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2004.11.26

薬缶(やかん)/落語

薬缶

なるほど、やかん命名の由来。落語はまったくためになる……。


この世に知らないものはないと広言する隠居。

長屋の八五郎が訪ねるたびに、
別に何も潰れていないが、
グシャ、グシャと言うので、
一度へこましてやろうと物の名の由来を次から次へ。

ところが隠居もさるもの、
妙てけれんなこじつけでケムにまく。

最初に、
いろいろな魚の名前は誰がつけたかという質問で戦闘開始。

「おまえはどうしてそう、愚なることを聞く。
そんなことは、どうでもよろしい」

「あっしは気になるんで。誰が名をつけたんです?」

「うるさいな。あれはイワシだ」

イワシは下魚といわれるが、
あれで魚仲間ではなかなか勢力がある
とゴマかす。

じゃ、イワシの名は誰がつけた
と聞くと、
ほかの魚が名をもらった礼に来て、
ところであなたの名は
と尋ねると、
「わしのことは、どうでも言わっし」

これでイワシ。

以下、まぐろは真っ黒だから。

ほうぼうは落ち着きがなく、方々泳ぎ回るから。

こちはこっちへ泳いでくるから。

ヒラメは平たいところに目があるから。

「カレイは平たいところに目が」
「それじゃヒラメと同じだ」
「うーん、あれはヒラメの家来で、家令をしている」

鰻はというと、昔はのろいのでノロといった。
あるとき鵜がノロをのみ込んで、
大きいので全部のめず四苦八苦。
鵜が難儀したから、
鵜、難儀、鵜、難儀、鵜難儀でウナギ。

話は変わって日用品。

茶碗は、置くとちゃわんと動かないから茶碗。

土瓶は土で、鉄瓶は鉄でできているから。

「じゃ、やかんは?」
「やでできて……ないか。昔は」
「ノロと言いました?」
「いや、これは水わかしといった」
「それをいうなら湯わかしでしょ」
「だからおまえはグシャだ。
水を沸かして、初めて湯になる」
「はあ、それで、なぜ水わかしがやかんになったんで?」
「これには物語がある」

昔、川中島の合戦で、
片方が夜討ちをかけた。

かけられた方は不意をつかれて大混乱。

ある若武者が自分の兜をかぶろうと、
枕元を見たがない。

あるのは水わかしだけ。

そこで湯を捨て、兜の代わりにかぶった。

この若武者が強く、敵の直中に突っ込む。

敵が一斉に矢を放つと、
水わかしに当たってカーンという音。

矢が当たってカーン、矢カーン、やかん。

蓋は、ボッチをくわえて面の代わり。

つるは顎へかけて緒の代わり。

やかんの口は、名乗りが聞こえないといけないから、耳代わり。

「あれ、かぶったら下を向きます。上を向かなきゃ聞こえない」
「その日は大雨。上を向いたら、雨が入ってきて中耳炎になる」
「それにしても、耳なら両方ありそうなもんだ」
「ない方は、枕をつけて寝る方だ」


【うんちく】

やかんが取り持つ日韓友好?

明和9年(1772)刊「鹿の子餅」中の「薬罐」は、
この噺の後半部分の、もっとも現行に近い原話ですが、
これは、日本の薬罐がはるばる釜山まで流れ着き、
韓国人が、これは兜ではないかと
議論することになっています。

様々なヴァリエーション

一昔前は、知ったかぶりを「やかん」と
呼んだほど、よく知られた噺です。

題名に直結する「矢があたってカーン」以外は、
自由にギャグが入れられる伸縮自在の噺なので、
昔から各師匠方が腕によりをかけて、工夫してきました。
名前の由来に入る前の導入部も、演者によって
様々です。

「矢がカーン」の部分では、隠居が「矢があたって」と
言う前に八五郎がニヤリと笑い、

「矢が当たるからカーンだね」

と先取りする演出もあります。
また、オチまでいかず、文字通り「矢カン」の部分で
切ることも、時間の都合でよくあります。

「やかん」のギャグいろいろ

●蛇はノソノソして、尻っぽばかりの虫(?)なので
屁といった。そのあとビーとなった(五代目志ん生)

●クジラは、必ず九時に起きるので、クジらあ。

●ステッキは、西洋人のは飾り付きで「すてっき」だから。
●ランプは、風が吹くとラン、プーと消えるから。
●ひょっとこは、不倫して、ヒョットして子が
 できるのではと、口をとがらしてふさいでばかりいると、
 月満ちてヒョッと産まれた子の口も曲がっていた。
 だから「ヒョット・子」(以上、初代三遊亭円遊)

「浮世根問」

五代目小さんがよく演じた「浮世根問」は、
大阪の「根問いもの」の流れをくみ、「やかん」と
モチーフは似ていますが、別系統の噺です。
「やかん」に比べると噺もずっと長く、質問も
はるかに難問(?)ぞろいです。請うご期待。

なお、大阪では、別に「やかん根問」があります。

根問って、なによ

「根」はルーツ。物事の根源。

それを「問う」わけですから、
要はいろいろなテーマについて質問し、
知ったかぶりの隠居がダジャレを含めて
でたらめな回答をする、
という形式の噺のことです。

大阪の根問ものには、
テーマ別に「商売根問」「歌根問」「絵根問」など、
さまざまなヴァージョンがありました。
                       
「やかん」は、形式は似ていても、
単に語源を次々と聞いていくだけですから、
「根問もの」よりもずっと軽いはなしになっています。(たか)

ついでに

「根問」という題名は大阪のものに限定されます。
どんなに似た内容の噺でも、
「やかん」「千早振る」など東京起源のものは
「根問」とは呼びません。

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