« お神酒徳利(おみきどっくり)  落語 | トップページ | 幇間腹(たいこばら)  落語 »

2005.02.11

胡椒の悔やみ(こしょうのくやみ)  落語

まじめなときになんだか笑っちゃうことって、ときにありますよね。 この1枚:胡椒の悔やみ

何を見てもおかしくなるという幸せな男。

今日もケラケラ笑って兄貴分の家にやってくる。

自分の長屋の地主の娘が、急に昨夜死んでしまったのが、
おかしくてたまらないと言う。

あきれけえった野郎だと兄いがたしなめても、
だって、七十八十でもまだ腐らない奴があるのに、
あんな十七八の小娘が死んじまって生意気だと、
フシギな理屈で、いつまで経っても笑いが止まらない。

兄貴分が
「てめえがいつも出入りさせてもらって、
普段から半纏の一枚もいただいてる家じゃねえか。
こういう時こそ手伝いに行って、くやみの一つも言ってみろ。
また目をかけてくれる」
と勧めるが、くやみの言いわからないから、やさしい奴を一つ教えてくれという。

「……いいか。承って驚き入りました、
お嬢さまはおかくれだそうでございます、
さぞお力落としでございましょう」
「えー、お力が出たでしょう」
「馬鹿野郎。なぐられるぞ」

何とかセリフだけは教え込まれ、
悲しくなくても涙の一つくらい流さなくちゃならねえ、
特にてめえは笑い止めが必要だと兄貴分が言い、
渡されたのが胡椒の粉。

なめるとなるほど涙がポロポロ。

向こうまで遠いから、あんまり早くなめて行くと効き目が切れる。

かといって、向こうへ行ってからベロベロやってくやみを言ったのでは
バレてしまって体裁が悪いから、
垣根か戸袋の陰でこっそりなめろと、
細かい「指導」の上送りだされる。

さて式場。

早くも女どもが、クドクドと心にもないくやみを並べ立てるのを聞くと、
野郎、またまた笑いがこみ上げてきた。

「あのオカミめ。あいつも胡椒なめやがったな。
プッ、フ、フ、ハハ、いけねえ。俺もそろそろやるか」

ドジな奴で、
いっぺんに全部口に放り込んだので、
まるで舌に火が付いたよう。

そこへ娘の母親。

「おまえ、どうおしだね。 ボロボロ涙をこぼして」
「へえ、少しなめすぎたらしくて……承って驚き入り……
お嬢さまが……ハックショッ!! 
鼻に入りやがって。……もし、水をすこしおくんなさい」

やっと落ちつき、
「えー、お嬢さまがおかくれでございまして、お嬢さまがおかくれで」

そこでグイッと水をのんで、
「あー、いい気分だ」

【うんちく】

原話二題

原話として知られる小ばなしは、
安永2(1773)年刊の「聞上手」中の「山椒」、
及び同3年刊「茶の子餅」中の「悔やみ」です。

前者の「山椒」は、八百屋で
山椒をかじっていた男が、からいので
茶をもらってのんでいるうち、向こうの家で
主人が二階から落ちて大けがという騒ぎ。
男はまだスウスウ言いながら駆けつけ、
家人と話しているうちに辛味が消え、
「やれそれは、スウ、ホウ、いい気味(=気分)だ」
と言ってしまうもの。

後者の「悔やみ」は、
やや現行に近くなり、
山椒のからさで悔やみの演技がよくできたので、
思わず「いい気味だ」と口に出す筋立てです。

八代目柳枝の十八番

昭和34年9月23日、
ラジオの公開録音で「お血脈」を演じている最中に倒れ、
亡くなった八代目春風亭柳枝は、
現・三遊亭円窓の最初の師匠ですが、
美声を生かした端正で穏やかな語り口で、
「野ざらし」「王子の狐」など、
江戸前の噺で人気がありました。

その柳枝がもっとも得意にしたのがこの噺で、
同師はオチの部分を、
「はあっくしょい。ああ顔がこわれちゃう。
こりゃおどろいたねどうも。
……一時はどうなることかと思いましてな、どうも。
……うぷっ、うけたまわり、うけたまわりますれば
……うふふふっ、お嬢さんお亡くなりになったそうで
……うーい、あーあ、いい気持ちだ」
と写実的に演じ、滑稽味を強く出しました。

この噺の場合、どの演者も「いい気持ち」
のきっかけがわかりにくいので、水をのんで
辛味が治るという段取りをつけることが多いようです。

ホント!? 胡椒の効用

古くから薬用として用いられ、
特に、鼻の中に異物が入って出ないとき、
胡椒粉をなめ、くしゃみをして出す民間療法が
よく行われていました。

別話「悔やみ」

この噺の別題は「悔やみ」ですが、
ややこしいことにまったく別話で「悔やみ」があります。

お店のだんなの葬式に、女房から
悔やみのセリフを教えてもらい、出かけた
まぬけ亭主が、普段世話になっている
お内儀さんの前で経をあげながら、だんなに
冷奴で焼酎をご馳走になったとか、腹痛を
起こしてはばかりに行ったら紙がなく、
困っているのを助けてもらったとか、
くだらない思い出話をさんざん並べたあげく、
「ナムアミダブ・・・・だんなが先に死んで、
こんないい女のお内儀さんを一人置くのは、もったいない。
あらもったいないったら、ンニャアモリョリョン」
と、最後は明治の五代目桂文楽が流行らせた
奇妙な「モリョリョン踊り」の節で、とんでもない下心を出す。

この噺は、六代目三遊亭円生がよく演じました。

|

« お神酒徳利(おみきどっくり)  落語 | トップページ | 幇間腹(たいこばら)  落語 »

落語のあらすじ 」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/60017/2886150

この記事へのトラックバック一覧です: 胡椒の悔やみ(こしょうのくやみ)  落語:

« お神酒徳利(おみきどっくり)  落語 | トップページ | 幇間腹(たいこばら)  落語 »