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2005.03.02

出来心(できごころ)  落語

ドジでマヌケな泥棒のお話。いかにもな筋がまたいいもんです。

ドジな駆け出しの泥棒、
親分に、
てめえは素質がないから廃業した方がいい
と、言われる。

心を入れ替えて悪事に励む
と誓って、
この間土蔵と間違って寺の練塀を切り破って向こうに出た
とか、
電話がひいてあるので入ったら交番だった
などと話すので、親分はあきれて、
おめえにまともな盗みはできねえから、空き巣狙いでもやってみろ
と、細々と技術指導。

まず声をかけて、返事がなかったら入るが、
ふいに人が出てきたら
「失業しておりまして、貧の盗みの出来心でございます」
と、泣き落としで謝ってしまう。

返事があったら人の家を訪ねる振りをして
「何の何兵衛さんはどちらで?」とゴマかせばいい
と教えられ、早速仕事に出かける。

ある家で
「ええ、何の何兵衛さんはどちらで?」
「何を?」
「いえその、イタチ西郷兵衛さんは……」
としどろもどろで逃げだした。

次の家では、
主人が二階にいるのも気づかず、
羊羹を盗み食いして見つかり、
「イタチ西郷兵衛さんはどちらで?」
「オレだよ」
「えっ?その、もっといい男の西郷兵衛」
「何を?」
「よろしく申しました」
「誰が?」
「あたしが」
「この野郎ッ」
……慌てて逃げだす。

あんな間抜けの名の野郎が本当にいるとは思わなかった
と、胸をなで下ろしながらたどり着いたのが、
長屋の八五郎の家。

畳はすり切れ根太はボロボロ。

転がっているのは汚い褌一本きり。

しかたなく懐に入れ、
八五郎が帰ってきたので、慌てて縁の下に避難。

八五郎は、粥が食い散らされているのを見て、
ははあ泥棒か
と見当をつけるが、
かえって泥棒を言い訳に家賃を待ってもらおう
と、大家を呼びに行った。

「それじゃしかたがねえ。待ってやろう」
とそこまではいいが、盗難届けを出さなくてはならない
と、盗品をいちいち聞かれるから、はたと困った。

苦し紛れに布団をやられたと嘘をつくと
「どんな布団だ? 表の布地は何だ?」
「大家さんとこに干してあるやつで」
「あれは唐草だ。裏は?」
「行きどまりです」
「布団の裏だよ」
「大家さんのは?」
「家は、丈夫であったけえから、花色木綿だ」
「家でもそれなんで」

羽二重も帯も蚊帳も南部の鉄瓶も、
みんな裏が花色木綿。

「あきれて話しにならねえ。あとは?」
「お礼で。裏は花色木綿」

縁の下の泥棒、これを聞いて我慢できずに下から這い出てくる。

「さっきから聞いてりゃ馬鹿馬鹿しい。笑わせるない」
「おやっ、そんなとこから這いだしゃあがって。てめえは泥棒だな?」
「この家には何も盗めるものなんぞねえ」

警察に突き出す
と言われ、慌てて
「えー、どうも申し訳ござんせん。
失業しておりまして、六十五を頭に三人の子供が……
これもほんの貧の出来心で……と哀れっぽく持ちかけたら、
銭の少しもくれますか?」
「誰がやるもんか。八、てめえもてめえだ」

お鉢が回ってきたので、
八五郎、こそこそ縁の下へ。

「おい、何も盗られてねえそうじゃねえか。どうしてあんな嘘ばかり並べたんだ?」
「これもほんの出来心でございます」

【うんちく】

「出来心」ならお上のお慈悲?

落語には泥棒噺が多く、
「穴泥」「もぐら泥」「だくだく」「釜泥」
「締め込み」「転宅」「夏どろ」……
まだまだあります。

そのほとんどが、まぬけで愛すべき空き巣の
失敗をおおらかに笑う噺で、いかにのどかな江戸時代でも
犯罪の実態は陰惨なものが多かったことを考えれば、
落語の泥棒は、むしろ、こういう泥テキばかりなら……
という市民の願望のあらわれともいえるでしょう。

しかし、現実にはお奉行のお裁きは峻厳だったのです。

十両盗めば初犯でも死罪は有名ですが、窃盗を重ねて
盗んだ金額が累積で十両に達すれば、
その時点で一巻の終りです。
また、空き巣で初犯なら「出来心」で
お上のお慈悲にあずかれますが、
土蔵を切り破ったり、
家人の在宅しているところに押し入れば、
重罪の押し込み強盗ですから、初犯、かつ未遂でも
主犯は原則死罪でした。

スリーストライク・アウト!!

空き巣では初犯敲(たた)き、再犯刺青(いれずみ)、
再々犯は有無を言わさず首が飛びました。
極端にいえば、一回に三文盗んだ場合は敲きで済みますが、
初犯一文、再犯一文、再々犯一文と三回に分けて
合計三文盗めば、哀れこの世の別れというわけ。

1994年に米カリフォルニア州で制定された
「スリー・ストライク法案」も、重罪を三度重ねれば
仮釈放ナシの禁固25年~終身刑という過酷さで、
何と空き巣三回、三回目にたった152ドル盗んだだけで
懲役52年という判決が出て、世論を震撼させたことがありますが、
こちらは命がないのですから、
まさに究極の「スリー・ストライクアウト」でしょう。

オチによって変わる演題

泥棒噺は、柳家小さん代々が得意にした
江戸前の滑稽噺の典型で、
この噺も、三代目から五代目小さんまで継承され、
故五代目春風亭柳朝、現入船亭扇橋、桂文朝などの
持ちネタでもあります。
特に柳朝の泥棒のすっとぼけた味は絶品でした。

泥棒が入る家の主人の珍名は、演者によって
「ちょうちん屋ブラ右衛門」などと変わります。

オチは二通りあり、あらすじで紹介した
小さんのものがスタンダードですが、
八代目春風亭柳枝のように、大家と泥棒の会話で、

(大)「どこから入った?」
(泥)「裏です」
(大)「裏はどこだ?」
(泥)「裏は花色木綿」

と落とすときは、題も「花色木綿」となります。

花色木綿って、どんな色?

「花色」は「縹色(はなだいろ)」の省略で、
薄い藍色の木綿地になります。

「出来心」も死語に……

噺のタイトルにもなっているこの言葉も、
最近はだんだん使われなくなってきているようです。

「出来」はこの場合、「とっさに」「即席に」
という意味。古くは、即席のシャレのことを
「出来口」といいました。

要するに、計画してやった犯行ではなく、
ついとっさに魔がさしたものなのでご勘弁を、
という言い訳ですね。

コソ泥どころか、重大な犯罪をしでかしても、
しおらしく謝るどころか、
「逆ギレ」して居直るヤカラばかりが増えた昨今ですから、
こんな言葉が消えていくのも無理はありません。

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コメント

記事のところで、こちらの内容をリンクさせていただきましたので、よろしくお願いします。先週は、TBありがとうございました。私の方でも、TBもさせていただきます。

投稿: yauragi | 2005.06.04 00:23

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