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2004.11.17

湯屋番(ゆやばん)/落語

湯屋番

落語のお得意のキャラ、道楽な若だんなもの。のんきでいいですねえ。

道楽の末、勘当中の若だんな、
出入りの大工・熊五郎宅の二階に居候の身。

お決まりでかみさんがいい顔をしない。

飯も、お櫃を濡れしゃもじでペタペタたたき、
平たくなった上っ面をすっと削ぐから、中ががらんどう。

亭主の熊は、ゴロゴロしていてもしかたがないから、
奉公してみたらどうですと言い出した。

ちょうど友達の鉄五郎が、
日本橋槇町で奴湯という銭湯をやっていて、
奉公人を募集中だという。

若だんな、途端に身を乗り出し、
「女湯もあるかい」

「そりゃあります」

「へへ、行こうよ」

紹介状を書いてもらい、
湯屋にやってきた若だんな、
いきなり女湯へ飛び込み「こんちわァ」

度肝を抜かれた主人が、
まあ初めは外廻りでもと言うと、
札束を懐に温泉廻りする料簡。

木屑拾いとわかると
「色っぽくねえな。
汚な車を引いて汚な半纏汚な股引き、
歌右衛門のやらねえ役だ」

それじゃ煙突掃除しかないと言うと
「煙突小僧煤之助なんて、海老蔵のやらねえ役だ」
と、これも拒否。

狙いは一つだけ。

強引に頼み込んで、
主人が昼飯に行く間、待望の番台へ。

ところが当て外れで女湯はガラガラ。

見たくもない男湯ばかりウジャウジャいる。

鯨のように湯を吹いているかと思えば、
こっちの野郎は汚いケツで、
おまけに毛がびっしり。

どれも、いっそ湯船に放り込み、
炭酸でゆでたくなるようなのばかり。

戸を釘付けにして、
男を入れるのよそう、
と番台で、
現実逃避の空想にふけりはじめる。

女湯にやってきたあだな芸者が連れの女中に
「ごらん。ちょいと乙な番頭さんだね」
と話すのが発端。

お世辞に糠袋の一つも出すと
「ぜひお遊びに」
とくりゃあしめたもの。

家の前を知らずに通ると女中が見つけ、
「姐さん、お湯屋の番頭さんですよ」

呼ぶと女は泳ぐように出てくる。

「お上がりあそばして。今日はお休みなんでしょ」

「へい。釜が損じて早仕舞い」
じゃ色っぽくないから、
「墓参りに」がいい。

「お若いのに感心なこと。まあいいじゃありませんか」

「いえ困ります」

番台で自分の手を引っ張っている。

盃のやりとりになり、
女が
「今のお盃、ゆすいでなかったの」
と、すごいセリフ。

じっとにらむ目の色っぽさ。

「うわーい、弱った」
「おい、あの野郎、てめえのおでこたたいてるよ」

そのうち外はやらずの雨。

女は蚊帳をつらせて
「こっちへお入んなさいな」

ほどよくピカッ、ゴロゴロとくると、
女は癪を起こして気を失う。

盃洗の水を口移し。

女がぱっちり目を開いて
「今のはうそ」

ここで芝居がかり。

「雷さまは恐けれど、あたしのためには結ぶの神」
「ヤ、そんなら今のは空癪か」
「うれしゅうござんす、番頭さん」

ここでいきなりポカポカポカ。

「何がうれしゅうござんすだい。
馬鹿、間抜け。おらァけえるんだ。下駄を出せ」

犬でもくわえていったか、下駄がない。

「そっちの本柾のをお履きなさい」
「こりゃ、てめえの下駄か?」
「いえ、中のお客ので」
「よせやい。出てきたら文句ゥ言うだろう」
「いいですよ。順々に履かせて、一番おしまいは裸足で帰します」

【うんちく】

若だんな奮戦記

落語では、若だんなとくれば、
「明烏」「千両みかん」のような
少数の変りダネを除いて、おおかた
吉原狂い→親父激怒→勘当→居候と、
コースは決まっています。

「火事息子」「清正公酒屋」「唐茄子屋政談」
「船徳」「へっつい幽霊」「宮戸川」「山崎屋」
「五目講釈」「素人車」などなど、
懲りないドラ息子の奮戦記は多数ありますが、
中でもこの「湯屋番」は、その見事な図々しさで、
勘当ばなしではもっともよく知られています。

