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2004.11.28

鼠穴(ねずみあな)  落語

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金にまつわる壮大かつシリアスな人間ドラマ、と思いきや……。ふざけんな!

酒と女に身を持ち崩した百姓の竹次郎。

おやじに譲られた田地田畑もみんな人手に渡った。

しかたなく、
江戸へ出て商売で成功している兄のところへ尋ね、
奉公させてくれと頼むが、
兄はそれより自分で商売してみろと励まし、
元手を貸してくれる。

竹次郎は喜び、
帰り道で包みを開くと、たったの三文。

馬鹿にしやがって
と頭に血が昇ったが、
ふと気が変わり、
地べたを掘っても三文は出てこないと思い直して、
これで藁のさんだらぼっちを買い集め、
ほどいて小銭をくくる「さし」をこしらえ、
売りさばいた金で空俵を買って草鞋を作る、
という具合に一心不乱に働く。

その甲斐あって二年半で十両ため、
女房も貰って女の子もでき、
ついに十年後には浅草蛤町に
蔵が三戸前ある立派な店の主人におさまった。

ある風の強い日、
番頭に火が出たら必ず蔵の目塗りをするように言いつけ、
竹次郎が出かけたのはあの兄の店。

十年前に借りた三文と、
別に「利息」として二両を返し、
礼を述べると、
兄は喜んで酒を出し、
あの時におまえに五両、十両の金を貸すのはわけなかったが、
そうすれば景気付けに酒をのんでしまいかねない。
だからわざと三文貸し、
それを一分にでもしてきたら、
今度は五十両でも貸してやろうと思った
と、本心を語る。

さぞ恨んだだろうが勘弁しろ
と詫びられたので、
竹次郎も泣いて感謝する。

店のことが心配になり、
帰ろうとすると兄は、
積もる話をしたいから泊まっていけ、
もしおめえの家が焼けたら、
自分の身代を全部譲ってやる
とまで言ってくれたので、
竹次郎も言葉に甘えることにした。

深夜半鐘が鳴り、
蛤町方向が火事という知らせ。

竹次郎がかけつけるとすでに遅く、
蔵の鼠穴から火が入り、店は丸焼け。

わずかに持ち出したかみさんのへそくりを元手に、
掛け小屋で商売してみたがうまく行かず、
親子三人裏長屋住まいの身となった。

悪いことにはかみさんが心労で寝付き、
どうにもならず、娘のお芳を連れて兄に五十両借りにいく。

ところが
「元の身代ならともかく、
今のおめえに五十両なんてとんでもねえ」
と、けんもほろろ。

店が焼けたら身代を譲ると言ったとしても、
それは酒の上の冗談だ
と突っぱねられる。

「お芳、よく顔を見ておけ、
これがおめえのたった一人のおじさんだ。
人でねえ、鬼だ。
おぼえていなせえッ」

親子でとぼとぼ帰る道すがら、
七つのお芳が、
あたしがお女郎さんになってお金をこしらえる
とけなげに言ったので、
泣く泣く娘を吉原のかむろに売り、
二十両の金を得るが、
その帰りに大切な金をすられてしまった。

絶望した竹次郎、
首をくくろうと念仏を唱え、
乗っていた石をぽんとけると、
そのとたんに
「竹、おい、起きろ」

気がつくと兄の家。

酔いつぶれて夢を見ていたらしいとわかり、
竹次郎、胸をなでおろす。

「ふんふん、えれえ夢を見やがったな。
しかし竹、火事の夢は焼けほこるというから、
来年、われの家はでかくなるぞ」

「ありがてえ、おらあ、あんまり鼠穴ァ気にしたで」

「ははは、夢は土蔵(=五臓)の疲れだ」

【うんちく】

夢は五臓の疲れ

五臓は心・肝・肺・腎・脾。
陰陽五行説で、万物をすべて木・火・土・金・水の
五性に分類する思想の名残です。
「夢は五臓のわずらい」ともいいます。

それにしても、普通、夢の「悪役」(しかも現実には
恩人)に面と向かって、馬鹿正直に「あんたが人非人に
変わる夢を見ました」なんぞとしゃべりませんわなあ。

何ぞ、含むところがあるのかと思われても
仕方ありません。フロイトやユングなら、
どう診断するでしょう。

ハッピーエンドの方が、実は夢だった、とでも
ひっくり返せば、少しはマシな「作品」になるでしょうが。
誰か改作しないですかね。

浅草蛤町

現・東京都江東区門前仲町の一部です。
三代将軍・家光公に蛤を献上したのが町名の起こりで、
樺太探検で名高い間宮林蔵(1775?~1844)の
終焉の地でもあります。

三戸前

「戸前」は、土蔵の入口の戸を立てる場所。
そこから、蔵の数を数える数詞になりました。
「三戸前(みとまえ)」は蔵を三つ持つこと。
蔵の数は金持ちのバロメーターでした。

