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2004.12.31

一眼国(いちがんこく)/落語

みんなが同じならヘンでもナンでもないんですねえ

諸国をまわり歩く六部が、
香具師の親方のところに一晩の宿を借りた。

香具師は何か変わった人間でもいれば、
いや化物ならなおさらいいが、
とにかく捕まえて見世物にし、
金もうけの種にしようと八方手を尽くして捜しているので、
翌朝六部に
「おまえさんは諸国をずいぶんと歩いている間に、
ヘソで唄をうたったとか、足がなくって駆けだしたとか、
そういう変わった代物を見ているだろう。
一つ話を聞かせてくれないか」
と持ちかけたが、
六部は「そんな話はとんとない」という。

一宿の恩をたてにさらにしつこく聞くと、ようやく、
「まァ、つまらないことですが……」
と六部が思い出した話というのは、
こちらに来る途中、道に迷って東へ東へと歩いていくと、
森に入り、日も暮れかかったので、
野宿でもしなければならないかと、ため息をつきながら木の根方に腰を掛け、
一服やっていた。

すると、おじさん、おじさんと呼ぶ声がしたので振り返って見ると
五つか六つの女の子。

よく眺めると目が一つしかない。

仰天して夢中で駆け出し、
ようやく里に出た、というもの。

香具師は喜んで、
六部に金を包んで出発させ、
早速その日のうちに旅支度をして家を出た。

東へ東へと歩いたが、何も出ない。

そのうちに日も暮れてきて、
これは六部の奴に一杯食ったかと悔しがっているうち、
四、五丁も歩いたところで森に出た。

話の通り木の根方でプカリプカリと煙草をふかしていると、
後ろの方でおじさん、おじさんという声。

しめた、こいつだと思って振り返ると、
案の定目が一つ。

これは見世物にすればもうかると欲心に駆られて、
ものも言わずに飛びかかってひっ捕まえると、
子供を小脇に抱え、森の外に向かって一目散。

子供はキャアッと悲鳴を上げる。

その声を聞きつけたのか、
ホラ貝の音が響きわたったかと思うと、
鋤鍬担いだ百姓たちが大勢追いかけてくる。

みんな一つ目。

必死で逃げたが、ついに木の根っこにつまずいて
「この人さらいめ」

寄ってたかってふん縛られ、
突き出された先がお奉行所。

奉行が「こりゃ人さらい。面を上げい」

ひょいと見上げると、お奉行も役人もみんな一つ目。

奉行の方もびっくり。

「やや、こやつ……おのおの方ごらんなされ。
こやつ目が二つある。
調べは後回しじゃ。見世物に出せ」

●うんちく

彦六の古風な味

柳家小さん系の噺で、生粋の江戸落語です。
四代目小さんが得意にしていましたが、
戦後この噺を磨き上げた彦六の八代目林家正蔵は、
円朝門下の最後の生き残り、一朝爺さんこと
三遊一朝(昭和5年没)からの直伝で、
小さんの型も取り入れたと述べています。

ほかにこの噺をよく演じた
五代目志ん生のような面白さはありませんが、
正蔵独特の、古風なしっとりとした語りを
聞かせました。

志ん生の「一眼国」

六部が珍しい話などないと言うと、
それまで、泊まって行け、飯を食えと
愛想を振りまいていたのが一変し、

「ああお茶なんぞォいれなくったっていいやァもう、
うん。ああご飯いいんだよ、もう、帰ってもらやァ
いいんだからァ」

と豹変して脅しにかかるところがこの人独自で
笑わせます。

そのほか、行く先が「江戸から東へ三日行った森」
(一眼国は小田原あたりか?)だったり、
奉行が「なぜ、人の子供を黙ってさらう?」
と言ったり(いちいち許可を得てさらう
かどわかしはありません)、
とにかくハチャメチャなのが、いかにも志ん生です。

見世物

地味な噺なので、正蔵も志ん生も、
笑いをとるため、マクラに江戸時代の
両国広小路や浅草奥山のインチキ見世物を
面白おかしく説明します。

これについては「がまの油」(アップ済)や
「花見の仇討ち」でも詳しく語られますが、
正蔵は「鬼娘」「目が三つ歯が二本の化物
(ゲタ)」「八間の大灯篭(ただ通って表に
出されるだけ)」といった向う両国・
回向院境内の見世物、俗に「モギドリの小屋」
について説明していて、今では貴重な証言です。

「モギドリ」は、銭を客からもぎ取ってしまえば
あとは一切構わないということからきています。

香具師

見世物師ですが、「鬼娘」「手なし男」など、
身障者を「親の因果が子に報い・・・・」の口上で
見世物にする悪質な香具師を「因果者師」
と呼びました。

この噺の主人公がそれで、八代目正蔵では
「男の子と女の子が背中合わせで生まれたとか、
アヒルの首が逆にくっついているなんてえのは
ねえかい?」と六部に尋ねていますし、志ん生は

「足がなくって駆け出すとか、へそでなんか
食べるとかね、なんか変ってるものがいいん
だがねェ、ないかねェ? 天井裏ィ足の裏
くっつけて歩く人とか・・・・」

と香具師に言わせています。

黙阿弥の歌舞伎世話狂言「因果小僧」では、
主人公の盗賊・六之助の老父・野晒小兵衛が
落ちぶれた因果者師の成れの果てという設定です。

六部

巡礼者で、法華経六十六部を写経し、
日本全国六十六か所の霊場に各一部ずつを
納めたことにその名が由来します。
したがって、正しくは六十六部と書きます。

全国の国分寺や一宮を巡礼する行者ですが、
のちには鉦をたたき、鈴を振って各家を
物ごいして歩く者の名称にもなりました。
落語には「花見の仇討ち」「山崎屋」「長者番付」
などにも登場します。

「古郷へ廻る六部は気の弱り」(俳風柳多留・初)

一つ目

ギリシア神話のキュクロプスをはじめ、
世界各国に伝説があります。

山の神信仰が元といわれ、山神の原型である
天目一箇命(あまのまのひとつのみこと)が
隻眼隻足とされていたことから、
こうした山にすむ妖怪が考えられたとみられます。

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