« 天狗裁き(てんぐさばき)  落語 | トップページ | 猫の災難(ねこのさいなん)  落語 »

2005.01.08

唖の釣り(おしのつり)  落語

いまじゃ、めったに聞けない珍品落語ですね。

馬鹿の与太郎に、
釣をする奴は馬鹿と言われた七兵衛、
思わずむっとして、殺生禁断の不忍池で鯉を密猟し、
売りさばいてもうけていることをばらしてしまう。

弱みを握られ、その夜与太郎を連れて「仕事」に行く羽目に。

そこで七兵衛、
「見張りの役人に見つかったら、
どうせ4発はぶたれるから、出る涙を利用し
『長の患いの両親に、精のつく鯉を食べさせたいが金がなく、
悪いこととは知りながら孝行のため釣りました。
親の喜ぶ顔さえ見れば名乗って出るつもりでした』
と泣き落とせば、孝行奨励はお上の方針、見逃してくれる」
と知恵をつける。

ところが与太郎、
あまりに簡単に釣れたので大はしゃぎ。

案の定、
捕まって10発も余計にぶたれたが、
教えられた泣き落としが何とか効き、
お目こぼしでほうほうの体で逃げていく。

一方、七兵衛、
池の反対側でせっかくこっそり釣っていたのに、
与太郎のとばっちりで見つかり、これまたポカポカポカ。

恐怖と痛さで腰が抜け、
ついでにあごも外れてしまう。

とっさにこれを利用して、
アーウーアーウーとパントマイムを交えて大熱演。

役人、口がきけない奴ではしかたがないと、
これまためでたく釈放。

許してつかわすと言われて思わず
「ありがたいッ」

●うんちく

これも上方発祥

聾唖者が最後に口を利くという
オチの部分の原話はかなり古く、
京都辻ばなしの祖とされる初代露の五郎兵衛が
元禄11年(1698)に刊行した「露新軽口ばなし」中の
笑話「又言ひさうなもの」です。

上方落語「唖の魚釣り」として細部が整えられ、
東京には八代目林家正蔵が、大阪の二代目
桂三木助に教わったものを移しました。

舞台は大阪では天王寺の池、東京の正蔵では
寛永寺の池と言い、普通は具体的には
言わないもののようです。また、正蔵は
大阪で甚兵衛といっている主人公の名を
七兵衛と変えましたが、これはパントマイムで
名前が出やすいようにという配慮の由です。

殺生禁断

江戸時代、寺社の池はどこも
仏教の殺生戒により、殺生禁断が寺社奉行より
申し渡されていましたが、上野の近辺は
寛永寺の将軍家御霊屋があるため、
不忍池では禁忌が特に厳しく徹底されていたわけです。

下手をすれば密漁人は死罪に処さなければ
ならないので、番人もなるべく未遂で済まそうと
警戒怠りなかったのでしょう。

なお、蛇足ですが、松竹新喜劇の人気演目・
「浪花の鯉の物語」(平戸敬二作)は、
やはり狩猟禁止の大坂・厳島神社の鯉の
密漁騒動をめぐる人情喜劇で、あるいは落語に
何らかのヒントを得ているのかも知れません。

オチが同じ「ひねりや」

正蔵も芸談で触れていますが、
今は演じ手のない古い江戸落語「ひねりや」は
オチが「唖の釣」と同じで、明治33年の
初代三遊亭円左の速記が残ります。

あらすじは、町内一のひねり屋(=変わり者、あまのじゃく)・捻(ひねり)屋素根右衛門が、
沢庵石に注連縄を張って拝んだ結果、素根吉という男の子を授かります。
この子が成長するとひきこもりになり、本ばかり読んでいるので、
親父が「明烏」よろしく、道楽をしないと勘当だと脅すので、渋々大八車で吉原へ。

これが親父まさりのひねくれで、
散々妙なものを注文したあげく、目が三つ
あるような変わったおいらんを出してくれたら、
ご祝儀に二十両、おいらんには百両はずむと
言い出したので、欲にかられた帳場では
聾唖なのに耳は聞こえるという女郎を
「急造」して座敷に出します。

にわか聾唖のおいらん、百両欲しさに
目をむいて身振り手振り、パントマイムで大奮闘。
ムームー言っているうち、女の名前を「権兵衛」と
聞き違えた素根吉若だんな、喜んで百両出すと、
女は感激のあまり

「ああら、ちょいと、ありがとう」
「おや、ひねった唖だ。口をきいた」。

すたれさせるにはもったいない
エスプリの利いた噺ですが、「諸般の事情」の
ためか、「唖の釣」同様、
まったく演じられないのが少々惜しまれます。

今回の圓太郎師匠もそうでしたが、
「唖の釣」でも、最後の「おや・・・・」は、
今では普通カットされます。

|

« 天狗裁き(てんぐさばき)  落語 | トップページ | 猫の災難(ねこのさいなん)  落語 »

落語のあらすじ 」カテゴリの記事

コメント

2/16の松本落語会(長野県松本市)にて、五明樓玉の輔師匠が、「唖の釣り」を掛けました。初めて聞く噺だったので、ネットをあれこれ調べ、こちらのサイトに辿り着きました。題名が判って、すっきりしました。ありがとうございます。

投稿: 酔呆庵 | 2006.02.17 02:11

酔呆庵さんへ

それはよかったです。
お暇なときに、のぞいてみてください。
これからも少しずつ充実させていきますんで。
メルマガもよろしくです。

投稿: 古木優 | 2006.02.17 16:53

昨年12月に柳家花緑が、つい先週に二代目林家木久蔵がかけているのを聞きました。
噺にも流行があるのかなあ、と素朴に思いました。

投稿: みのる | 2008.02.18 15:51

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/60017/2506798

この記事へのトラックバック一覧です: 唖の釣り(おしのつり)  落語:

» 1月30日 日 はれ [amazon特急 マーケットプレイスでぷーとばせ]
ずいぶん寒いなと思ったら 風邪をひいて熱を出している。 38度5分。 これじゃ、まちなか歩いていても寒気がするわけだ。 悪寒というやつ(人肌で)。 [続きを読む]

受信: 2005.01.31 16:42

« 天狗裁き(てんぐさばき)  落語 | トップページ | 猫の災難(ねこのさいなん)  落語 »