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2004.11.03

蝦蟇の油(がまのあぶら) 

ホント、昔はよく縁日で見かけたもんです、こういうの。 この1枚:蝦蟇の油

その昔、
縁日にはさまざまな物売りが出て、
口上を述べ立てていたが、
その中でもハバがきいたのが、蝦蟇の油売り。

ひからびたガマ蛙を台の上に乗せ、
膏薬が入った容器を手に、
刀を差して、白袴に鉢巻、タスキ掛けという出て立ち。

「さあさ、お立会い。
御用とお急ぎでない方は、ゆっくりと聞いておいで。
遠目山越し笠のうち、
物の文色(あいろ)と道理がわからぬ……」

さまざまに言い立てて、
なつめという容器の蓋をパッと取り、
「手前持ち出したるはこれにあるヒキセンソウはがまの油。
……手前持ちいだしたるは四六のがまだ。
四六、五六はどこでわかる。
前足の指が四本、後足の指が六本。
これを名づけて四六のがま。
このがまの棲める所は、
これより、はァるゥか北にあたる筑波山の麓にて、
オンバコという露草を食らう。
……このがまの油を取るには、
四方に鏡を立て、下に金網を敷き、
その中にがまを追い込む。
がまはおのれの姿が鏡に映るのを見て
おのれで驚き、たらーりたらりと脂汗を流す。
これを下の金網にてすき取り、
柳の小枝をもって、
三七二十一日の間とろーり、とろりと煮詰めたるのが
このがまの油だ。
赤いはシンシャヤシイの実、
テレメンテエカにマンテエカ、
金創には切り傷、
効能は、出痔イボ痔、はしり痔ヨコネガンガサ、
その他腫れ物一切に効く。
いつもはひと貝で百文だが、
今日はおひろめのため、
小貝を添え、二貝で百文だ」
と、怪しげな口上で見物を引きつけておいて、
膏薬の効能を実証するため、
刀で白紙を三十六枚に切ってみせ、
「……かほどに斬れる業物でも、
差裏差表へがまの油を塗る時は、
白紙一枚容易に斬れぬ。
さ、このとおり、たたいて
……斬れない。引いても斬れない。
拭き取る時はどうかというと、
鉄の一寸板もまっ二つ。
触ったばかりでこれくらい斬れる。
だがお立会い、
こんな傷は何の造作もない。
がまの油をこうして付ければ、
痛みが去って血がピタリと止まる」

こんな案配で、
むろんインチキだが、
けっこう売り上げがいいので気を良くしたがまの油売り、
売り上げで大酒をくらってベロンベロンに酔ったまま、
例の口上。

ロレツが回らないので支離滅裂。
それでもどうにか紙を切るところまではきたが、
「さ、このとおり、たたいて
……切れた。どういうわけだ?」

「こっちが聞きてえや」
「驚くことはない、
この通りがまの油をひと付け付ければ、
痛みが去って……血も
……止まらねえ……。
二付け付ければ、今度はピタリと
……かくなる上はもうひと塗り
……今度こそ……トホホ、お立会い」

「どうした」

「お立会いの中に、血止めはないか」

【うんちく】

はなしの成立と演者

「両国八景」という風俗描写を中心とした
噺の後半部が独立したものです。
酔っぱらいが居酒屋でからむのを、
連れがなだめて両国広小路に連れ出し、
練り薬売りや大道のからくり屋をからかった後、
がまの油売りのくだりになります。

前半部分は先代(三代目)金馬が
酔っぱらいが小僧をなぶる「居酒屋」という
一席ばなしに独立させ、大ヒット作にしました。
金馬は、がまの油の口上をそのまま
「高田の馬場」の中でも使っています。

昭和期では三代目春風亭柳好が得意にし、
六代目三遊亭円生、八代目林家正蔵も演じました。
大阪では、「東の旅」の一部として
現桂米朝らが演じます。

上方版ではガマの棲息地は
「伊吹山のふもと」となります。

オチは現行のもののほか、
「(血止めの)煙草の粉をお持ちでないか」
とすることもあります。

本物は……?

本物の「がまの油」はセンソといい、
れっきとした漢方薬です。
ガマの分泌液を煮詰めて作るのですから、
この口上もあながちデタラメとはいえません。
ただし、効能は強心剤、いわゆる気付け薬です。
一種の覚せい剤のような作用があるのでしょう。

口上中の「テレメンテエカ」は、
正しくは「テレメンテエナ」で、ポルトガル語です。
松脂を蒸留して作るテレビン油のこと。
芳香があり、染料に用います。
「マンテエカ」は不明です。
ただの語呂合わせかも知れません。

六代目円生「最後の高座」

1979年8月31日、死を四日後にひかえた
昭和の名人・六代目三遊亭円生は、
東京・三宅坂の国立小劇場でのTBS落語研究会で、
「がまの油」を回想をまじえて楽しそうに演じ、
これが公式には最後の高座となりました。

この高座のテレビ放送で、端正な語り口で
解説を加えていた、劇作家・榎本滋民氏も
2003年1月16日、亡くなっています。

マンテエカ

周達生著「昭和なつかし博物学」(平凡社新書)によると、
マンテエカはポルトガル語源で豚脂、
つまりラードのことで、薬剤として用いられたそうです。

いや、知識というものはどこに転がっているか分かりませんな。

不明を謝すとともに、周氏にはこの場を借りて
御礼申し上げます。

なお同書は、ガマの油売りの詳細な実態ほか、
汲めども尽きぬ民俗学的知識が盛りだくさんで
おすすめの一冊でげす。

「ガマの油」でご難の志ん生

五代目古今亭志ん生が前座で朝太時分のこと。
東京の二ツ目という触れ込みで
ドサ(=田舎)まわりをしているとき、
正月に浜松の寄席で「がまの油」を出し、これが大ウケでした。

ところが、朝の起き抜けにいきなり、
宿に四,五人の男に踏み込まれ、仰天。

「やいやい、俺たちゃあな、本物のガマの油売りで、
元日はばかに売れたのに、二日目からはさっぱりいけねえ。
どうも変だてえんで調べてみたら、
てめえがこんなところでゴジャゴジャ言いやがったおかげで、
ガマの油はさっぱりきかねえってことになっちまったんだ。
おれたちの迷惑を、一体全体どうしてくれるんだッ」

ねじこまれて平あやまり、やっと許してもらったそうです。

志ん生が自伝「びんぼう自慢」で、懐かしく回想している
「青春旅日記」の一節です。

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受信: 2005.08.12 18:20

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