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2004.11.03

三枚起請(さんまいぎしょう)

三枚起請

性悪女にひっかかるのも、お得な人生かもしれませんね。

町内の半公が
吉原の女郎に入れ揚げて家に帰らず、
父親に頼まれた棟梁が呼んで意見をするが、
当人、のぼせていて聞く耳を持たない。

かえってノロケを言いだす始末。
あんな実のある女はいない、
年季が明けたらきっとおまえさんといっしょになる、
神に誓って心変わりしないという
起請文も取ってあるという。

棟梁が見てみると
「小照こと本名すみ……」

どこかで聞いたような名。

それもそのはず、
棟梁も同じ女からの同じ起請文を一枚持っているのだ。

江戸中捜したら何千枚あるか知れやしねえ
とあきれているところへ、
今度は三河屋の若だんながやってきて、
またまた同じノロケを言いだした。

「セツに吉原の女がオカボレでげして、
来年の三月に年季が明けたら、
アナタのお側へ行って、
朝暮夜具の揚げ下ろしをしたいなぞと
……契約書まであるんでゲス」
とくる。

「若だんな、
そりゃひょっとして、吉原江戸町二丁目、
小照こと本名すみ……」

「おや、よくご存じで」

これでエースが三枚、いやババか。

半公と若だんなはカンカンになり、
これから乗り込んで化けの皮をひんむいてやると息巻くが、
棟梁がそこは年の功、
正面から強談判しても相手は女郎、
開き直られればこっちが野暮天にされるのがオチ、
それよりも……
と作戦を授け、
その夜三人そろって吉原へ。

小照を茶屋の二階へ呼びつけると、
二人を押し入れに隠し、
まず棟梁がすご味をきかせる。

起請てえのは、別の人間に二本も三本もやっていいものか、
それを聞きに来たと言うと、
女もさるもの、白ばっくれるので
「それじゃ、三河屋の富さんにやった覚えはねえか」

「何だい、あんな男か女かわからない、
水瓶に落ちた飯粒みたいなやつ」

「おい、水瓶に落ちたおマンマ粒、出といで」

これで一人登場。

「唐物屋の半公にもやったろう」
「知らないよ。あんな餓鬼みたいな小僧」
「餓鬼みたいな小僧、こちらにご出張願います」

こうなっては申し開きできないと観念して、
小照が居直る。

「ふん、おまえたち、
大の男が三人も寄って、
一人の女にかかろうってのかい。
何を言いやがる。
はばかりながら、女郎は客をだますのが商売さ。
だまされるテメエたちの方が大馬鹿なんだよ」

「このアマぁ、
嘘の起請で、熊野の烏が三羽死ぬんだ。
バチ当たりめ」

「へん、あたしゃ、世界中の烏をみんな殺してやりたいよ」
「こいつめ、烏を殺してどうしようってんだ」
「朝寝がしたいのさ」

【うんちく】

起請文

「年季(ねん)が明けたら夫婦になる」は
女郎のくどき文句ですが、その旨の誓いを、
紀伊国・熊野三所権現発行の午王(ごおう)の
宝印に書き付け、男に贈ります。

宝印は、熊野権現のお使いの烏七十五羽を
かたどった文字で呪文が記してあります。
これを熊野の護符といい、それをのみ込む
やり方もありました。

その場合、嘘をつくと熊野の烏(暗に当人)が
血を吐いて死ぬといわれていました。

「三千世界の……」

オチの言葉は、倒幕の志士・高杉晋作が、
品川遊郭の土蔵相模(→「居残り佐平次」)で
酒席で酔狂に作ったというざれ唄
「三千世界の烏を殺し、主(ぬし)と朝寝がしてみたい」

から直接採られています。

1958年の映画「幕末太陽伝」で、佐平次(フランキー堺)
がごきげんでこの唄をうなっていると、
隣で連れションをしていた高杉本人(石原裕次郎)、

「おい、それを唄うな。・・・・さすがにてれる」。

女郎の年季

吉原にかぎり、建前として十年で、
二十七歳を過ぎると「現役引退」し、
教育係の「やり手」になるか、品川などの岡場所に
「住み替え」させられました。

明治5年の「娼妓解放令」で、表向きは
自由廃業が認められ、この年季も廃止されましたが、
実際はほとんどの女郎が借金のため引き続き
身を売らざるを得ず、
実態は何も変わりませんでした。

【コラム 古木優】

 「さんまいぎしょう」と読む。
 もとは上方の小噺だったらしい。
東京に移しても、女の素性はなぜか上方出ということで演じられることが多かったが、いまはそうでもなさそうだ。
 落語研究会で柳家さん喬のを聴いた。
 男3人と一枚も二枚も上手の女との間抜けな色模様。ほんのりいい気分で楽しめた。当日のほかの演者4人がへたくそだったのも、関係していたかもしれないが。
 ここでいう「起請」とは、変わらぬ愛を誓って取り交わす契約書のようなもの。75羽の烏を文字にして、「熊野牛王宝印」と記した熊野三社が発行する護符(用紙)に書いて使ったそうである。男女がこれを取り交わすたびに熊野の烏が1羽死に、誓いにそむけば 3羽死ぬと信じられていた。
 遊女にだまされていたと知った3人の男が吉原に乗り込んで……。
 いまどきの小説や映画なら、屈強の男が女を羽交い絞めにしていたぶりなぶって犯す、しまいには「ダイハード」もどきに朝日楼を占拠して楼中の遊女を人質に、日本政府に身代金を要求……などといった展開になりがちだが、落語はしょせん「朝寝がしたい」などと言わせて終わっている。
 この噺、筋は稚拙ながら、ほのぼのとかわいいものだ。

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コメント

TBありがとうございました。とても勉強になりました。

投稿: おうか | 2005.04.30 14:11

どこから来られたか存じませんが。
千字寄席さん、TBありがとうございます。
今まで落語は堅苦しいイメージがありました。
が、あのドラマを見てから見方が変りましたね。

投稿: kokotoki (wakatoki) | 2005.05.04 20:27

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