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2004.12.31

天狗裁き(てんぐさばき)  落語

人の見た夢というものは、どこか魅力が隠れてるもんで。

年中不景気な熊公、
女房のお光に、路地裏の又さんが百足の夢を見たら、
客足がついて今じゃ大変な羽振りなんだから、
おまいさんもたまにはもうかるような夢でも見てごらん
と、せっつかれて寝る。

「……ちょいとおまいさん。夢見てたろ。どんな夢見たんだい」
「見やしねえ」

見た、見ないでもめているうちに
「ぶんなぐるぞ」
「ぶつんならぶっちゃァがれ」
と本物の大げんかになる。

大声を聞きつけて飛んできた隣の辰つぁん、
事情を聞くと、自分もどんな夢か知りたくなり
「おめえとオレたぁ、兄弟分だ。
女房に言えなくても、オレには言えるだろう」
「うるせえなあ、見ちゃあいねえよ」
「こんちくしょう、なぐるぞ」

またケンカ。

今度は大家。

一部始終を聞くと、
まあまあ
と、熊を家に連れていき、
「大家といえば親同然。オレには言えるだろう」

ところが熊公、
見ていないものはたとえお奉行さまにも言えない
というので、大家もカンカン。

それならとお白州へ召し連れ訴え。

訴えを聞いて奉行も知りたくてたまらない。

「どうじゃ、いかなる夢を見たか奉行には言えるであろう」
「たとえお奉行さまでも、見てないものは言えません」
「うぬッ、奉行がこわくないか」
「こわいのは天狗さまだけです」

売り言葉に買い言葉。

頭に来たお奉行、
それならばその天狗に裁かせる
と言って、熊を山の上へ連れていかせる。

高手小手に縛られ、
大きな杉の木に結わきつけられた熊。

さて、そのまま夜は更け、ガサガサッと舞い降りてきたのは天狗。

奉行から事の次第を聞いて、
天狗も熊の夢を知りたくてたまらない。

どうしても言わないなら、
羽団扇(うちわ)で体を粉微塵にいたしてくれる
と脅すので、さすがの熊も恐ろしくなり、
言うかわりに、手ぶらではしゃべりにくいから、
その羽団扇を持たせてくれと頼む。

天狗がしぶしぶ手渡すと、
熊公、団扇でスチャラカチャンと扇ぎ始めたからたまらない。

熊公の体はたちまちフワフワと上空へ。

「うわっ、下りてこいッ」
「ふん、もうてめえなんぞにゃ用はねえ。
こいつはいただいてくから、あばよッ」
「うーっ、泥棒ッ」

しばらく空中を漂って、
下り立った所が大きな屋敷。

ようすが変なので聞いてみると、
お嬢さんが明日をも知れぬ大病とのこと。

たちまち一計を案じた熊、
医者になりすまし、
お嬢さんの体を天狗団扇で扇ぐとアーラ不思議、
たちまち病気は全快した。

その功あってめでたくこの家の入り婿に。

婚礼も済んで、いよいよ日本一の美人の手を取ってベッドに……。

「……ちょいとッ」
「ウワッ。何でえ、おまえは」
「何でえじゃないよ。おまいさんの女房じゃないか」
「ウエッ、お光。あー、夢か」

【うんちく】

長編の前半が独立

噺としては、大阪から東京に
移植されたものですが、さらにさかのぼると
今はすたれた長編の江戸落語「羽団扇」の
前半が独立したもので、
ルーツは各地に残る天狗伝説でしょう。

「羽団扇」は、女房が亭主の初夢を
しつこく尋ね、もめているところに
天狗が登場して女房に加勢。鞍馬山まで
ひっさらっていき白状させようとする設定で、
大家や奉行は登場しません。

後半は、亭主が墜落したところが
七福神の宝船で、弁天さまに酒をご馳走になり、
うたた寝して起こされたと思ったら今のは夢。
女房が吸いつけてくれた煙草を一服やりながら
これこれと夢を語ると、七福神全部そろって
いたかと聞かれ、数えると一人(一福)足らない。

「ああ、あとの一福(=一服)は煙草で
煙にしてしまった」

という他愛ないオチです。

志ん生の十八番

大阪では現桂米朝が得意にし、その一門を
中心にかなり口演されているようですが、
東京では戦後、ずっと五代目古今亭志ん生の
専売特許でした。

と言うより、「抜け雀」などと
同様、志ん生以外の、また志ん生以前の速記が
まったくなく、いつごろ東京に「逆輸入」
されたか、志ん生が誰から教わったかは
一切不明です。

とにかく志ん生のものは女房、奉行、天狗
みな面白く、縦横無尽な語り口で、
いつの間にか聞く者を異次元の領域に
誘うようです。ストレス解消、現実逃避に
これほど適した落語はそうありません。

大阪の演出

米朝版では、場所を鞍馬山と特定し、
また、役人が亭主を山へ連れて行くのではなく、
奉行所の松の木につるされているところを
天狗にさらわれる設定です。

さらに、一度は助けようとした天狗が、
同じように好奇心を起こして脅しにかかる点が
東京の志ん生演出と異なるところです。

東京では志ん生没後は、
子息の十代目金原亭馬生が継承しましたが、
現役では、現柳家権太楼の音源があるくらいで、
手掛ける演者はあまり多くないようです。
「羽団扇」の方は、先代円歌と現立川談志の
CDがあります。

天狗の登場する落語・芝居

落語では上方のものがほとんどで、
道中で松の木から小便をしたら、下の山賊が
天狗と勘違いして逃げる「天狗山」、
与太郎噺の「天狗風」、
間抜け男が、すき焼きにしようと山へ天狗を
捕まえに行く「天狗さし」、
エロ噺の「天狗の鼻」(これだけは江戸)
などがあります。

歌舞伎の天狗ものでは、
執権・北条高時が天狗の乱舞に悩まされ、
狂乱する黙阿弥作の「高時」、
近松門左衛門の原作で、隅田川の梅若伝説に
お家騒動をからめ、これまた天狗の乱舞が
売り物の「雙生(ふたご)隅田川」が
現在もよく上演されます。

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