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2004.12.04

悋気の独楽(りんきのこま)/落語

「悋気」とは嫉妬のこと。落語の世界では、なぜかこの言葉を使います。

だんなが田中さんのところへ行くと言って、
夜出かけていった。

焼き餠焼きのお内儀さん、
これは女のところだと当たりを付け、
小僧の長吉に提灯の火を頼りに後をつけさせるが、
これに気づいただんなが、買収しようと妾宅へ連れていく。

長吉は抜け目がなく、口八丁手八丁。

小僧は口も身上も軽いと脅し、
酒をたらふくのんだ挙げ句、
二十銭で寝返ることにする。

「えー、まさに賄賂受納つかまつりました」

だんなは
「帰ったら、山田さん宅をのぞいてオレに声をかけられたことにし、
ただいま碁が始まるようすですから、
今夜のお帰りはないでしょう、と言え」
と言い含める。

証拠物件にと、
「これはだんなさまが店の者に食わせろとおっしゃった
と、こう言うんだ」
と餡ころ餠まで渡す周到さ。

そうしているうち、
長吉がきれいな箱を見つけた。

中には三つの独楽。

それぞれ違った紋がついている。

だんなが言うには、
花菱の紋は二号の独楽。

「はあ、副細君で」
「変な言い方をするな。
こっちの三柏が家のヤツのだ」
「ご本妻の」
「これが抱茗荷でオレのだ。
これを三つ一度にまわす。
そこで、オレの独楽が花菱の方へ着けばここに泊まる
という、辻占の独楽だ」

遊びに独楽売りから買ったものだから
と、だんなが独楽をくれたので、
長吉喜んで、そろそろ引き揚げることにした。

「決してご心配ありません。お楽しみ」
「お楽しみだけ余計だ。こっちへ来たら時々寄れ」
「へい、日に三、四度」
「そんなに来られてたまるか」

どうせお内儀さんからも、
にせ情報を流した上二十銭ふんだくるつもり。

店はもう戸締まりしていたので、
「だんなのお帰り」
と大声で叫んで堂々と通ると、
早速お内儀さんがお呼びだという。

だんなのシナリオが功を奏し、
執拗な尋問を何とかかわしたと思ったら、
「奉公人が用をするのは当たり前だよ」
と何もくれない。

逆に、肩をたたいてくれと言いつけられる。

しぶしぶ肩につかまっているうち、
眠くなるので、
長吉、本店のお嬢さんがこの間踊りのおさらいに
お出になったときの「喜撰」はよかったと、
「チャチャチャンチン、世辞で丸めて浮気でこねてェ、ツチドンドン」
と拍子に乗って背中を突いた。

その拍子に独楽がポロリ。

紋がついているのでごまかしきれず、
ついにすべて白状させられる。

お内儀さんが
「やってお見せ」
と言うので実演すると、
だんなの独楽はツツツーと花菱の方へ。

「えー、あちらにお泊りです」
「おまえのやり方が悪いんだ。もう一度おやり」
「へい。……あっ、お内儀さんの独楽が近づいた。
だんなの独楽が逃げる逃げる逃げる
……あちらへお泊りです」

お内儀さん、カンカンで、
こっちィお寄越し
と、自分でまわすが、なぜかだんなの独楽がまわらない。

「これはまわらないわけです。心棒(=辛抱)が狂いました」

【うんちく】

演者など

幕末には純粋な上方落語でした。
明治になって三代目柳家小さんが東京に移植しましたが、
あまり根付かなかったらしく、速記は小さんのほかは、
八代目春風亭柳枝のものくらいです。

音源も、現在聞けるのは大阪系の三代目林家染丸、
二代目桂小南(ともに故人)だけで、小南門下だった
桂文朝がレパートリーにしていますが、レコードは
ありません。

旦那と本妻の、虚虚実実の腹の探りあいがニヤリとさせ、
同じ妾が登場する噺でも、「妻妾相和す」の
「権助提灯」などよりずっと面白いのに、
あまり演じ手がいないのは惜しいことです。

四代目志ん生の改作

四代目古今亭志ん生(1877~1926)は、美濃部孝蔵の
五代目志ん生の二度目の師匠で、俗に「鶴本の志ん生」。

「転宅」「あくび指南」などを得意とした、江戸前の
粋な芸風でしたが、その志ん生が音曲の素養を生かし、
この噺を「喜撰」と題して改作しています。

後半の独楽回しの部分を切り、小僧が清元の「喜撰」に
熱中するあまりお内儀さんを小突くので、

「おまえ、人を茶に(=馬鹿に)するね」
「へい、今のが喜撰(宇治茶の銘柄と掛けた)です」

というサゲにしました。これは一代限りで継承者は
なく、五代目志ん生にも伝わっていません。

独楽(こま)

日本渡来は平安時代以前で、コマは高麗から
渡ったことから付いた名称です。

江戸時代になり、八方独楽、銭独楽、博多独楽など、
さまざまな種類が作られ、賭博や曲独楽も
盛んに行われました。

「喜撰」

歌舞伎舞踊「六歌仙容彩(ろっかせんすがたいろどり)」の
四段目で、「古今集」で有名な六歌仙のそれぞれを、
各々の性格に応じて踊り分けるものです。

第一段が僧正遍昭(義太夫)、以下、文屋康秀(清元)、
在原業平(長唄)、喜撰法師(清元・長唄の掛け合い)、
大伴黒主(長唄)となり、
それぞれに紅一点の小野小町と、その分身である茶汲女・
祇園のお梶がからみます。
天保2年(1831)3月中村座初演で、
代々の坂東三津五郎のお家芸となっています。

「世辞で丸めて浮気でこねて」は、喜撰が花道に
登場するときの冒頭の歌詞で、浮き立つような
洒落た節回しで有名です。

それにつけても、一介の商家の小僧にまで
踊りや音曲の素養が根付いていた、かつての江戸・東京の
文化水準の高さには驚かされます。

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