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2004.12.10

三年目(さんねんめ)  落語

人の心の変わりやすさをうまく仕上げてますね。 この1枚:三年目

ある夫婦、
大変に仲むつまじく暮らしていたが、
ある年、
かみさんがふとした風邪がもとでどっと床につき、
亭主の懸命の看病の甲斐なく、
だんだん弱るばかり。

いよいよ今日か明日かという時になって、
病人は弱々しい声で
「私が死んだ後、
あなたが後添いをおもらいになると思うと
そればかりが心残りでございます」
と言う。

何を言っている、
あたしはおまえに万万が一のことがあっても、
決して生涯、再婚などしない
といくら言っても、
いえ、あなたは必ず後添いをおもらいになります
と、繰り返すばかり。

あまりしつこいので亭主、
「そんなことはない、
決してそんなことはないけれども、
もし、あたしが後添いをもらうようなことがあったら、
おまえ、婚礼の晩に化けて出ておいで。
前妻の幽霊がとりついているようなところに
嫁に来るような女はないから、
そうすればどうでもあたしは独り身で通さなくてはいけなくなるんだから」
「それでは、八ツの鐘を合図に、きっと」
「ああいいとも」

えらいことを約束してしまったが、
亭主のその言葉を聞くと、
かみさんやっと安心したのか、
にわかに苦しみだしたかと思うと、
ついにはかなく息は絶えにけり。

泣きの涙で弔いを出し、
初七日、四十九日と過ぎると、
そろそろ親類連中がやかましくなってくる。

まだ若いのだし、
やもめを通すのは世間の手前よくない、
いい人がいるから、ぜひとも再婚しろ
と、しつこく言われるのを、
初めのうちは仏との約束の手前、
耳を貸さなかったが、
百か日にもなると、とうとう断りきれなくなる。

それはそうで、
まさか先妻とこれこれの約束をしたから……
などと、馬鹿なことは言えない。

いよいよ婚礼の晩になり、
亭主、幽霊がいつ出るかと、
夜も寝ないで待っていたが、
八ツの鐘はおろか、二日たっても、三日たっても、
いっこうに現れないものだから、
「馬鹿にしてやがる。
恨めしいのとり殺すのと言ったところで
息のあるうちだけだ」

それっきり先妻のことは忘れるともなく忘れ、
後妻もそれほど器量が悪いという方ではないから、
少しずつなじんでいくうちに、
月満ちて玉のような男の子も生まれた。

こうして、いつしか三年目。

子供の寝顔に見入っているうち、
ふと先妻のことを思い出していると、
どこで打ち出すのか、八ツの鐘がゴーン。

急にブルブルッと寒気がきたので、
これはおかしいと枕元をヒョイと見ると、
先妻の幽霊が髪をおどろに振り乱して、
恨めしそうにこっちを見ている。

「……あなた、まあ恨めしいお方です。
こんな美しい方をおもらいになって、
かわいい赤ちゃんまで……
お約束が違います」

「じょ、冗談言っちゃいけない。
おまえが婚礼の晩に出てくるというから、
あたしはずっと待っていたんだ。
子供までできた後に恨みを言われちゃ困るじゃないか。
なぜもっと早く出てこない」

「それは無理です」
「なぜ?」
「私が死んだ時、坊さんにしたでしょう」
「ああ、親戚中が一剃刀ずつ当てた」
「坊さんでは愛想を尽かされるから、髪の伸びるまで待ってました」

【うんちく】

「原作者」は中興の祖!

本業の落語はもちろん、
黄表紙、笑話本、滑稽本の執筆から茶道、絵画、狂歌と多芸多才、
江戸のマルチタレントとして活躍した
桜川慈悲成(しらがわじひなり=1762~1833)が、
享和3(1803)年刊の笑話本「遊子珍学問」中の
「孝子経曰、人之畏不可不畏」が原作です。

これは、やもめ男が昼飯を食っていると、
ドロドロと死んだ女房が現れたので、
幽霊ならなぜ夜出てこないととがめると、
「だってえ、夜は恐いんだもん」
というオチ。

大阪で演じられる「茶漬幽霊」は、
「昼飯中」が「茶漬け中」に変わっただけで、
大筋はほとんど同じです。

「髪がのびるまで待っていた」は、
「夜は恐い」の前の幽霊の言い訳で、
東京の「三年目」は、ここで切っているわけです。

三年目って、なに?

今でいう三周忌(三回忌)です。
「十王経」という仏教の啓蒙書に、
七七忌(四十九日)、百ヶ日、一周忌など
忌日、法事の規定があるのが始まりです。

坊さんにする

江戸時代までは、髪剃(こうぞり)といい、
男女を問わず、納棺の直前に
坊さんに剃髪してもらう習慣がありました。

東は悲話、西はドライ

東京の「三年目」では、
亭主は約束を守りたかったのに、
周囲の圧力でやむなく再婚する設定で、
それだけに先妻に未練があり、
オチでも「すれ違い」の悲劇が色濃く出ます。

これに対し、大阪の「茶漬幽霊」は、
男は女房のことなど小気味いいほどきれいに忘れ、
すぐに新しい女とやりたい放題。
薄情でドライです。

幽霊が出るのが「茶漬中」というのもふざけていますし、
オチ(前々項参照)も逆転の発想で笑わせ、
こっけい噺の要素が強くなっています。

エロ噺「二本指」

類話に「二本指」という艶笑小ばなしがあります。

惚れぬいた神さんがあの世に行き、ある夜
化けて出てきて、
「あたしが死んだから、おまえさんが
浮気でもしてやしないかと思うと、心配で浮かばれないよ」
と愚痴を言います。
あんまりしつこいので、
面倒くさくなった亭主、
そんなに信用できないなら
と、自分の道具をスパッと切って渡しますが、
翌晩また現れて、
「あと、右手の指が二本ほしい」

露の五郎が、「指は知っていた」の題で演じ、
音源もありますが、
逸物をチョン切るときの表情が抱腹絶倒です。

円生、志ん生のギャグ

(マクラで、幽霊を田舎言葉で)
「恨めしいぞォ・・・・おらァはァ、恨めしいで、
てっこにおえねえだから・・・・生き変わり
死に変わり、恨みを晴らさでおかねえで、
このけつめど野郎」

土左衛門になると、男は下向き、女は上向きで流れてくる。
この間横になって流れてきたので、聞いてみたらゲイボーイ。
(以上、六代目三遊亭円生のマクラ)

(亭主が幽霊に)
「そんなわけのわからねえ、ムク犬のケツに
のみがへえったようなことを言ったって、
もうダメだよ」
(五代目古今亭志ん生)

この二人が戦後では、「三年目」の双璧でした。

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コメント

三回忌なら2年目であって3年目ではないです

三回忌の法事もとっくに済ませて1年たってから現れるならともかく、三回忌の直後に現れるというこの演じ方に疑問が生じますね

投稿: | 2017.09.18 14:50

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