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2004.11.03

二番煎じ(にばんせんじ)

二番煎じ

自身番でも飲酒はご法度。江戸時代の常識を踏まえてお楽しみください。

火事は江戸の華で、
特に真冬は大火事が耐えないので、
町内で自身番を置き、
商家のだんな衆が交代で火の番として、
夜巡回することになった。

寒いので手を抜きたくても、
定町廻り同心の目が光っているので、しかたがない。

そこで月番のだんなの発案で、
二組に分かれ、交代で、
一組は夜回り、一組は番小屋で
酒をのんで待機していることに決めた。

最初の組が見回りに出ると、
凍るような寒さ。

みな手を出したくない。

宗助は提灯を股ぐらにはさんで歩くし、
拍子木のだんなは両手を袂へ入れたまま打つので、
全く音がしない。

鳴子係のだんなは前掛けに紐をぶら下げて、
歩くたびに膝で蹴る横着ぶりだし、
金棒持ちの辰つぁんに至っては、
握ると冷たいから、
紐を持ってずるずる引きずっている。

誰かが「火の用心」と大声で呼ばわらなくてはならないが、
拍子木のだんなにやらせると
低音で「ひィのよォじん」と、
謡の調子になってしまうし、
鳴子のだんなだと「チチチンツン、ひのよおおじいん、よっ」と新内。

辰つぁんは辰つぁんで、
若いころ勘当されて吉原の火廻りをしたことを思い出し、
「ひのよおおじん、さっしゃりましょおお」
と廓の金棒引き。

一苦労して戻ってくると、
やっと火にありつける。

一人が月番に、
酒を持ってきたからみなさんで、と申し出た。

「ああたッ、ここをどこだと思ってるんです。自身番ですよ。
役人に知れたら大変です」

とはいうものの、それはタテマエ。

酒だから悪いので、煎じ薬のつもりならかまわないだろうと、
土瓶の茶を捨てて「薬」を入れ、
酒盛りが始まる。

そうなると肴が欲しいが、
おあつらえ向きにもう一人が、猪の肉を持ってきたという。

それも、土鍋を背中に背負ってくるソツのなさ。

一同、先程の寒さなどどこへやら、
のめや歌えのドンチャン騒ぎ。

辰つぁんの都々逸がとっ拍子もない蛮声で、
たちまち同心の耳に届く。

「ここを開けろッ。番の者はおらんかッ」

慌てて土瓶と鍋を隠したが、
全員酔いも醒めてビクビク。

「あー、今わしが『番』と申したら『しっ』と申したな。あれは何だ」

「へえ、寒いから、シ(火)をおこそうとしたんで」
「土瓶のようなものを隠したな」
「風邪よけに煎じ薬をひとつ」

役人、にやりと笑って
「さようか。ならば、わしにも煎じ薬を一杯のませろ」

しかたなく、そうっと茶碗を差し出すと
ぐいっとのみ
「ああ、よしよし。これはよい煎じ薬だな。
ところで、さっき鍋のようなものを」

「へえ、口直しに」
「ならば、その口直しを出せ」

もう一杯もう一杯と、
酒も肉もきれいに片づけられてしまう。

「ええ、まことにすみませんが、
煎じ薬はもうございません」

「ないとあらばしかたがない。
拙者一回りまわってくる。二番を煎じておけ」

【うんちく】

火の番

自身番については、「そこつ長屋」でも
ふれましたが、町内の防火のため、
表通りに面した町家では、必ず輪番で人を出し、
火の番、つまり冬の夜の夜回りをすることに
なっていました。

といっても、それはタテマエで、たいてい、
「番太郎」と呼ぶ番人をやとって、火の番を
代行させることが黙認されていたのです。

ところが、この噺はそろそろ物情騒然としてきた
幕末の設定ということで、お奉行所のお達しで
やむなく旦那衆がうちそろって出勤し、
慣れぬ厳冬の夜回りで悲喜こもごもの騒動を
引き起こします。

二番煎じ

漢方薬を一度煎じた後、さらに水を加え、
薄めて煮出したものです。金気をきらい、
土瓶などを用いました。

吉原の火回り

歌舞伎「助六所縁江戸桜」で、序幕に
二人の廓の若い衆が、鉄棒を突き、
棒先の鉄輪を鳴らしながら登場するシーンを、
芝居好きの方ならご記憶と思います。

あれが「金棒ひき」で、火回りの際はもちろん、
おいらん道中など、重要なイベントの前にも、
先触れとして出ます。

「火の用心、さっしゃりましょう」

という掛け声は、吉原に限られていました。

なお、長屋のこうるさい神さん連中が
「金棒引き」と呼ばれるのは、火の番が
鉄輪をガチャガチャ鳴らして歩くように、
町内のうわさをあることないこと
かまびすしく触れて回ることからきています。

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