« 家見舞い(いえみまい)  落語 | トップページ | 長屋の花見(ながやのはなみ)  落語 »

2005.05.15

花見酒(はなみざけ)  落語

酒のみは、どんなときでもしくじるもののようですな。

幼なじみの二人。

そろそろ向島の桜が満開という評判なので
「ひとつ花見に繰り出そうじゃねえか」
と、話がまとまった。

ところが、あいにく二人とも金がない。

そこで兄貴分がオツなことを考えた。

横丁の酒屋の番頭に
灘の生一本を三升借り込んで花見の場所に行き、
小びしゃく一杯十銭で売る。

酒のみは、酒がなくなるとすぐにのみたくなるものなので、
みんな花見でへべれけになっているところに売りに行けば必ずさばける。

もうけた金で改めて一杯やろう
という、何のことはないのみ代稼ぎである。

そうと決まれば桜の散らないうちに
と、二人は樽を差し担いで、向島までやって来る。

着いてみると、花見客で大にぎわい。

さあ商売だ
という矢先、弟分は後棒で風下だから、
樽の酒の匂いがプーンとしてきて、もうたまらなくなった。

そこで、お互いの商売物なのでタダでもらったら悪いから、
兄貴、一杯売ってくれ
と言いだして、十銭払ってグビリグビリ。

それを見ていた兄貴分ものみたくなり、
やっぱり十銭出してグイーッ。

俺ももう一杯、
じゃまた俺も、
それ一杯もう一杯
とやっているうちに、
三升の樽酒はきれいさっぱりなくなってしまった。

二人はもうグデングデン。

「感心だねえ。このごった返している中を酒を売りにくるとは。
けれど、二人とも酔っぱらってるのはどうしたわけだろう」
「なーに、このくらいいい酒だというのを見せているのさ」

なにしろ、
おもしろい趣向だから買ってみよう
ということで、客が寄ってくる。

ところが、肝心の酒が、
樽を斜めにしようが、どうしようが、まるっきり空。

「いけねえ兄貴、酒は全部売り切れちまった」
「えー、お気の毒さま。またどうぞ」

またどうぞも何もない。

客があきれて帰ってしまうと、
まだ酔っぱらっている二人、売り上げの勘定をしようと、
財布を樽の中にあけてみると、
チャリーンと音がして十銭銀貨一枚。

品物が三升売れちまって、
売り上げが十銭しかねえというのは? 

「馬鹿野郎、考えてみれば当たり前だ。
あすこでオレが一杯、ちょっと行っててめえが一杯。
またあすこでオレが一杯買って、
またあすこでてめえが一杯買った。
十銭の銭が行ったり来たりしているうちに、
三升の酒をみんな二人でのんじまったんだあ」
「あ、そうか。そりゃムダがねえや」

【うんちく】

経済破綻を予言?した「名作」

1962年に出版され、話題になった
笠信太郎著「"花見酒"の経済」は、
当時の高度経済成長のただなか、
馴れ合いで銭が二人の間を行ったり来たりするだけのこの噺を
一つの寓話として、
当局の手厚い保護下で、資本が同じところを
ぐるぐるまわるだけの日本経済のもろさを指摘。

のちに現実となった、オイルショックによる経済破綻を
見事に予見した名著でした。

つまりは、この噺をこしらえた不明の作者は、
遠く江戸時代から、はるか未来を見通していた
ダニエルのごとき大預言者だった……
ということになりますか。

向島の桜

八代将軍・吉宗公の肝いりで整備され、
文化年間(1804~18)には押しも押されもせぬ
江戸近郊有数の観光名所となりました。

元々、向島は浅草から見て、
隅田川の対岸一帯を指した名称で、
江戸の草創期には、文字通りいくつもの島でした。

花見は三囲(みめぐり)神社から、
桜餅で名高い長命寺までの堤が有名です。
明治期には、枕橋から千住まで、
約4キロに渡って、
ソメイヨシノのトンネルが見られました。

復活が待たれる噺

八代目林家正蔵(彦六)が手がけましたが、
面白く、皮肉なオチも含めてよくできた噺なのに、
とかく小ばなし、マクラ噺扱いされがちのせいか、
近年ではあまり演じられません。

どなたかに復活していただきたいのですが。

明治の古い速記では、名人・四代目橘家円喬や、
二代目三遊亭金馬のものが残ります。

明治41年の円喬の速記では、酒といっしょに
兄貴分がつり銭用に、強引に酒屋に
十銭借りていくやり方で、
二人は「辰」と「熊」のコンビです。

|

« 家見舞い(いえみまい)  落語 | トップページ | 長屋の花見(ながやのはなみ)  落語 »

落語のあらすじ 」カテゴリの記事

コメント

とても面白い噺でした。

投稿: ゴエモンオレンジ | 2005.09.18 20:41

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/60017/4131443

この記事へのトラックバック一覧です: 花見酒(はなみざけ)  落語:

« 家見舞い(いえみまい)  落語 | トップページ | 長屋の花見(ながやのはなみ)  落語 »