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2004.12.21

ぞろぞろ  落語

「瘤取り爺さん」のような噺ですが、「ぞろぞろ」違いがミソ。

浅草田んぼの真ん中に、
太郎稲荷という小さな社があった。

今ではすっかり荒れ果てているが、
その社前に、これもともどもさびれて、
めったに客が寄りつかない茶店がある。

老夫婦二人きりで細々とやっていて、
茶店だけでは食べていけないから、
荒物や飴、駄菓子などを少し置いて、
かろううじて生計をたてている。

爺さんも婆さんも貧しい中で信心深く、
神社への奉仕や供え物はいつも欠かさない。

ある日、夕立があり、
外を歩く人が一斉にこの茶屋に雨宿りに駆け込んできた。

雨が止むまで手持ちぶさたなので、
ほとんどの人が茶をすすり駄菓子を食べていく。

こんな時でないと、
こう大勢の客が来てくれることなど、まずない。

一度飛び出していった客が、また戻ってきた。

外がつるつる滑って危なくてしかたがないという。

ふと天井からつるしたワラジを見て、
「助かった。一足ください」
「ありがとう存じます。八文で」

一人が買うと、俺も、じゃ私もというので、
客が残らず買っていき、何年も売り切れたことのないワラジが、
一時に売り切れになった。

夫婦で、太郎稲荷さまのご利益だと喜び合っていると、
近所の源さんが現れ、
鳥越までこれから行くから、ワラジを売ってくれと頼む。

「すまねえ。たった今売り切れちまって」
「そこにあるじゃねえか。天井を見ねえな」

言われて見上げると、確かに一足ある。

源さんが引っ張って取ろうとすると、
何と、ぞろぞろっとワラジがつながって出てきた。

それ以来、
一つ抜いて渡すと、新しいのがぞろり。

これが世間の評判になり、
太郎稲荷の霊験だと、この茶屋はたちまち名所に。

田町辺の、はやらない髪床の親方。

客が来ないので、しかたなく自分のヒゲばかり抜いている。

知人に太郎稲荷のことを教えられ、
馬鹿馬鹿しいが、退屈しのぎと思ってある日、
稲荷見物に出かける。

行ってみると、押すな押すなの大盛況。

茶店のおかげで稲荷も繁盛し、
のぼり、供え物ともに以前がうそのよう。

爺さんの茶店には黒山の人だかりで、
記念品にワラジを買う人間が引きも切らない。

親方、これを見て、
「私にもこの茶店のおやじ同様のご利益を」
と稲荷に祈願、裸足参りをする。

満願の七日目、
願いが神に聞き届けられたか、
急に客が群れをなして押し寄せる。

親方、うれrしい悲鳴をあげ、
一人の客のヒゲに剃刀(かみそり)をあてがってすっと剃ると、
後から新しいヒゲがぞろぞろっ。

【うんちく】

彦六ゆかりの稲荷綺譚

これも元々は上方落語で、落語界屈指の
長寿を保った初代橘ノ圓都(1883~1972)が
得意にし、大阪での舞台は赤手拭稲荷
(現・大阪市浪速区稲荷町)でした。

東京では、早く明治期に四代目橘家円蔵
(六代目円生の師匠)が手掛け、その演出を
継承した彦六の八代目林家正蔵が、これも
上野の稲荷町に住んでいた縁があってか(?)
さらに格調高く磨き上げ、十八番にしました。

戦後では三代目三遊亭小円朝も演じましたが、
舞台は四谷・お岩稲荷としていました。
笑いも少なく、地味な噺なので、両師の没後は
あまり演じ手がいません。

太郎稲荷盛衰記 その1

太郎稲荷は、浅草田圃の立花左近将監
(筑後柳川十一万九千六百石)下屋敷の
敷地内にありました。

当時の年代記「武江年表」の享和3年(1803)の
項に、その年二月中旬から、利生があらたかだと
いうので、太郎稲荷が急にはやりだし、
江戸市中や近在から群集がどっと押しかけたと
記されています。

あまりに人々が殺到するので、屋敷でも
音を上げたとみえ、とうとう開門日を
朔日(一日)、十五日、二十八日および午の日と
制限したほどでした。

太郎稲荷盛衰記 その2

翌文化元年(1804)にはますます繁盛し、
付近には茶店や料理屋が軒を並べました。

この噺にある通り、さびれていた祠が
立派に再建されたばかりか、もとの祠を
「隠居様」とし、新しく別に社を立てたと
いいます。

ところが、稲荷ブームは流行病のようなもので、
文化3年(1806)3月4日、芝・車町から発した
大火で灰燼に帰し、それから二度と
復興されませんでした。

太郎稲荷のおもかげ

夭折した明治の浮世絵師・井上安治(1864~89)が
荒れ果てた明治初期の太郎稲荷の夜景を描いて
印象的です。

また、樋口一葉(1872~96)の「たけくらべ」
でも、主人公・美登利が太郎稲荷に参拝する
場面がありました。

おすすめCDぞろぞろ

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