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2005.05.04

辰巳の辻占(たつみのつじうら)  落語

歌舞伎や文楽と違って、落語での心中は、本性丸出しでいいっすねえ。

道楽者の猪之助が、
おじさんのところに金の無心に来る。

辰巳(深川)の静という女郎に首ったけで、
どうしても身請けをして女房にしたいが、
三百円の金が要るという。

つい今し方
猪之助の母親が来て、
さんざん泣いて帰ったばかりなので、
その手前、説教はしてみたものの、
このおじさん、若いころ少しはその道に覚えのある身で、
言って聞かせても当人がのぼせていて、
どうにもならないと見て取ると、
金を出す前に女の料簡を試してみろ
と、一計を授ける。

翌日、
猪之助がいやに深刻な顔で見世に現れた。

「どうしたの」
「実は借金が返せねえので、
おじさんの判をちょろまかして金を融通したのがバレて、
赤い着物を着なくちゃならねえ。
この上は、死ぬよりほかないので、別れに来た」
「まあ、おまはんが死ぬなら、あたしも一緒に」

行きがかり上、そう言うしかしかたがない。

「それでいつ?」
「今晩」
「あら、ちょいと早過ぎるワ。日延べはできないの」
「できない」

……しまった
と思ってももう遅く、
その夜二人で大川にドカンボコンと身を投げることになってしまった。

静の方はいやいやながらなので、
のろのろ歩いているうちに石につまづいて、
「あー、痛。この石がもっけの幸い」
とばかり、
南無阿弥陀仏と声だけはやたら大きく、
身代わりに石を川へドボーン。

男の方は、
その音を聞いててっきり静が飛び込んだと思い込み、
大変なことをしでかしたと青くなる。

どのみち、オレは泳げねえ、
ぢいいち仕組んだおじさんが全部悪いんだから
……どうしようかと迷ううち、
こちらも石に蹴っつまづいて、
「……えい、そうだ。
静、オレも行くからな……。悪く思うなよ」

やっぱり同じように身代わりに、石をドボーン。

静はこれを聞いて、
「あーら、飛び込んだわ。
あの馬鹿が。あー寒い。帰ろうっと」

両方がそろそろっと、
寒さに震えながら戻ってくると、
廓(通称地獄宿)の看板の行燈の前で、バッタリ。

「あっ、てめえ、静」
「あーら、猪之はん。ご機嫌よう」
「馬鹿野郎。太ェアマだ」
「娑婆(しゃば=この世)で会って以来ねェ」

【うんちく】

原話はホモ心中

最古の原話は、寛永13年(1636)刊の笑話集
「きのふ(う)はけふ(きょう)のものがたり」の一篇ですが、
これは若衆と念者、つまり男同士の心中騒ぎです。
当時、現代以上に男色はごく普通だったので、
ホモ心中も、それほど珍しくありませんでした。

これが男女に変わったのは、宝永2年(1705)刊の
初代露の五郎兵衛(→「おしの釣り」「笠碁」)著
「露休置土産」中の「心中の大筈者」ですが、
いやいやながらの心中行で、両人ともいざとなって逃げ出すという結末は、
最初から一貫して同じです。

大阪では「辻占茶屋」と題し、音曲仕立てで
にぎやかに演じます。

東京には明治中期に移植され、
四代目橘家円喬の速記が残ります。
戦後は三代目桂三木助の十八番で、
十代目金原亭馬生も得意でした。

現在では、ほとんど手掛ける人がいなくなりました。
滅びるには惜しい、なかなか小味で
粋な噺なのですがね。

辻占とは?

もともと、往来の人の言葉で吉凶を占うことですが、
ここでは、「辻占菓子」を指します。
せんべい、饅頭などの中に、恋占いのおみくじを入れたもので、
遊里の茶屋などのサービス品でした。

噺の中で、主人公・猪之助が女を待つ間、
退屈しのぎに菓子の辻占をひいてみる場面があることから、
女の心を試すという展開とかけて、この題名がつけられました。

そのほか、江戸時代には、町々を流し、
おみくじを売り歩く「辻占売り」もいました。

辰巳って?

深川の岡場所(幕府非公認の遊郭)のこと。
深川は江戸の辰巳の方角(東南)にあたるので、
こう呼ばれたのです。

元は洲崎(すさき)ともいい、
承応2年(1653)に富岡門前町が開かれて以来、
「七場所」と称する深川遊郭が発展しました。

地獄宿

素人女性を使った、非合法の隠し売春宿のことです。

地獄図を描いた絵看板が目印で、
そこで「営業」する女を「地獄娘(じごくむす)」
と、呼びました。

なお、オチで女が発する「娑婆(しゃば)で会って以来」というのは、
遊里の通言で「お久しぶり」の意味です。
元は、吉原を極楽に見立てて、その外の俗世間を
「娑婆」と呼んだものです。

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