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2004.12.23

明烏(あけがらす)  落語

堅物が実はもてる、という、廓ならではのいい噺。 この1枚:明烏

異常なまでにまじめ一方と近所で評判の
日本橋田所町・日向屋半兵衛のせがれ時次郎。

今年十九だというに、
いつも本にばかりかじりつき、
女となればたとえ雌猫でも鳥肌が立つ。

今日も今日とて、
お稲荷さまの参詣で赤飯を三杯ごちそうになったと
とくとくと報告するものだから、
おやじの嘆くまいことか。

堅いのも限度がある、
いい若い者がこれでは、
跡継ぎとしてこれからの世間付き合いにも差し支える
と、かねてからの計画で、
町内の札付きの遊び人・源兵衛と太助を「引率者」に頼み、
一晩吉原で遊びのレッスンを受けさせることにした。

本人にはお稲荷さまのおこもりとゴマまし、
お賽銭が少ないとご利益(りやく)がないから、
向こうへ着いたらお巫女(みこ)さん方へのご祝儀は、
便所に行くふりをしておまえが全部払ってしまいなさい、
源兵衛も太助も札付きのワルだから、
割り前なんぞ取ったら後がこわい
と、こまごま注意して送り出す。

太助のほうはもともと、
お守りをさせられるのがおもしろくない。

その上、若だんながおやじに言われたことを
そっくり、「後がこわい」まで
当人の目の前でしゃべってしまったからヘソを曲げるが、
なんとか源兵衛がなだめすかし、
三人は稲荷ならぬ吉原へ。

いかに若だんながうぶでも、
文金、赭熊(しゃごま)、立兵庫(たてひょうご)などという髪型に結った女が、
バタリバタリと上草履の音をさせて廊下を通れば、
いくら何でも女郎屋ということはわかる。

泣いてだだをこねるのを
二人が「このまま帰れば、大門で怪しまれて会所で留められ、
二年でも三年でも帰してもらえない」と脅かし、
やっと部屋に納まらせる。

若だんなの「担当」は
十八になる浦里という絶世の美女。

そんな初々しい若だんななら、ワチキの方から出てみたい
という、花魁(おいらん)からのお見立てで、
その晩は腕によりをかけてサービスしたので、
堅い若だんなも一か所を除いてトロトロ。

一方、源兵衛と太助はきれいさっぱり
敵娼(あいかた)に振られ、
ぶつくさ言いながら朝、甘納豆をヤケ食い。

若だんなの部屋に行き、
そろそろ起きて帰ろうと言ってもなかなか寝床から出ない。

「花魁は、口では起きろ起きろと言いますが、
あたしの手をぐっと押さえて……」
とノロケまで聞かされて太助、
頭に血が昇り、甘納豆をつまんだまま梯子段からガラガラガラ……。

「じゃ、坊ちゃん、おまえさんは暇なからだ、
ゆっくり遊んでらっしゃい。
あたしたちは先に帰りますから」

「あなた方、先へ帰れるなら帰ってごらんなさい。大門で留められる」

【うんちく】

極め付き文楽十八番

あまり紋切り型は並べたくありませんが、
この噺ばかりはまあ、上記の通りで仕方ないでしょう。

八代目桂文楽が二ツ目時代、初代三遊亭志う雀
(のち八代目司馬龍生)に習ったものを、
四十数年練り上げ、戦後は、古今亭志ん朝が台頭するまで、
文楽以外は演り手がないほどの十八番としました。

それ以前は、サゲ近くが艶笑がかっていたのを改め、
おやじが時次郎を心配して送り出す場面に情愛を出し、
さらに一人一人のしぐさを写実的に表現したのが文楽演出の特徴でした。