さんだらぼっち

俵の上下に付いた、ワラで編んだ丸いふた。
桟俵(さんだわら)ともいいます。

演者

大正から昭和にかけての名人・三代目三遊亭円馬から
立川ぜん馬、六代目円生と継承されました。

円生は昭和28年に初演して以来、ほとんど一手専売に
していましたが、現在では五代目円楽一門に伝わり、
立川談志一門もけっこうやっているようです。

柳家小三治もよく演じますが、
田舎ことばは、現役ではこの人がもっとも愛嬌があり、
達者ですね。

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落語のあらすじ 」カテゴリの記事

コメント

とってつけたような兄の言葉を信じるか信じないかだと思います。僕は信じないので、この終わり方がいいと思います。

投稿: 遠藤文人 | 2007.12.10 04:53

ほっとする夢落ちもいいじゃないのよ
おれは好き

投稿: おまいさん | 2008.04.30 12:46

さっき初めて落語を(動画で)見ました。おもしろい!
私も兄の言葉は後付けと思ったので、この終わり方で良いと思いました。

それにしてもこのブログ(?)の内容の書き方、好きです。丁寧だしテンポが良いしわかりやすい。
注釈にも大感謝です。

投稿: | 2011.03.03 10:11

夢オチで本当に良かったと思ったので、改作なんかされたら嫌すぎる

投稿: | 2014.12.17 02:45

ユングやフロイトなんか出してくる奴にはわかるわけの無い価値観だろ

投稿: | 2015.11.21 23:42

志の輔さんは、兄が夢の話を聞いて「俺は嫌な役だねぇ、首釣った所を助けたから俺は命の恩人だ」
サゲも「身代大きくなるよ。火事の夢は燃え さかる」
一番すっきりした気がします

投稿: | 2018.01.16 02:37

ふざけんなってw
改作って言ってますけどそういうのは改悪って言うんですよ。
落語にシリアスな人間ドラマなんか求めてないのでこのサゲでよかった。
>>1>>3のコメもよくわからん。兄に悪意があると思ってるけど弟が救われてよかったってこと?
兄は悪人じゃないし弟も夢落ちでめでたしめでたしじゃ嫌なのか。

最初に聞いたのがさん喬師匠で、夢の冷たい兄と現実の厳しくも弟想いの兄を見事に演じ分けてたので、兄は本当に弟を想ってああしたんだと思ってる。
↑の志の輔師匠のも聞いてみたいな。

投稿: | 2018.03.20 17:30

 鼠穴ですが。
 夢落ちについてその意味は、

 落語は割とシュールなものです。リアルで現実的に見えても、基本はシュールです。
 今風なら夢落ちはちょっとつまらない感じですが、実は夢という手法を使って、人の裏表について描いたと言うことでしょう。リアルな意味での夢落ちではありません。メタフィクションというか、夢というツールを使って、1人の人間の裏表を表します。
 この話が恐ろしいのは、弟にとって、相手が恩人、しかもたった1人の肉親。一番信じたい相手であること。
 兄貴のけちに一度は腹を立てた弟は、しかし、奮起して身代を築きます。でもその間に、兄がどうしてけちだったのか、その意味をぼんやりとは察していたはずです。でも肉親だからこそ納得がいかない。どこかもやもやとした気持ちを残したまま兄の元に三文を返しに行く。そこで実は本当に弟のためを思ってやったことと言ってくれたとき、弟はもやもやが晴れたはずです。本当は兄を信じたいのです。でも信じ切れずにもやもやがあり、それを吹っ切るように必死で働いて来た。そして本当に、信じたかったとおり兄はいい人だった。これが弟の本当に望んでいたこと。

 でも人間はいいことをそのまま信じられるほど素直じゃないです。誰でも本当に信じたい相手がいて、その相手が信じ切れれば幸せです。でも信じ切れない、そのもやもやを抱えながら生涯を生きていくのが普通です。それを胸に押し殺して、忘れようとして生きるか。でももやもやはもしもの時にはまた顔を出す。そのために一生を持ち崩す人もいます。
 後半、兄が再び弟を裏切り、運にも見放され、娘も妻も幸せにできない展開。実はこれは弟の心の底の檻です。信じたい兄を信じ切れない弟の業です。

 もう一つ、見ている人からすれば、兄が三文与えた理由を話すとき「本当か?」って腹の内でちらっと思ったりしてます。本当はただけちなだけだったんじゃないの?と言う疑いがちょっと起こる。人間そんなに先まで見通して、愛情深く、心を鬼にして接したりするだろうか。

 夢の話は、実は観客自身の腹の内にできた檻を見せています。「今あなた、兄のこと信じてないでしょ?」と言う意味です。
 つまり同時に、観客の毫も引っ張り出しているのです。人の親切、肉親の情を信じられない人の業。
 夢落ちでほっとした人は、実はほっとしただけでは済まされないのです。

投稿: 鼠穴 | 2018.10.12 02:26

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