« 十徳(じっとく)   | トップページ | 猫と金魚(ねこときんぎょ)  »

2004.11.03

質屋蔵(しちやぐら)

質屋蔵

質屋が生活と密接だった時代なら、こんな想像力も沸こうというもの。

ある大きな質屋の三番蔵に、
夜な夜な化け物がでるという町内の噂を、
当のだんなが朝湯で聞いてきて、
「これは信用にかかわるから捨ててはおけない」
と、早速番頭に寝ずの番で見届けるよう言いつける。

だんなの考えでは、
「これはきっと大切な品物を心ならずも質物にした人の、
その物に対する執着が蔵に残り、
妖怪と化したものだろう」
という。

番頭は臆病なので、
「とても一人では怖くていけない」
と、普段から腕に龍の刺青をして
強そうなことばかり言っている出入りの熊五郎に
応援を頼みたいと申し出る。

突然だんなが呼んでいると聞いた熊、
さてはしくじったかとびくびくして、
だんなの前に出ると、
言われもしないうちから、
台所から酒とタクアン樽、それに下駄を三足盗んだことを
ぺらぺら白状してしまう。

だんなが渋い顔をしながらも、
「今日呼んだのはそんなことじゃない。
おまえは強いと聞いているが本当か」
と尋ねると、
熊五郎、途端に威勢がよくなり、
木曽で虎退治をしたとホラを吹くが、
化け物のことを聞かされると、急にぶるぶる震えだす。

しかたがないので、
逃がさないように店に禁足し、
夜になると番頭ともども、
真っ暗な土蔵の中にほっぽり込まれる。

二人がガタガタ震えていると、
やがて草木も眠る丑三ツ時。

蔵の奥で何かがピカリと光り、
ガラガラガラと大きな音。

生きた心地もない番頭と熊、
それでも怖いもの見たさでそっとのぞいてみると、
何と誰かが相撲を取っている。

行司の声で
「片やァ、竜紋、竜紋、
こなたァ、小柳、小柳ィ、
ハッケヨイ、ノコッタノコッタ……」

「番頭さん、ありゃ何です」

「だんなの言う通り、
質物の気が残ったんだ。
羽織の竜紋と小柳の帯が相撲を取ったんだ」

「あっ、また出た」

棚の掛け軸がすーっと開く。

よく見ると、
横町の藤原さんの質物の、
天神さま、つまりは菅原道真公の画像の掛け軸。

仰天していると、
衣冠束帯、梅の花を持った天神が現れて、
「こちふかばあー、においおこせようめのはなー」

……朗々と詠み上げ、
「こりゃ番頭。
藤原方に利上げせよと申し伝えよ。
あァあ、また流されそうだ」

【うんちく】

伊勢屋稲荷に……

落語には、質屋は「伊勢屋」という屋号で
たびたび登場します。これは、質商は
伊勢出身の者がほとんどだったからです。
「伊勢屋稲荷に犬の糞」と
江戸名物の一つに挙げられるくらい、
江戸にはやたらに質屋が多かったのです。

落語の「大工調べ」で、
因業大家の源六が奉行に、

「その方、質屋の株を持っておるのか?」

と脅かされたように、旧幕時代は
質屋は株売買による許可制でした。
大きく分けて本質・脇質があり、
本質は規模の大きな、正規の質屋。
入質には本人のほかに
請け人(連帯保証人)の判が必要でした。

脇質の方は今でいう消費者金融で、
請け人がいらない代わりに
質流れの期限は一ヶ月。
この噺のサゲ(オチ)にある「利下げ」とは、
期限が来たとき、利子を今までより
多く払って、質流れを食い止めることです。
天保年間(1830-44)以後は、
期限は八か月に延ばされました。

