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2004.12.04

転宅(てんたく)/落語

転宅

泥棒より数枚上手な女の話。それにしても、この泥棒の人のよさにはあんぐり。

二号が「権妻(ごんさい)」と
呼ばれるようになった明治のころ。

船板塀に見越しの松の妾宅に、
だんなが五十円届けて帰った後、
これを聞きつけて忍び込んだのが間抜けな泥棒。

お膳の残り物をムシャムシャ食っているところを
二号のお梅に見つかり、
「さあ、ダンツクが置いてった五十円、
蛇が見込んだ雨蛙。
四の五の言わずに出せばよし、
いやだ応だと抜かしゃがると、
伊達には差さねえこの大だんびら、
うぬがどてっ腹へズブリズブリとお見舞い申すぞ」
と居直ったが、
この二号、一向に動じないばかりか、
あたしも実は元はご同業で、
とうにだんなには愛想が尽きているから、
あたしみたいな女でよかったら、
連れて逃げておくれ
と言いだしたから、泥棒は仰天。

五十円はおろか、
この家にはあたしの蓄えもいれて千円あるから、
この金を持って駆け落ちし、
世界一周した後、おまえさんに芸者屋でもやってもらう
と、色仕掛けで迫る。

泥棒、でれでれになって、とうとう夫婦約束。

そう決まったら今夜は泊まっていく
と図々しく言いだすと
「あら、今夜はいけないよ。
二階にはだんなの友達でえらく強いのが、酔っぱらって寝てるんだから」

明日の朝忍んでいく約束をしたが、
「亭主のものは女房のもの。
このお金は預かっておくよ」
と、稼いだなけなしの二十円を巻き上げられる始末。

で、その翌朝。

うきうきして泥棒が妾宅にやってくると、
あにはからんやもぬけのカラ。

慌てて隣の煙草屋のおやじに聞くと、
「いや、この家には大変な珍談がありまして、
昨夜から笑いつづけなんです」

女は実は、元は旅稼ぎの女義太夫がたり。

方々で遊んできた人だから、人間がすれている。

間抜け野郎の泥棒を口先でコロッとだまし、
あの後、だんなをすぐに呼びにやったところ、
あとで何か不都合があるといけないというので、
泥棒から巻き上げた金は警察に届け、
明け方のうちに急に転宅(引っ越し)したとか。

「えっ、引っ越した。義太夫がたりだけに、うまくかたられ(だまされ)た」

【うんちく】

たちのぼる明治の匂い

「権妻」「転宅」ともに明治初期から使われた漢語。
まぎれもなく明治の新時代につくられた噺です。

「明治の爆笑王」・鼻の円遊こと初代三遊亭円遊が
得意にしました。
円遊は、文明開化の新風俗を当て込み、
鉄道馬車を登場させたり、オチも、

「あそこにシャボンが出ています」

と変えるなどしました。また、同時代で音曲の弾き語りや
声色などで人気のあった二代目古今亭今輔は、
女が目印にタライを置いておくと言い、オチは、

「転宅(=洗濯)なさいましたか。道理で
タライが出ています」

としています。
やはり、一つの時代の風俗に密着しているだけに、
これから生き残るのは難しい噺でしょう。

権妻

本妻に対しての妾(愛人)をいいます。
「権」は、「権大納言」と言うように「次なる方」
という敬称で、妾に対してわざと洒落て
使ったものです。

船板塀に見越しの松

「黒板塀に・・・・」ともいいます。
当時の典型的な妾宅の象徴として、三世瀬川如皐作の
代表的な歌舞伎世話狂言「源氏店」(おとみ与三郎)
にも使われました。

船板塀は、古くなった廃船の船底板をはめた塀で、
ふつう忍び返しという、とがった竹や木を連ねた
泥棒よけが上部に付いていました。

見越しの松は、目印も兼ねて塀際に植え、外から
見えるようにしてあります。いずれも芸者屋の造りを
まね、主に風情を楽しむために置かれたものです。

「ドウスル!」女義太夫

「娘義太夫」「タレギダ」ともいいます。
これも幕末に衰えていたのが、明治初年に復活したものです。
明治中期になると全盛期を迎え、取り巻きの書生連が
義太夫の山場にかかると、

「ドウスル、ドウスル」

と声をかけたので、「ドウスル連」と呼ばれました。
今でいうアイドルのはしりで、その人気のほどは、
木下杢太郎(1885~1945)の詩「街頭初夏」(明治43年)に、

濃いお納戸の肩衣の/花の「昇菊、昇之助」/義太夫節の
びら札の/藍の匹田(しった)もすずしげに

と活写されていますが、この噺の妾のように旅回りの
女芸人となると、泥水も散々のみ、売春まがいのことも
するような、かなり悲惨な境遇だったのでしょう。
そこから這い上がってきたのですから、したたかにも
なるわけです。

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