« AllAbout落語(リンク) | トップページ | 宿屋の富(やどやのとみ)  落語 »

2005.02.11

二階ぞめき(にかいぞめき)  落語

ここまでなりきれれば、いよッ、吉原オタク!

若だんなが毎晩、吉原通いをするものだから
堅物のおやじはかんかん。

世間の手前「勘当する」と言いだす。

番頭が心配して意見をしにくるが、
この道楽息子、まるで受け付けない。

「女がどうのこうのじゃないんで、吉原のあの気分が好きなんだから、
毎日行かずにはいられない、吉原全部を家に運んでくれれば、行かない」
と言う。

これには番頭驚いたが
「それで若だんなの気がすむなら」と、
二階を吉原の通りそっくりに改造し、
灯まで入れて、ひやかし(そぞろ歩き)ができるようにした。

棟梁の腕がいい上、
吉原まで行って実地検分してきたので本物そっくりで、
若だんなは大喜び。

番頭に
「服装が大事だから古渡り唐桟を出せ」
「夜露は毒だから頬っかぶりをしていく」
などと騒いだあげく
「じゃ、行ってくるよォ。だれが来ても上げちゃァいけないよォ」

二階の吉原へとんとんとん。

上ってみると、茶屋行灯に明かりは入っているし、
張り見世もあるし、そっくりなのだが、
残念なことに、人がいない。

…当たり前だ。

そこで、
人のいなくなった大引け(午前二時)過ぎという設定で、
一人で熱演し始める。

『ちょいとあァた』
『何でえ、ダメだよ、今夜は』
『そんなこと言わないで。あのコがお茶ひいちゃうから』

忙しいこと。
BGMを新内から都々逸へ。

「別れにヌシの羽織がァ、かくれんぼォ…ッと」

ここで花魁が登場。

『ちょいと、兄さん、あがっとくれよッ』
『やだよ』
『へん、おアシがないんだろ。この泥棒野郎』
『ドロボーたァなんでィ』
『まァまァ』

止めに入った若い衆と花魁、
一人三役で大立ち回り。

『この野郎、さあ殺せッ』

一階のおやじ、大声を聞きつけて、
たまに家にいると思えば…と苦い顔。

ところがよく聞いてみると、
何か三人でけんかしている模様。

あわてて小僧の定吉を呼んで
「二階へ行ってせがれを連れてこい」
と命じる。

定吉、上ってみると
「あれッ、ずいぶんきれいになっちゃたなあ。明かりもついてやがる」

頬っかぶりをした人がいるので、
泥棒かしらんと思ってよく見るとこれが若だんな。

なにやら自分で自分の胸ぐら取って
「さあ殺しゃあがれ」とやっている。

「しょうがねえなあ。ねえ、若だんな」
「何をしやがる。後ろから小突きやがって。
前から来い。だれだって?
なあんだ。定か。悪いところで会ったなあ。
おい、おめえな、ここでおれに会ったことは、
家ィ帰っても、おやじにゃあ黙っててくんねえ」

【うんちく】

◆「ぞめき」って、なに?

「騒」と書きます。
動詞形は「騒(ぞめ)く」です。

古い江戸ことばで、
大勢でわいわい騒ぎながら歩くこと。

そこから転じて、
おもに吉原などの遊里を、
見世に揚がらずに、
女郎や客引きの若い衆を
からかいながら見物する
という意味になりました。

これを「ひやかし(素見)」ともいい、
こちらの方が一般によく使われました。

要するに、
遊興代がないのでそうするより仕方がないのですが、
そればかりともいえず、
ひやかし(ぞめき)の連中と張り見世、
つまりショウウィンドーにずらりと並ぶ女郎との丁々発止のやりとりは、
吉原の独特の文化、情緒となって、
遊里を描いた洒落本(しゃれぼん)や芝居、音曲などの恰好の題材となりました。

原話では少しつつましく……

もっとも古い原典は、
延享4(1747)年、江戸で刊行された笑話本「軽口花咲顔」中の「二階の遊興」ですが、
オチを含め、現行の落語と大筋は変わりません。

ただ、こちらはそう大掛かりな「改築」をするわけでなく、
若だんなが二階のふすまや障子に
茶屋ののれんに似たものをつるし、
それに「万屋」「吉文字屋」などと書き付けて、
遊びの追憶にふけっているという設定です。

そのあと一人三役の熱演中、小便に行きたくなって
階段を下りる途中で小僧に出くわし、オチのセリフになりますが、
落語のように、現実を完全に忘れ去るほどでなく、
至ってつつましいものです。

その後、落語としては大坂で発達したので、
二階を遊郭(大坂では新町)にしてしまうという
現実離れした派手さと贅沢さは、
完全に上方の気風によって付け加えられたといってよいでしょう。

志ん生がもっとも好んだ噺

落語の古い口演記録として、きわめて貴重な、
万延2(1861=文久元)年の、大坂の桂松光のネタ帳「風流昔噺」に、
この噺と思われる「息子二階のすまい ここでおうたゆうな」
という記述があり、すでにこのころには上方落語として
演じられていたことがわかります。

これを明治期に、三代目柳家小さんが東京に「逆輸入」したとされますが、
古い速記やレコードは一切なく、
残っているのは、現役の立川談志のCDを除けば
五代目古今亭志ん生のもののみです。

