« 湯屋番(ゆやばん)/落語 | トップページ | 権兵衛狸(ごんべえだぬき) 落語 »

2004.11.19

蔵前駕籠(くらまえかご) 落語

維新間際。江戸のすさんだ世情も落語にかかれば、ほら。 この1枚:蔵前駕籠

ご維新の騒ぎで世情混乱を極めているさ中、
神田・日本橋方面と吉原を結ぶ蔵前通りに、
夜な夜な追剥が出没した。

それも十何人という徒党を組み、
吉原通いの、金を持っていそうな駕籠客を襲って、
氷のような刃を突きつけ
「我々は徳川家にお味方する浪士の一隊。
軍用金に事欠いておるので、
その方に所望いたす。
命が惜しくば、身ぐるみ脱いで置いてゆけ」
と素っ裸にむくと
「武士の情け。ブリーフだけは勘弁してやる」
「へえ、ありがとうございます」

こんなわけで、
茅町の江戸勘のような名のある駕籠屋は、
評判にかかわるので暮れ六ツの鐘を合図に、
それ以後は一切営業停止。

ある商家のだんな。

吉原の花魁(おいらん)から、
ぜひ今夜来てほしい
との手紙を受け取ったため、
意地ずくでも行かねばならない。

そこで、渋る駕籠屋に掛け合って、
追いはぎが出たらおっぽり出してその場で逃げてくれていい、
まさか駕籠ぐるみぶら下げてさらっていくことはないだろうから、
翌朝入れ物だけ取りに来ればいい
と、蕎麦屋にあつらえるようなことを言い、
駕籠賃は倍増し、
酒手は一人一分ずつという条件もつけてようやく承知させる。

こっちも支度があるからと、
何を思ったかだんな、
くるくるとフンドシ一つを残して着物を全部脱いでしまった。

それをたたむと、
煙草入れや紙入れを間に突っ込み、
駕籠の座ぶとんの下に敷いてどっかと座り、
「さあ、やれ」

駕籠屋が
「だんな、これから風ェ切って行きますから寒いでしょう」
とからかうと、
「向こうに着きゃ暖め手がある」
と変なノロケを言いながら、
いよいよ問題の蔵前通りに差しかかる。

天王橋を渡り、
前方に榧寺門前の空地を臨むと、
何やら怪しい影。

「だんあ、もう出やがったあ。
お約束ですから、駕籠をおっぽりますよっ」
と言い終わるか終わらないかのうちに、
ばらばらっと取り囲む十二、三人の黒覆面。

駕籠屋はとっくに逃げている。

ぎらりと氷の刃を抜くと、
「我々は徳川家にお味方する浪士の一隊。
軍用金に事欠いておるのでその方に所望いたす。
命が惜しくば……
これ、中におるのは武家か町人か」

刀の切っ先で駕籠のすだれをぐいと上げると、
素っ裸の男が腕組み。

「うーん、もう済んだか」

【うんちく】

江戸の駕籠屋

蔵前茅町の江戸勘、日本橋本町の赤岩、芝神明の
初音屋を、江戸三駕籠屋と称しました。

江戸勘と赤岩は吉原通い、初音屋は品川通いの客が
多く利用したものです。

これを宿駕籠といい、個人営業の辻駕籠とは
駕籠そのものも駕籠かきも、むろん料金も格段に違いました。

駕籠にもランクがあり、宝仙寺、あんぽつ、四ツ手と
分かれていましたが、もっとも安い四ツ手は
垂れ駕籠(むしろのすだれを下ろす)、
あんぽつになると引き戸でした。

ルーツは「今昔物語」に

いかにも八代目正蔵(彦六)師が得意にして
いた噺らしい、地味で小味な一篇ですが、
原話は古く、平安末期成立の説話集「今昔物語」
巻二十八中の「阿蘇の史、盗人にあひて謀りて
逃げし語」です。

時代がくだって安永4年(1775)刊の笑話集
「浮世はなし鳥」中の「追剥」では、駕籠屋の方が
気を利かせてあらかじめ客を裸にし、大男の
追剥が出ると

「アイ、これはもふ済みました」

と、すでに「蔵前駕籠」と同じオチになっています。

榧寺門前

榧寺は現在の東京都台東区蔵前三丁目、
池中山正覚寺のことです。浄土宗で
芝増上寺に属します。

昔、境内に榧の大木があったので、この名が
付いたといわれますが、その榧の木は、
秋葉山の天狗が住職と賭碁をして勝ち、そのかたに
実を全部持って行ったために枯れ、その枯れ木で
天狗の木像を刻んで本尊としたという伝説があります。

江戸時代は水戸街道に面し、表門から本堂まで
かなり長かったといいます。

|

« 湯屋番(ゆやばん)/落語 | トップページ | 権兵衛狸(ごんべえだぬき) 落語 »

落語のあらすじ 」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/60017/2003092

この記事へのトラックバック一覧です: 蔵前駕籠(くらまえかご) 落語:

« 湯屋番(ゆやばん)/落語 | トップページ | 権兵衛狸(ごんべえだぬき) 落語 »