« 三枚起請(さんまいぎしょう) | トップページ | 粗忽の使者(そこつのししゃ) »

2004.11.03

幽女買い(ゆうじょかい) 

遊女と幽女。相当な暇人でなけりゃ、こんな話題はおさえませんね。

急に暗いところに来てしまった太助、
三月前に死んだはずの源兵衛に声をかけられてびっくり。

「おめえは確かに死んだよな」
と念を押すと
「おめえ、オレの通夜に来たろ」

太助が通夜の席で
「世の中にこんな助平で女郎買いの好きな奴はなくて、
かみさんは子供を連れて出ていくし、
これ幸いと女を次々に引きずり込んだはいいが、
悪い病気をもらって、
目はつぶれる鼻の障子は落ちる、
借金だらけで満足な葬式もできない始末だから、
どっちみち地獄おちは間違いない。
弔いはいいかげんにして、
焼いて粉にして屁で飛ばしちまおう」
とさんざん悪口を言ったのを、
当人に全部聞かれている。

死骸がまだそこにあるうちは聞こえるという。

太助、死んだ奴がどうしてこんなところにいるのか、
まだわからない。

「てめえも死んだからヨ」
「オレが死んだ? はてな」

そう言われれば、
かみさんが枕元で医者に
「間違いなく死にました? 
生き返らないでしょうね?
……先生、お通夜は半通夜にしてみんな帰しますから、
あの、今晩……」
なんぞと抜かしていたのを思い出した。

「ちきしょうめッ」
と怒っても、もう後の祭り。

ここのところ飢餓や地震で亡者が多くなり、
閻魔の庁でも忙しくて手が回らず、
源兵衛も「未決」のまま放っておかれているという。

浄玻璃の鏡も研ぐ時間がないため、
娑婆の悪業がよく写らないのを幸い、
そのうちごまかして極楽へ通ってしまう算段を聞き、
太助も一口乗らせてもらうことにした。

お互いに死んだおかげで、
すっかり病気も治って元気いっぱい。

白団子を肴に祝杯をあげるうち、
こっちにも吉原ならぬ死吉原があり、
遊女でなく幽女買いができるので、
ぜひ繰り込もうとうことになった。

三枚駕籠の代わりに早桶で大門に乗りつけると、
人魂入りの提灯がオイデオイデ。

ここでは江戸町は冥土町、
揚屋町はあの世町。

見世も、松葉屋は末期屋、
鶴屋は首つる屋と名が変わる。

女郎はというと、
張り見世からのぞくと、
いやに痩せて青白い顔。

ここではそれが上玉だとか。

女が
「ちょいとそこの新亡者、
あたしが往生さしてあげるからさ」
と袖をひくので揚がると
「へいッ、仏さまお二人ッ」

わっと陰気に枕団子の付け焼きで、まず一杯。

座敷では芸者が首から数珠をぶらさげ、
りんと木魚で「チーン、ボーン」。

幇間が
「えーご陰気にひとつ」
と、坊主姿で百万遍。

お引けになると、
御詠歌が聞こえ、
生温い風がスーッ。

「恨めしい」
「待ってました。幽ちゃん」

夜が明けると
「『おまはんが好きになったよ』って女が離れねえ。
『いっそ二人で生きたいね』
『生きて花実が咲くものか』
なんて」
と妙なノロケ。

帰りがけに喉がかわいたので、
「末期の水」を一杯のみ干し、
「厄介になった。また来るよ」
「冥土ありがとうございます」

表へ出ると向こうから
「お迎え、お迎え」

【うんちく】

縁起の悪さで五つ星!

上方落語の「けんげしゃ茶屋」と並び、
私としては
正月の初席でやってほしい噺の双璧なのですが、
なぜか、現在は立川談志のほかは
ほとんど演り手がなさそうなのが残念しごく。

特に談志演出での、
主人公二人の、
地獄に堕ちて当然の業悪ぶりには
本当に感服させられます。

特に、
「焼いて屁で飛ばしちまう」
には笑えます。

後半は、
単に現実の茶屋遊びを
地獄に置き換え、
縁起の悪い言葉を並べただけで、
ややパワーが落ちますが、
談志が前半の通夜の太助の悪口と、
女房と医者のちちくりあいを創作しただけで、
この噺は聞くに値するものになりました。

どなたかでも、
後半をもう少し面白くつくって
もらえればいいのですが。

浄玻璃の鏡

地獄の閻魔の庁で、
亡者のシャバでの行状を
ありありと映し出す鏡。
昔の鏡は金属製で曇りやすく、
そのつど鏡研師に
研がせなければなりませんでした。

三枚駕籠

三枚肩ともいい、一丁の駕籠に
三人の駕籠かきが付き、交代で担ぎます。

急用のとき、または廓通いで見栄を張る場合などに
雇いました。

お迎え

盆に、精霊流しの余りをもらい歩く物ごいの声と、
吉原で茶屋の者が客を迎えに来る声を
掛けたものです。

古いやり方と速記

明治中期に、
「魂祭」(たままつり)の題で演じた六代目桂文治、
「亡者の遊興」とした二代目三遊亭小円朝
の速記が残ります。

文治では、
地獄の茶屋で、
隣のもてぶりに焼餅を焼き、
若い衆に文句を言う官員と職人の
二人を登場させていますから、
あるいはこの噺は、
「五人廻し」(アップ済)のパロディとして
作られたのかもしれません。

|

« 三枚起請(さんまいぎしょう) | トップページ | 粗忽の使者(そこつのししゃ) »

落語のあらすじ 」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/60017/1854086

この記事へのトラックバック一覧です: 幽女買い(ゆうじょかい) :

» 銭湯ダンナーズ [ぜいりしブログ]
 今朝の日経1面下広告、月刊 旬なテーマ:総力特集 「男」1人で生きていけますか? に反応。て、何このトップ。カタログ雑誌かい?とガッカリして「9月号」にポインタ当てるとボタンになってるじゃない。押してみると、 >大盛況の大銀座落語祭 一龍斎貞水「東海道四谷怪談」に怖さをレポート! どれどれ、 http://www.rakugokai.com/6nin_no_kai/daiginza/ginza_index.html  終ってますね・・・レポート書いてあるか。一龍斎貞水師匠の怪談はこの時期AMラジ... [続きを読む]

受信: 2006.08.10 21:51

« 三枚起請(さんまいぎしょう) | トップページ | 粗忽の使者(そこつのししゃ) »