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2004.11.17

道灌(どうかん)/落語

道灌

ご隠居と八っつぁんのやりとり。前座がよくやるこっけい噺です。

八五郎が隠居の家に遊びに行き、
地口(駄洒落)を言って遊んでいるうち、
妙な張りまぜの屏風絵が目に止まる。

男が椎茸の親方みたいな帽子をかぶり、
虎の皮の股引きをはいて突っ立っていて、
側で女が何か黄色いものを持ってお辞儀している。

これは大昔の武将で歌詠みとしても知られた太田道灌が、
狩の帰りに山中で村雨(にわか雨)に逢い、
あばら家に雨具を借りにきた場面。

椎茸帽子ではなく騎射笠で、
虎の皮の股引きに見えるのは行縢(むかばき)。

中から出てきた娘が黙って山吹の枝を差し出し
引っ込んでしまった。

道灌、意味がわからずに戸惑っていると、
家来が畏れながらと
「これは『七重八重花は咲けども山吹のみのひとつだになきぞ悲しき』
という古歌をなぞらえて、
『実の』と『蓑』を掛け、雨具はないという断りでございましょう」
と教える。

道灌「ああ、余は歌道にくらい」と嘆き、
その後一心不乱に勉強して立派な歌人になった。
という隠居の説明。

「カドウ」は「和歌の道」の意。
八五郎、わかったのかわからないのか、
とにかくこの「ナナエヤエー」が気に入り、
自分でもやってみたくてたまらない。

表に飛び出すと、折から大雨。

長屋に帰ると、
いい具合に友達が飛び込んできた。

しめたとばかり
「傘を借りにきたんだろ」

「いや、傘は持ってる。
提灯を貸してくんねえかな。
これから本所の方に用足しに行くんだが、
暗くなると困るんだ」

そんな用心のいい道灌はねえ。

傘を貸してくれって言やあ、
提灯を貸してやると言われ、
しかたなく
「じゃしょうがねえ。傘を貸してくんねえ」

「へっ、来やがったな。
てめえが道灌で、オレが女だ。
こいつを読んでみな」

「何だ、ななへやへ、
花は咲けどもやまぶしの、
みそひとだると、なべとかましき……
こりゃ都々逸か?」

「てめえは歌道が暗えな」
「角が暗えから、提灯を借りにきた」

【うんちく】

前座の悲哀「道灌屋」

「道灌」は前座噺で、たいてい入門すると、
このあたりから稽古することが多いようです。

前半は伸縮自在で、
演者によってギャグその他、
自由につくれるので、
後に上がる先輩の都合で引き伸ばしたり、
逆に短く切って下りたりしなければならない前座にとっては、
まずマスターしておくべき噺なのでしょう。

名人・八代目桂文楽が入門して、
初めて教わったのもこの「道灌」。
一年間、「道灌」しか教えてくれなかったそうです。

雪の降る寒い夜、牛込の藁店という席に前座で
出たとき、お次がまったく来ず、
つなぎに立て続けに三度、
それしか知らない「道灌」をやらされ、
泣きたい思いをしたという、
同師の思い出話。

そのとき付いたあだ名が「道灌屋」。

たいして面白くもないエピソードですが、
文楽師の人となりが想像できますね。

志ん生や金馬の「道灌」

あらすじの参考にしたのは五代目志ん生の
速記ですが、どちらかというと後半の八五郎の
「実演」に力を入れ、全体にあっさりと演じています。

かつての大看板でほかによく演じたのが、
三代目金馬でした。金馬では、姉川の合戦の
いくさ絵から「四天王」談義となり、ついで
「太平記」の児島高徳を出し、大田道灌に
移っていく段取りです。

太田道灌(1432~86)って?

太田道灌(1432~86)は、
長禄元年(1457)、江戸城を築いたので有名です。

この人、上杉家の重臣なんですね。

主人の上杉(扇谷)定正に相模国糟谷で、
入浴中に暗殺されました。

歌人としては、文明6年(1474)、
江戸城で催した「江戸歌合せ」で知られています。

七重八重……

「後拾遺集」所載の中務卿・兼明親王の
歌です。

行縢

狩の装束で、獣皮で作られ、腰に巻いて
下半身を保護するためのものです。

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コメント

僕の勝手な考え方を書かせてください。
道灌公が「ああ,余は歌道にくらい」と言う時,まだ目の前に,この女性がいたのではないでしょうか。
志ん生が,いるような感じで演っていたのを聴いたことがあります。
そうすると,道灌公はこのセリフを,空を仰ぐようにしてしみじみ言ったのではなくて(100%の自責の念ではなく),むしろこの女性に対して恥ずかしい気持ちだということを,相手に伝えようとしたのだと思うんです。
当時のお殿様が,民間人にこういった対応をしたと考えると,この人の穏やかさがジワッと出てくるような気がします。

投稿: TAKAV | 2007.06.27 12:32

この女性の名は「紅皿」さんというそうです。

投稿: 中西桔梗 | 2007.07.10 14:23

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