志ん生がこの噺を誰に教わったかは不明ですが、
おそらく、三代目小さん門下の廓噺の天才・初代柳家小せん(→「五人まわし」)でしょう。

志ん生は寄席やホール落語で、「二階ぞめき」を
数え切れないほど演じました。

それだけに、志ん生の数多い十八番のうちでも、
もっとも志ん生好みの噺といえますが、
自分が若き日に通いつめた、古き良き吉原への
追慕もさることながら、志ん生が何より愛したのは、
この若だんなの純情さ、それを許してしまう
棟梁その他周囲の人々の江戸っ子の洒落気や
懐の深さではなかったでしょうか。

志ん生指導:正しい吉原の歩き方・序

「ひやかし」の語源は・・・・
「昔、吉原の、近在に、紙漉(かみすき)場があって、
紙屋の職人が、紙を水に浸して、待ってんのが退屈だから、
紙の冷ける間ひと廻り回ろう-てんで、
『ひやかし』という名前がついてきたんですな」
とのことです。

ところで、ただ単に吉原をぶらつくといっても、
おのずとそこには厳しいルールとマナーがあります。
洗練された文化を体現し、粋な男になるためには、
情熱と努力、そして何より年期が大切なのです。

次の若だんなの一言が、すべてを物語っています。
「俺ァ女はどうでもいいんだよ。うん。俺ァ吉原ってものが好きなんだよ」 
好きこそものの上手なれ。

それでは、志ん生師匠指導「ひやかし道」の基本から。

正しい吉原の歩き方:まずは正しい服装から

どの道も、修行はまず形からです。

それにふさわしい服装をして初めて、魂が入ります。

相撲取りはあの格好だからこそ相撲取り。スーツで
土俵入りはできません。

その1 
必ず古渡唐桟(こわたりとうざん) を着用のこと。
唐桟は、ふつうは木綿の紺地に赤や浅黄の縦縞をあしらい、
平織(縦糸・横糸を一本ずつ交差させたシンプルな織り方)に
仕立ててあります。室町時代にインドから渡来した古い
デザインなので、「古渡」の名があります。派手な上に
身幅が狭く、上半身がきゅっとしまっていかにもすっきりした
いい形なので、色街遊びには欠かせません。

その2 
着物は必ず袂を切った平袖にします。いわば
ノースリーブです。これは、吉原を漂っていると、必ず
同じ格好のひやかし客とぶつかります。そうすると、
ものも言わずに電光石火でパンチが飛んで来ますから、袂が
あると応戦が遅れ、あえなくのされてしまいます。それでは
男の面子丸つぶれ。そこで、平袖にして常に拳を固めて
懐に忍ばせ(これをヤゾウといいます) 、突き当たった瞬間、
間髪入れずに右フックを見舞わなければなりません。そのための
備えなのです。

その3 
必ず「七五三の尻はしょり」をします。七五三とは、
七の図、つまり腰の上端、フンドシまたはサルマタの締め際まで
着物のすそをはしょり、内股をちらりとのぞかせることで、
鉄火な(威勢のいい)男の色気を見せつけます。
仕上げに、渋い算盤玉柄の三尺帯をきりりと締めれば一丁あがり。
ただし、くれぐれもフンドシを締め忘れないよう注意のこと。
公然わいせつで八丁堀のだんなにしょっ引かれます。

その4 
最後に、手拭で頬かむりをすれば準備完了。ただし、
この場合もどんな柄でもいいというわけにはいきません。 ひやかしに
最適なのは亀のぞきという、ごく淡い、品のいい藍色地に染めた
ものです。頬かむりは、深夜に出かけるため、夜露を防ぐ意味も
ありますが、何よりも、かの有名な芝居の「切られ与三」が源氏店の
場でしているのがこの「亀のぞき」であることからも分かるように、
ちょっと斜に構えた男の色気を出すためには必携のアイテムです。
これで、夜の暗さとあいまって、あなたも海老蔵に見えないことも
ありません。 ただし、間違っても黒地で盗人結びになどしないこと。
八丁堀のだんなにしょっ引かれます。

その5 
以上で、スタイルはOK。
あと、基本的な心得としては、
その2でも触れましたが、
必ず、100パーセント間違いなく、
一回の出撃で喧嘩が最低三度は起こりますから、
無事に生きて帰るためにも、先制攻撃の覚悟を常に持つこと。
また、どんなに客引きの若い衆に泣き落とされ、
はたまた張り見世のお茶ひき(あぶれ)女郎に誘惑され、
果ては銭なしの煙草泥棒野郎と罵られても、
絶対に登楼などしないという、
固い決意と意志を持ってダンディズムを貫くことが大切です。

とまあ、
こういうスタイルで若だんなは「出かけた」わけですが・・・・
この二階の改築費用、どのぐらいについたか、他人事ながら心配です。
おまけに、当主の親父は知らぬが仏。
この店の身代も、この分では十年ももつかどうか・・・・。
いつの世も、かく破滅の淵をのぞかないと、
道楽の道は極められないようで。

おすすめCD二階ぞめき

|

« AllAbout落語(リンク) | トップページ | 宿屋の富(やどやのとみ)  落語 »

落語のあらすじ 」カテゴリの記事

コメント

かめのぞきの字が間違ってます。紺屋高尾に出てくる甕覗きと同じでないと。

投稿: アネ | 2011.08.17 01:30

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/60017/2889663

この記事へのトラックバック一覧です: 二階ぞめき(にかいぞめき)  落語:

« AllAbout落語(リンク) | トップページ | 宿屋の富(やどやのとみ)  落語 »