演者と演出

大阪落語の「ひちやぐら」が
古くから江戸に移されて演じられていました。

熊さんの大言壮語と、いざとなったときの
腰抜けぶりの落差は、現桂歌丸で聞くと
たまらないおかしさです。

六代目三遊亭円生は、戦後
大阪の四代目桂文団治に教わって、
得意にしていましたが、
最後の天神の場面を古風に
風格豊かに演じました。
現在では、歌丸のほか、円生門下の
三遊亭円弥、同生之助らが演じ、
本家大阪では、やはり桂米朝のものです。

上方のオチは、番頭が
「あ、流れる思うとる」
と言ってサゲるやり方もありました。

おすすめCD質屋蔵

|

« 十徳(じっとく)   | トップページ | 猫と金魚(ねこときんぎょ)  »

落語のあらすじ 」カテゴリの記事

コメント

伊勢屋稲荷に・・・・

落語には、質屋は「伊勢屋」という屋号で
たびたび登場します。これは、質商は
伊勢出身の者がほとんどだったからです。
「伊勢屋稲荷に犬の糞」と
江戸名物の一つに挙げられるくらい、
江戸にはやたらに質屋が多かったのです。

落語の「大工調べ」(未アップ)で、
因業大家の源六が奉行に、

「その方、質屋の株を持っておるのか?」

と脅かされたように、旧幕時代は
質屋は株売買による許可制でした。
大きく分けて本質・脇質があり、
本質は規模の大きな、正規の質屋。
入質には本人のほかに
請け人(連帯保証人)の判が必要でした。

脇質の方は今でいう消費者金融で、
請け人がいらない代わりに
質流れの期限は一ヶ月。
この噺のサゲ(オチ)にある「利下げ」とは、
期限が来たとき、利子を今までより
多く払って、質流れを食い止めることです。
天保年間(1830-44)以後は、
期限は八ヶ月に延ばされました。

投稿: たか | 2004.11.04 10:19

演者と演出

大阪落語の「ひちやぐら」が
古くから江戸に移されて演じられていました。

熊さんの大言壮語と、いざとなったときの
腰抜けぶりの落差は、現桂歌丸で聞くと
たまらないおかしさです。

六代目三遊亭円生は、戦後
大阪の四代目桂文団治に教わって、
得意にしていましたが、
最後の天神の場面を古風に
風格豊かに演じました。
現在では、歌丸のほか、円生門下の
三遊亭円弥、同生之助らが演じ、
本家大阪では、やはり桂米朝のものです。

上方のオチは、番頭が

「あ、流れる思うとる」

と言ってサゲるやり方もありました。


投稿: たか | 2004.11.04 10:38

「質屋庫」の原話

はっきりはしませんが、曲亭馬琴が文化7(1810)年に刊行した
「昔語質屋庫(むかしがたりしちやのくら)」という
中型読本に、質物の古物の掛軸などに描かれた
諸葛孔明や平将門などが夜な夜な抜け出して、大騒ぎを
やらかすという筋立てがあり、このあたりにヒントを
得ているものと思われます。さらに、これをもとに
河竹黙阿弥(当時河竹新七)が、富本・清元の掛け合いによる
滑稽な舞踊劇「質庫魂入替(しちやのくらら こころのいれかえ)を創作、
慶応3(1867)年2月、江戸・市村座で上演しました。

投稿: たか | 2012.10.07 04:53

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/60017/1852984

この記事へのトラックバック一覧です: 質屋蔵(しちやぐら):

» ★★★ 予 告 ★★★ 5月25日より『第9回質流れフェア』... [池袋東口・越後屋質店/ブログページ]
毎回大変なご好評を頂いております楽天フリマ名物『第9回質流れフェア』が、25日から開催されます。これに先立ち、現在楽天フリマでは第9回質流れフェアオープン直前『前夜祭オークション』を開催中です。当店からも前夜祭らしく盛り上げようと、高級時計を続々【1円...... [続きを読む]

受信: 2005.05.21 18:57

« 十徳(じっとく)   | トップページ | 猫と金魚(ねこときんぎょ)  »