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2004.11.20

野ざらし(のざらし) 落語

野ざらし

幽霊に腰をもませる……。薄気味悪くも、悪い気はしませんなあ。

ころは明治の初め。

長屋が根継(改修工事)をするので、
三十八軒あったうち、
三十六軒までは越してしまって、
残ったのは職人の八五郎と、
もと侍で釣り道楽の尾形清十郎の二人だけ。

昨夜、
隣で「一人では物騒だったろう」などと、
清十郎の声がしたので、
てっきり女ができたと合点した八五郎、
「おまえさん、釣りじゃなくて情婦のところへ行くんでしょう?」
とカマをかけると
「いや、面目ない。こういうわけだ」
と清十郎が始めた打ち明け話がものすごい。

昨日、向島から釣りの帰り、
浅草寺の六時の鐘がボーンと鳴ると、
にわかに葦が風にざわざわ。

鳥が急に茂みから飛び立ったので驚き、
葦の中を見ると野ざらしになった髑髏が一つ。

清十郎、哀れに思って手向けの回向をしてやった。

「狸を食った? ひどいね」

「回向したんだ」

「猫もねらった」

「わからない男だ。五七五の句を詠んでやったのだ。
一休和尚の歌に
『骨隠す皮には誰も迷うらん皮破れればかくの姿よ』
とあるから、それを真似て
『野を肥やせ骨の形見のすすきかな』
と浮かんだ」

骸骨の上に持参した酒をかけてやり、
いい功徳をしたと気持ちよくその晩寝入っていると、
戸をたたく者がいる。

出てみると女で
「向島の葦の中から来ました」

ぞっとして、
狸が化かしに来たのだろうとよく見ると、
十六、七の美しい娘。

娘の言うには
「あんな所に死骸をさらし、迷っていましたところ、
今日はからずもあなたのご回向で浮かぶことができましたので、
お礼に参りました。
腰などお揉みしましょう」

結局、一晩幽霊としっぽり。

八五郎、すっかりうらやましくなり、
自分も女を探しに行こうと強引に釣り竿を借り、
向島までやってきた。

大勢釣り人が出ているところで
「ポンと突き出す鐘の音は陰にこもってものすごく、
鳥が飛び出しゃコツがある」
と能天気に鼻歌を唄うので、
みんなあきれて逃げてしまう。

葦を探すと骨が見つかったので、
しめたとばかり酒をどんどんぶっかける。

「オレの家は門跡さまの前、
豆腐屋の裏の突き当たりだからね。
酒肴をそろえて待っているよ、ねえさん」
と、俳句も何も省略して帰ってしまった。

これを聞いていたのが
悪幇間の新朝という男。

てっきり八五郎が葦の中に女を連れ込んで
色事をしていたと勘違い。

住所は聞いたから、
今夜出かけて濡れ場を押さえ、
いくらか金にしてやろうとたくらむ。

一方、八五郎、
七輪の火をあおぎながら、
今か今かと待っているがいっこうに幽霊が現れない。

もし門違いで隣に行ったら大変だと気を揉むところへ、
「ヤー」
と野太い声。

幇間
「どうもこんちはまことに。
しかし、けっこうなお住まいで、
実に骨董家の好く家でゲスな」
とヨイショを始めたから、八五郎は仰天。

「恐ろしく鼻の大きなコツだが、
てめえはいったいどこの者だ」

「新朝という幇間(たいこ)でゲス」

「太鼓? はあ、それじゃ、葦の中のは馬の骨だったか」

【うんちく】

元祖は中華風「釜掘り」

原典は中国・明代の笑話本「笑府」中の「学様」で、
これは最初の骨が楊貴妃、
二番目に三国志の豪傑・張飛が登場、

「拙者の尻をご用立ていたそう」

となります。さらに、これの直接の影響か、
落語にも古くは類話「支那の野ざらし」がありました。
こちらは「十八史略」中の「鴻門(こうもん)の会」
で名高い英雄・樊會(はんかい)が現れ、

「肛門(=鴻門)を破りに来たか」

という、これまた臭気ただようオチです。

大阪では五右衛門が

上方落語では「骨釣り」と題します。

若旦那が木津川へ遊びに行き、そこで
骨を見つける演出で、最後には幇間ではなく、
大盗賊・石川五右衛門登場。これがまた
尻を提供するというので、

「ああ、それで釜割りにきたか」。

言うまでもなく、釜ゆでとそっちの方の
「カマ」を掛けたものですが、どうも今回は
こんなのばかりで……。

それではここらで、正統的(?)な東京の「野ざらし」
をまじめに。

因果噺から滑稽噺へ

こんな、尻が疼くような下品な噺では困ると嘆いたか、
禅僧出身の二代目林家正蔵(生没年不詳)が、
妙な連中の出現するオチの部分を跡形もなくカット、
新たに仏教説話的な因果噺にこしらえ直しました。

二代目正蔵は「こんにゃく問答」の作者ともいわれます。

ところが、明治になって、それをまた
ひっくり返したのが、爆笑王・鼻の円遊こと
初代三遊亭円遊です。

円遊は「手向けの酒」の題で演じ、男色の部分は
消したまま、あらすじのような滑稽噺として
リサイクルさせました。

「野ざらしの」柳好・柳枝

昭和初期から戦後にかけては、明るく
リズミカルな芸風で売った三代目春風亭柳好、
端正な語り口の八代目春風亭柳枝が、それぞれ
この噺を得意としました。

特に柳好は「鐘がボンと鳴りゃ上げ潮南・・・・」の
鼻唄の美声が評判で、「野ざらしの・・・・」と一つ名で
うたわれました。

柳枝も軽妙な演出で十八番としましたが、
サゲ(オチ)まで演らず、八五郎が
骨に酒をかける部分で切っていました。
今はほとんどこのやり方です。

現在もよく高座にかけられ、TBS落語研究会でも
ここ2年で3~4回は演じられていますが、
オチの分かりにくさや制限時間という事情はあるにせよ、
こういう席でさえも、途中でチョン切る
上げ底版がまかり通っているのは考えものです。

馬の骨?

幇間(たいこ)と太鼓を掛け、太鼓は
馬の皮を張ることから洒落ただけです。

牡馬が勃起させた陰茎で下腹をたたくのを
「馬が太鼓を打つ」というので、
そこからきたという説もあります。

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コメント

いくらか鐘にして⇒いくらか金にして・・・の間違いだと思うが、どうでしょう?

投稿: 松下弘明 | 2008.03.26 10:20

松下さま
すみません。
そのとおりです。
すぐ修正いたします。

投稿: ふる | 2008.03.30 10:08

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