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2005.01.08

猫の災難(ねこのさいなん)  落語

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猫のお余りで一杯。せこな噺ですねえ。

文無しの熊五郎。

朝湯から帰って一杯やりたいと思っても、先立つものがない。

のみてえ、のみてえとうなっているところに、
隣のかみさんが声をかけた。

見ると、大きな鯛の頭と尻尾を抱えている。

猫の病気見舞いにもらって、身を食べさせた残りだという。

捨てに行くというので、
頭は眼肉がうまいんだから、
あっしにくださいともらい受ける。

これで肴はできたが、
肝心なのは酒。

猫がもう一度見舞いに酒をもらってくれねえかとぼやいていると、
ちょうど訪ねてきたのだ兄貴分。

おめえと一杯やりたいと誘いに来た、という。

サシでゆっくりのむことにしたが、
何か肴が……と見回し、鯛の頭を発見した兄貴分、
台所のすり鉢をかぶせてあるので、
真ん中があると勘違い。

こんないいのがあるのなら、
おれが酒を買ってくるからと大喜び。

近くの酒屋は二軒とも借りがあるので、
二丁先まで行って、五合買ってきてもらうことにした。

さあ困ったのは熊。

いまさら猫のお余りとは言いにくい。

しかたがないので、
兄貴分が酒を抱えて帰ると、
おろした身を隣の猫がくわえていったとごまかす。

「それにしても、まだ片身残ってんだろ」
「それなんだ。ずうずうしいもんで、
片身口へくわえるだろ、
爪でひょいと引っかけると小脇ィ抱えて」
「何?」
「いや、肩へぴょいと」

日ごろ隣には世話になってるんで、
我慢してくれと言われ、
兄貴分、不承不承代わりの鯛を探しに行った。

熊、ほっと安心して、酒を見るともうたまらない。

冷のまま湯飲み茶碗で早速一杯。

どうせあいつは一合上戸で、たいしてのまないから、
とたかをくくって、
いい酒だ、うめえうめえと一杯また一杯。

これは野郎に取っといてやるかと、
燗徳利に移そうとした途端にこぼしてしまう。

もったいないと畳をチュウチュウ。

気がつくと、もう燗徳利一本分しか残っていない。

やっぱり隣の猫にかぶせるしかないと
「猫がまた来たから、追いかけたら座敷の中を逃げ回って、
逃げるときに一升瓶を後足で引っかけて、
全部こぼしちまった」
と言いわけすることに決めた。

そう決まればこれっぱかり残しとくことはねえ
と、熊、ひどいもので残りの一合もグイーッ。

とうとう残らずのんでしまった。

いい心持で小唄をうなっているうち、
「こりゃいけねえ。猫を追っかけてる格好をしなきゃ」
と、向こう鉢巻に出刃包丁、
「あの猫の野郎、とっつかめえてたたっ殺して」
と一人でがなってると、待ちくたびれてそのまま白川夜船。

一方、鯛をようやく見つけて帰った兄弟分。

酒が一滴もないのを知って仰天。

猫のしわざだと言っても今度はダメ。

「この野郎、酔っぱらってやがんな。
てめえがのんじゃったんだろ」
「こぼれたのを吸っただけだよ」
「よーし、おれが隣ィどなり込んで、
猫に食うもの食わせねえからこうなるんだって文句を言ってやる」

そこへ隣のかみさんが
「ちょいと熊さん、いい加減にしとくれ。
さっきから聞いてりゃ、隣の猫隣の猫って。
家の猫は病気なんだよ。
お見舞いの残りの鯛の頭を、おまえさんにやったんじゃないか」

これで全部バレた。

「この野郎、どうもようすがおかしいと思った。
やい、おれを隣に行かせて、どうしようってえんだ」
「だから、猫によく詫びをしてくんねえ」

●うんちく

小さん十八番、「のん兵衛噺」の白眉

これも、三代目柳家小さんが東京にもたらした
数多い上方落語の一つです。

当然、三代目、四代目と代々の小さんに継がれた
「お家芸」ですが、特に五代目は、
「試し酒」「禁酒番屋」「一人酒盛」などで
見物をうならせた、リアルな仕種と酒のみの
心理描写を、この噺で集大成したかのように
お見事な芸を見せてくれました。

中でも、畳にこぼした酒をチューチュー
吸う場面、相棒が帰ってきてからのべろべろの
酔態は、愛すべきノンベエの業の深さを
描き尽くして余すところがありませんでした。

同じ酔っ払いを演じても、酒乱になってしまう
六代目笑福亭松鶴と違い、小さんの「酒」は
リアルであっても、後口にいやな匂いが
残りませんでした。これも芸風と人柄でしょう。

大阪の演出

大阪では、腐った鯛のアラを酒屋に
ただでもらう設定で、最後のサゲは、
猫が入ってきたので、阿呆がここぞとばかり、

「見てみ。可愛らし顔して。おじぎしてはる」

と言うと、猫が神棚に向かって前足を合わせ、

「どうぞ、悪事災にゃん(=難)をまぬかれ
ますように」

と地口で落とします。

初代桂春団治が得意にし、戦後は二代目春団治、
実生活でも酒豪でならした六代目笑福亭松鶴が
よく高座にかけました。

五代目志ん生の「犬の災難」

五代目古今亭志ん生は、「犬の災難」の演題で
猫を犬に替え、鯛ではなく、隣に届いた鶏を
預かったことにしました。

相棒が酒を買いに行っている間に、
隣のかみさんが戻ってきて
鶏を持っていってしまうという、
合理的な段取りです。

最後は酒を「吸った」ことを白状するだけで、
オチらしいオチは作っていません。

三代目金馬の失敗談

釣りマニアだった三代目三遊亭金馬が、
防波堤で通し(=徹夜)の夜釣りをしていたときのこと。

大きな黒鯛が掛かり、喜んで魚籠に入れておくと
いつの間にか消えています。
そのうち、金馬と友達の弁当まで消失。
無人の防波堤で泥棒などいないのにとぞっとしましたが、
実はそれは、そのあたりに捨てられた野良猫のしわざ。
堤の石垣に住み着いて、釣りの獲物を失敬しては
食いつないでいたわけです。

「それからこっち、魚が釣れないと、
また猫にやられたよって帰ってくる」
    
(三代目三遊亭金馬「随談猫の災難」)

こぼれ話

五代目小さんは、
相棒が酒を買いに行く店を「酢屋満」としていますが、
これは、
目白の小さん宅の近所にあった実在の酒屋。

酒をのみほした後、小唄をうなるのは、五代目の工夫です。

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