古くから口演されてきましたが、明治の
初代三遊亭円遊がギャグ満載の爆笑噺に改造、
ついで三代~五代目柳家小さんが、現行の
スタンダードな型をつくりました。

鼻の円遊の「湯屋番」

明治の「鼻の円遊」こと
初代三遊亭円遊の速記では、若だんなが
歩きながら、湯屋を乗っ取って
美人のお内儀といちゃつく想像を巡らすところが
現行の演出と異なります。

最後のオチは、若だんなが湯銭をちょろまかして
懐に入れ、美女とごちそうを食べる想像をするのを
主人が見つけ、
「その勘定は誰がする?」
「先方の(空想の)女がいたします」
としています。

四代目、五代目小さんの「湯屋番」

当サイトのあらすじは、五代目小さんの速記を
参考にしましたが、男湯を見てげんなりする
くだり、番台での一人芝居など、ギャグも
含めてほとんど四代目(先代)小さんが
完成した型で、それが先年没した五代目小さんに
そのまま継承されました。

なお、四代目小さんは、明治44年の帝劇開場を
当て込み、若だんなが豪勢な浴場を建て、
朝野の名士がやって来る幻想にひたる
改作「帝国浴場」を創作しました。
もちろん、遠い昔のキワモノなので、
今はまったく忘れられています。

六代目円生の「湯屋番」

めったにやりませんでしたが、
やればまったく手を抜かず、
四十分はかかる長講で、
今レコードを聴いても一瞬もダレさせない、
見事な出来です。
(ま、これは編集の妙ではありますが)

かみさんが亭主に文句を言う場面から始まり、
若だんなが、湯屋の亭主が近々死ぬ予定を
勝手に立て、美人の神さんの入り婿に直る下心で
自分から湯屋に行くと言い出すところが、
円生演出の特色です。

空想の中で都都逸をうたいすぎてのぼせ、
色っぽい年増の神さんに介抱されて一目ぼれする
ノロケをえんえんと語る場面は圧巻です。

湯屋の名を、
古くは三遊派が「桜湯」、
柳派(小さんの系統)が「奴湯」と
決まっていましたが、
六代目円生は「浜町の梅の湯」
でやっていました。

居候あれこれ

他人の家に食客(しょっかく)として転がり込む
迷惑な人種のことですが、
別名「かかりうど」「権八」、
また、縮めて「イソ」とも呼ばれます。
「誰々方に居り候」という、手紙文から出た言葉です。

居候の川柳は多く、有名な
「居候三杯目にはそっと出し」
ほか、
「居候角な座敷を丸く掃き」
「居候たばという字をよけてのみ」
「出店迷惑さま付けの居候」
など、いろいろあります。落語のマクラでは
適宜、これらを引用するのが決まりごとです。

最後の句の「出店」は「でだな」で、
居候の引き受け先のことです。

風呂屋じゃなくて湯屋

江戸では風呂屋でなく、「湯屋」。
これはもう、絶対です。
さらに縮めて「湯」で十分通じます。
明治・大正まで、東京の下町では、
女子供は「オユーヤ」と呼んでいました。

天正19年(1591)に、伊勢与一という者が、
呉服橋御門の前に架かる銭瓶橋のあたりで
開業したのが江戸の湯屋の始まりとされます。
ただし、当時は上方風の蒸し風呂でした。

日本橋槇(まき)町って、どこ?

現在は東京都中央区八重洲二丁目、京橋一丁目。
東京駅八重洲口の真向かいです。

南槇町、北槇町に分かれ、付近に材木商が
多かったところからついた地名といわれます。
北槇町一帯は、元は火除地でした。

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コメント

また、記事に「湯屋番」の話を書いたので、
こちらにリンクさせていただきました。
メルマガの落語通も楽しみに拝見させていただいております。

投稿: yasuragi | 2005.11.14 21:58

yasuragiさま

ありがとうございます。
メルマガもがんばります。
よろしくです。

投稿: 古木優 | 2005.11.16 15:53

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