカを切ったのはいいが、
やはり客と女房の会話を聞くと、たまらなくなってきた。

「夫婦になってくれるかい?」
「お直し」
「おまえさんのためには、命はいらないよ」
「お直し」
「いくら借金がある? 三十両? オレが払ってやるよ」
「直してもらいな」

客が帰ると、亭主は我慢しきれず、
「てめえ、本当にあの野郎に気があるんだろ。
えい、やめたやめた、こんな商売」
「そう、あたしもいやだよ。……人に辛い思いばかりさせて。
……なんだい、こん畜生」
「怒っちゃいけねえやな。何もおまえと嫌いで一緒になったんじゃねえ。
おらァ生涯、おめえと離れねえ」
「そうかい、うれしいよ」
とまあ、仲直り。

むつまじくやっていると、
さっきの酔っぱらいがのぞき込んで、
「おい、直してもらいねえ」

【うんちく】

ケコロ

ケコロというのは、
もともと吉原に限らず、
江戸の各所に出没していた
最下級の私娼の総称です。

ただし、
吉原のケコロは、
江戸の寛政年間(1789-1801)には
もう絶えていたようです。

羅生門河岸

つまり吉原の京町2丁目南側、
お歯黒どぶといわれた真っ黒な溝に沿った一角を
「本拠」にしていました。

「羅生門」とは、
ケコロの女が客の腕を強引に
捕まえ、放さなかったことから、
源頼光四天王の一人・渡辺綱が
鬼女の片腕を斬り落とした
伝説の地名になぞらえてつけられた名称とか。
なんだか、こわごわとしたかんじがしますね。

表向きは、ロウソクの灯が消えるまで
二百文が相場ですが、
それで納まるはずはありません。

この噺のように、
「お直し、お直しお直しィッ」と、
立て続けに二百文ずつアップさせ、
結局、素っ裸にむいてしまうという
オソロシい魔窟だったわけです。

志ん生のおはこ

この噺は、
五代目古今亭志ん生が復活させ、
昭和31年度の芸術祭賞を受賞しました。
その没後は、二男で、惜しくも先年物故した
古今亭志ん朝のものでしょう。
親子とも、もちろんテープ・CDがあります。

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