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2005.03.10

青菜(あおな)  落語

落語のスタンダード。こっけい噺の典型ですね。 この1枚:青菜

さるお屋敷で仕事中の植木屋、
一休みで主人から「酒は好きか」と聞かれる。

もとより酒なら浴びるほうの口。

そこでごちそうになったのが、
上方の柳影(やなぎかげ)という「銘酒」だが、
これは実は「なおし」という安酒の加工品。

何も知らない植木屋、
暑気払いの冷や酒ですっかりいい心持ちになった上、
鯉の洗いまで相伴して大喜び。

「時におまえさん、菜をおあがりかい?」
「へい、大好物で」

ところが、次の間から奥さまが
「だんなさま、鞍馬山から牛若丸が出まして、名を九郎判官(くろうほうがん)」
と妙な返事。

だんなもだんなで
「義経にしておきな」

これが、実は洒落で、
菜は食べてしまってないから「菜は食らう=九郎」、
「それならよしとけ=義経」というわけ。

客に失礼がないための、隠し言葉だという。

植木屋、その風流にすっかり感心して、
家に帰ると女房に
「やい、これこれこういうわけだが、
てめえなんざ、亭主のつらさえ見りゃ、
イワシイワシってやがって……さすがはお屋敷の奥さまだ。
同じ女ながら、こんな行儀のいいことはてめえにゃ言えめえ」
「言ってやるから、鯉の洗いを買ってみな」

もめているところへ、悪友の大工の熊。

こいつぁいい実験台とばかり、女房を無理やり次の間
……はないから押入れに押し込み、
熊を相手に「たいそうご精がでるねえ」から始まって、
ご隠居との会話をそっくりリピート……しようとするが……

「青い物を通してくる風が、ひときわ心持ちがいいな」
「青いものって、向こうにゴミためがあるだけじゃねえか」
「あのゴミためを通してくる風が……」
「変なものが好きだな、てめえは」
「大阪の友人から届いた柳影だ。まあおあがり」
「ただの酒じゃねえか」
「さほど冷えてはおらんが」
「燗がしてあるじゃねえか」
「鯉の洗いをおあがり」
「イワシの塩焼きじゃねえか」
「時に植木屋さん、菜をおあがりかな」
「植木屋は、てめえだ」
「菜はお好きかな」
「大嫌えだよ」

タダ酒をのんで、イワシまで食って、
今さら嫌いはひどい。

ここが肝心だから、
頼むから食うと言ってくれ
と泣きつかれて
「しょうがねえ。食うよ」
「おーい、奥や」

待ってましたとばかり
手をたたくと、
押入れから女房が転げだし、
「だんなさま、鞍馬山から牛若丸がいでまして、その名を九郎判官義経」
と、先を言っちまった。
亭主は困って、
「うーん、弁慶にしておけ」

【うんちく】

青菜

東京(江戸)では主に菜といえば、一年中見られる小松菜をいいます。

冬には菜漬けにしますが、この噺では初夏ですから、
おひたしにでもして出すのでしょう。

値は三文と相場が決まっていて、
「青菜(は)男に見せるな」という諺がありました。
これは、青菜は煮た場合、量が減るので、
びっくりしないように亭主には見せるな、の意味ですが、
何やら、わかったようなわからないような解釈ですね。

柳影は夏の風物詩

柳影はもち米と麹と焼酎で仕込んだ、
アルコール分の強い酒で、江戸で「直し」、
京では「南蛮酒」ともいいました。

夏のもので、必ず冷やでのみます。

イワシの塩焼き

イワシは江戸市民の食の王様で、
天保11年(1840)正月発行の「日用倹約料理仕方角力番付」では、
魚類の部の西大関に「目ざしいわし」、前頭四枚目に
「いわししほやき(塩焼き)」となっています。

とにかく値の安いものの代名詞でしたが、
今ではちょっとした高級魚です。

隠語では、女房ことば(→「たらちね」)で「おほそ」、
僧侶のことばでは、紫がかっているところから、
紫衣からの連想で「大僧正」と呼ばれました。

弁慶、そのココロは?

オチの「弁慶」は「考えオチ」で、
「立ち往生」の意味を利かせています。

これも、今では「義経記」の、弁慶立ち往生の故事が
わかりづらくなったり、「途方にくれる、困る」
という意味の「立ち往生」が死語化している現在では、
説明なしには通じなくなっているかも知れませんね。

なお、上方では人におごられることを「弁慶」というので、
(これは上方落語「舟弁慶」のオチにもなっています)
このシャレには、その意味も加わっているでしょう。

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コメント

こんないいブログがあったのですね・・・偶然みつけました。
PHPの千字落語の著者のおふたりで・・・とても面白く薀蓄が深まります。有難う御座います。

風流を解さないようで恐縮ですが、質問です。
植木屋と大工の熊さんとのやりとりで、
   「頼むから食うといってくれよ」
   「仕さまがねえ、食うよ」
というのがありますが、これは
   「しょうがねえ、食うよ」
つまり「仕様がねえ」が「仕さまがねえ」になってしまったのではないでしょうか?

私も野暮ですねぇ、お後がよろしいようで・・・

投稿: tacking | 2006.09.22 20:10

すみませーん。
貴重なご指摘、ありがとうございます。
すぐに直しまーす。

投稿: ふる | 2006.09.22 23:29

明治生まれの父親から聞いた諺ですが
「けちな男に青菜みせるな」
と、教えられていました。
確かに、茹でると随分めべりがしますね。
幸い、我が連れ合いは、まったく頓着しない人なので助かっています。

落語の「青菜」は小三治さんの語りが面白くて、何度聞いても笑えます。

投稿: ぺこ | 2009.08.15 03:14

ぺこ さま

コメントありがとうございます。

小三治師匠の「青菜」、ご夫婦でライブで
聴かれたのでしょうか。
さぞや、江戸の初夏の薫風が吹きぬけるような、
いい出来だったでしょうね。

「常識にとらわれない独自のマナコ」
「素直な、ユニークな自我を持つ」
と小沢昭一大人が評していますが、、
70歳になっても常に新鮮な目で物事を見ているから、
小三治のマクラも噺も、いつ聴いても
プルプルと「生きている」のだと思います。

その意味で、この人だけはやはりCDでなく、
ナマで聴きたいですね。(たか)

投稿: たか | 2009.08.20 00:36

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