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2004.11.21

首提灯(くびぢょうちん) 落語

滑稽噺の真骨頂。このくらいふざけた噺はざらにない! この1枚:首提灯

芝山内に追いはぎや辻斬りが
毎日のように出没していた幕末のころ。

これから品川遊廓に繰り込もうという町人一人。

すでに相当きこしめしていると見え、
千鳥足でここを通りかかった。

かなり金回りがいいようで、
これからお大尽遊びだ、
と言いかけて口を押さえ
「……おい、ここはどこだい。
おっそろしく寂しいところだ。
……おや、芝の山内だ。
物騒な噂のある場所で、
大金を持ってるはまずかったかな……」

さすがに少し酔いが醒めて、
それでも空元気を出し、
何でも逆を言えば反対になるというので
「さあ、辻斬り出やがれ。追はぎ出ろい。
出たら塩つけてかじっちまうぞ」
と、でかい声を張り上げる。

増上寺の四ツ(午後十時ごろ)の鐘がゴーン。

あたりは人っ子一人通らない。

「……おい、待て、おい……」

いきなり声をかけられて、
「ぶるっ、もう出たよ。
何も頼んだからって、
こうすみやかに出なくても……」

こわごわ提灯の灯をかざして顔を見上げると、
背の高い侍。

「おじさん、何か用か?」

「武士をとらえておじさんとは何を申すか。
……これより麻布の方へはどうめえるか、町人」

なまっていやがる……。

ただの道聞きだという安心、
田舎侍だから大したことはねえという侮り、
脅かされたむかっ腹、
それに半分残っていた酒の勢いも手伝って、
「どこィでも勝手にめえっちまえ、この丸太ん棒め。
ぼこすり野郎、かんちょうれえ。何ィ? 
教えられねえから、教えねえってんだ。
変なツラするねえ。
このモクゾー蟹。
何だ? 大小が目に入らぬかって? 
二本差しが怖くて焼き豆腐は食えねえ。
気のきいた鰻は五本も六本も刺してらあ。
うぬァ試し斬りか。さあ斬りゃあがれ。
斬って赤え血が出なかったら取りけえてやる。
このスイカ野郎」

カッと痰をひっかけたから、侍の紋服にベチャッ。

刀の柄に手が掛かると見る間に
「えいやあっ」

……侍、刀を拭うと、
謡をうたって遠ざかる。

男、「サンピンめ、つらァ見やがれ」
と言いかけたが、声がおかしい。

歩くと首が横にずれてくる。

手をやると血糊がベッタリ。

「あッ、斬りゃあがった。
ニカワでつけたらもつかな。
えれえことになっちゃった」

慌てて走っていくと、
突き当たりが火事で大混雑。

鳶の者に突き当たられて、
男、自分の首をひょいと差し上げ
「はいごめんよ、はいごめんよ」

【うんちく】

原話と演者

安永3年(1774)刊の「軽口五色帋」中の
「盗人の頓智」ですが、これは、忍び込んだ泥棒が
首を斬られたのに気付かず、逃げて外へ出ると
暗闇で、思わず首を提灯の代わりにかざします。

もともと小ばなしだったのを、明治期に
四代目橘家円蔵が一席にまとめたものです。
その円蔵直伝の六代目三遊亭円生八代目林家正蔵が得意としました。

現在でもよく演じられますが、
オチで、男が火事見舞いに駆けつけ、店先に、

「ヘイ、八五郎でございます」

と、自分の首を差し出すやり方もあります。

大阪の「上燗屋」

のみ屋で細かいのがなく、近くの古道具屋で
仕込み杖を買って金をくずした男が、
その夜入った泥棒を仕込み杖でためし斬り。
泥棒の首がコロコロ・・・・という筋立てで、
オチは同じです。

なお、首なしで口を利くという、やや似たパターンの
噺に、「館林」「胴取り」があります。

芝山内

品川遊郭からの帰り道だったため、
幕末には辻斬り、追剥などが頻繁に出没しました。
「武江年表」の文久3年(1863)の項にも、

「此頃、浪士徘徊して辻斬り止まず。両国橋畔に
其の輩の内、犯律のよしにて、二人の首級をかけて
勇威を示せり。所々闘諍(とうじょう)ありて穏ならず」

とあります。「蔵前駕籠」の舞台となった蔵前通り
辺りはまだ人通りがありましたが、こちらは当時は
荒野も同然。こんな物騒な場所はなかったでしょう。

江戸っ子の悪態解説

「ぼこすり野郎」の「ぼこすり」は蒲鉾用のすりこぎ。
「デクノボー」「大道臼(おおどううす)」などと同じく、
体の大きい者をののしった言葉です。

「かんちょうれえ(らい)」は弱虫の意味ですが、
語源は不明です。この男も分かっていません。

「モクゾー蟹」は、藻屑蟹ともいい、ハサミに
藻屑のような毛が生えている川蟹で、ジストマを
媒介します。要するに「生きていても役に立たねえ
木ッ葉野郎」の意味でしょう。

サンピン

元は渡り中間(ちゅうげん)や若党をののしる
言葉でしたが、のちにはもっぱら下級武士に対して
使われました。

中間の一年の収入が三両一分だからとも、三両と
一人扶持(日割計算で五合の玄米を支給)だった
からともいわれます。

田舎侍のことを別に「浅黄裏(着物の浅黄木綿の
裏地から)」「武左(ぶざ)」「新五左(しんござ)」
などとも呼びました。

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