時代は明治中ごろとし、
父親は前身が蔵前の札差で、
維新後に問屋を開業したという設定になっています。

原話となった心中事件

「明烏○○」と表題がついた作品は、明和年間
(1764~72)以後幕末にいたるまで、歌舞伎、音曲と
あらゆるジャンルの芸能で大量生産されました。

その発端は、明和3年(1766)旧暦6月、吉原・
玉屋の遊女美吉野と、人形町の呉服屋の若旦那
伊之助が、宮戸川(隅田川の山谷堀あたり)に
身を投げた心中事件でした。

それが新内「明烏夢淡雪」として
節付けされ、江戸中で大流行したのが第一次ブーム。
事件から半世紀ほど経た文政2年(1819)から
同9年にかけ、滝亭鯉丈と為永春水が
「明烏後正夢」と題して人情本という、今でいう
艶本小説として刊行。第二次ブームに火をつけると、
これに落語家が目をつけて同題の長編人情噺に
アレンジしました。

現行の「明烏」は恐らく幕末に、その発端を
独立させたものでしょう。

大門で止められる?

吉原では、大見世遊びのときには、まず
引手茶屋にあがり、そこで幇間と芸者を呼んで
一騒ぎした後、迎えが来て見世(女郎屋)に行くならわしでした。

この噺では、茶屋の方も
お稲荷さまになぞらえられては決まりが悪いので、
早々に時次郎一行を見世に送り込んでいます。

大門は両扉で、黒塗りの冠木(かぶき)門。夜は
引け四つ(午前0時)に閉門しますが、
脇にくぐり門があり、男ならそれ以後も出入りできました。

大門内に監視所があり、俗に四郎兵衛と
呼ばれましたが、お上に協力して不審者をチェックする場所。

むろん「途中で帰ると大門で止められる」は真っ赤な嘘です。

甘納豆

八代目桂文楽で、太助が朝、振られて甘納豆を
ヤケ喰いする仕種の巧妙さは、今も古い落語ファンの間で語り草です。

甘納豆は嘉永5年(1858)、日本橋の菓子屋が初めて売り出しました。

なお、文楽直伝でこの噺に現代的なセンスを
加味した故・古今亭志ん朝は、甘納豆を何と
梅干の砂糖漬けに代え、タネをプッと吐き出して
源兵衛にぶつけるおまけつきでした。

日本橋田所町

現在の東京都中央区堀留町二丁目。

日本橋税務署のあるあたりです。

浦里時次郎

新内の「明烏夢淡雪」以来、「明烏」ものの
カップルはすべて「山名屋浦里・春日屋時次郎」
となっています。

落語の方は、心中ものの新内を
その「発端」という形でパロディ化したため、
当然主人公の名も借りています。

うぶな者がもてて、半可通や遊び慣れた方が
振られるという逆転のパターンは、
「遊子方言」(明和7=1770年ごろ刊)以来、
江戸の遊里を描いた「洒落本」に共通のもので、
それをそのまま、オチに巧みに取り入れています。

【コラム】

ご存じ、8代目桂文楽のおはこ。
文楽存命中はだれもやれず、
のちに志ん朝がやった。もっとうまかった。

明和3(1766)年6月3日 (一説には明和6年とも) 、
吉原玉屋の花魁美吉野と、人形町の呉服太物商春日屋の次男伊之助が、
白ちりめんのしごき(女性の腰帯。結ばないでしごいて使う)でしっかり体を結び合って
宮戸川(隅田川の山谷堀辺) に入水した。

これが、宮戸川心中事件といわれるもの。

事件をもとに、初代鶴賀若狭掾が新内「明烏夢淡雪」として世に広めた。

さらに、文政2(1819)~7年には、
滝亭鯉丈と為永春水が続編のつもりで人情本「明烏後正夢」を刊行。

この本の発端を脚色したのが、落語「明烏」。

以降、「明烏」ものは、
歌舞伎、音曲などあらゆる分野で大量生産された。

うぶな男がもてて半可通が振られるという類型は、
江戸の遊里を描いた洒落本には共通のもの。

もてるもてないは、どこか宿命めいている。

修行の必要などなさそうだ。(ふ)

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