« 大山詣り(おおやままいり)  落語 | トップページ | 出来心(できごころ)  落語 »

2005.02.28

松竹梅(しょうちくばい)  落語

松竹梅とはめでたい。いや、おめでたい噺で。

長屋の松五郎、梅吉、竹蔵の三人組。

そろって名前がおめでたいというので、
出入り先のお店のお嬢さまの婚礼に招かれた。

ところがこの三人、
名前だけでなく、心持ちもおめでたいので、
席上どうしたらいいか、隠居に相談に行く。

隠居は、
ついでなら鯨飲馬食してくるだけが能でないから、
何か余興をやってあげたらどうかと勧め、
「なったあ、なったあ、蛇(じゃ)になった、
当家の婿殿蛇になった、何の蛇になあられた、長者になぁられた」
という言い立てを謡(うたい)の調子で割りゼリフで言えばいい
と、教えてくれる。

終わりに
「お開きに致しましょう」
と締めるというわけ。

いざ練習してみると、
松五郎は
「な、な、納豆」
「豆腐ーい」
と全部物売りになってしまうし、
竹蔵は竹蔵で
デデンデデン、なあんのおおおう、
と、義太夫調子。

危なっかしいが、
道々練習しながらお店に着く。

いきなり
「まことにご愁傷さま」
とやりかけて肝を冷やすが、
だんなは、おめでたい余興と聞いて大喜び。

親戚一同も一斉に手をたたくものだから、
三人、あがってボーッとなる。

それでも、
松と竹はどうやら無事に切り抜けたが、
梅吉が
「長者になられた」を忘れ、
「風邪……いや番茶……大蛇……」
と、とんでもないことを言いだし、
その都度やり直し。

最後に
「何の蛇になあられた」
「亡者になあられた」

……これで座はメチャクチャ。

三人が隠居に報告に来て
「これこれで、開き損なっちまいまして」
「ふーん、えらいことを言ったな。それで梅さんはどうしてる」
「決まり悪そうにグルグル回って、床の間に飛び込んで、
隅の方で小さくなってしおれてました」
「ああ、それは心配ない。
梅さんのことだ、今ごろは一人で開いて(帰って)いるだろう」

【うんちく】

作者は出自不明

大坂の笑福亭系の落語家の祖とされる
初代・松富久亭松竹が作ったといわれている噺ですが、
この松竹という人、生没年や詳細な伝記はもちろん、
そもそも存在したかどうかもよくわかりません。

したがって、松竹が「松竹梅」の作者だというのも
伝説の域を出ないわけです。まさか、演題と芸名に
ゴロを合わせたヨタではないでしょうが。

ただ、オチの部分のネタ元になったとみられる小ばなしはあって、
文政6年(1823)に江戸で刊行された、
初代三笑亭可楽(1777~1833)著「江戸自慢」中の
「春の花むこ」がそれです。

これは、植物仲間で「仙人」と尊称される梅の古木が、
庭の隅の桃の木に「老いらくの恋」をし、姫ゆりを
仲人に頼んで、キンセンカを持参金代わりに
めでたく婿入り。ところが婚礼の夜、突然植木屋が
(もちろん人間)庭に乱入し、花々が恐怖におののいて
小さくなってしまいます。これを見た植木屋、
「ははあ、これは今夜、花婿が来るのだな。
こういうときに切っては無情というものだ」
と帰っていったので、仲人の姫ゆりがほっとして
顔を持ち上げ、
「さあさあ皆さん、お開きなさい」
という、童話的でほほえましいお話です。

東京移植は「オットセイ」

古くから上方落語としてはポピュラーな噺でしたが、
これを明治30年ごろ、
四代目柳亭左楽が東京に移しました。

左楽はぼおっとした容貌と、普段の少々間の抜けた言動で、
「オットセイ」とあだ名され、奇談がたくさんあります。
ちょうどこの噺の東京初演と思われる、
明治31年の速記が残っていますが、よほど気に入ったとみえ、
もともと持ちネタが少ないこともあって、
一時期「松竹梅」ばかりやっていたとか。

この人の、師匠の談洲楼燕枝が亡くなった(明治33年2月)
ときの追悼句がふるっていて、

「悲しさや師匠も亡者になあられた」

当の「オットセイ」ご本人が「亡者になあられた」のは、
明治44年11月4日、享年55歳でした。

「あっちの会長」柳橋十八番

謡の調子で、割ゼリフにしてご祝儀の言い立てをやり、
「亡者になあられた」で失敗するのがこの噺の
笑わせどころですが、
このあらすじの参考にした、かって落語芸術協会に
会長として君臨した六代目春風亭柳橋は、
戦後この噺をよく高座にかけ、特に謡を稽古する
場面でのギャグを充実させ、飄々とした中にも
より笑いの多い噺に仕上げました。

その意味で十八番といってよいのですが、
残念ながら音源は残されていません。

「なったなった・・・・」は北海道?

「なったなった」のお囃子は、
関西地方の婚礼の習俗と思われますが、
はっきり分かりません。

前項の左楽の速記では、隠居が「北海道から
八十里ばかり入った小さな村で」もっぱら行なっていると
説明していますが、左楽は自分のあだ名を
逆手にとって、やたらに「北海道」を連発して
ウケをねらったそうですから、もちろんこれは
嘘八百でしょう。

忌み言葉って?

「開く」は今でもよく使われる、結婚式の忌(い)み言葉ですが、
「忌み言葉」というのは、使用を避ける言葉と、
代わりにめでたく言い換える言葉の両方を意味します。

ただ、言い換えられる場合と、それもできず、
禁止されるだけの場合があり、どちらかというと
後の方が多いようです。

いずれにしても、太古から「言霊」信仰が根強く、
何か不吉な言葉を吐くと、それが現実になってしまうという
病的な恐怖心を先祖代々遺伝子に受け継いできた
われわれ特有の習慣ですね。

以下、婚礼のタブーの語をいくつか。

「帰る」「戻る」「出て行く」「死ぬ」「引く」
「別れる」「出る」「割る」「割く」「出かける」
「欠ける」「犬」(=「去(い)ぬ」)「猿」(=「去る」)
「殺す」「離れる」「話す」「放す」「まかる」
「落ちる」「悲しい」……

これじゃ、うっかり舌禍を起こしちまいそうですねえ。

|

« 大山詣り(おおやままいり)  落語 | トップページ | 出来心(できごころ)  落語 »

落語のあらすじ 」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/60017/3117298

この記事へのトラックバック一覧です: 松竹梅(しょうちくばい)  落語:

« 大山詣り(おおやままいり)  落語 | トップページ | 出来心(できごころ)  落語 »