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2005.05.01

堪忍袋(かんにんぶくろ) 落語

こんな便利な袋があったら、世の中丸くおさまるんですがねぇ。

長屋に住む大工の熊五郎夫婦は
けんかが絶えない。

今日も朝から、
「出てけッ、蹴殺すぞ」
と修羅場を展開中。

出入り先のだんなが用事で来あわせ、
隣にようすを聞くと、今朝からもう四度目という。

見かねただんな、仲裁に入り、
「昔、唐土(もろこし)のある人が、
腹が立つと家の大瓶にみんなぶちまけて蓋をすると、
人前ではいつも笑い顔しか見せない。
友達連中が何とかあいつを怒らしてみようと、
料亭に呼んで辱めたが、ニコニコしているだけ。
そのうち中座して帰宅し、
例の通り瓶に鬱憤をぶちまける。
友達連中、不審に思って男の家に行ってみると、
逆に厚くもてなされたので、
それから、あれは偉い人間だと評判になり、
出世をして、しまいには大金持ちになった。
笑う角には福来るというが、
おまえたちもそうのべつけんかばかりしていては福も逃げるから、
その唐土のまねをしてごらん」
と、さとす。

瓶の代わりに、
おかみさんが袋を一つ縫って、
それを堪忍袋とし、
ひもが堪忍袋の緒。

お互いに不満を袋にどなり込んで、
ひもをしっかりしめておき、
夫婦円満を図れと知恵を授ける。

熊公、
なるほどと感心して、
さっそく、かみさんに袋を縫わせた。

まず、熊が
「亭主を亭主と思わないスベタアマーッ」
と、どなり込む。

続いて、かみさんが
「この助平野郎ゥーッ」
亭主「この大福アマッ」
かみさん「しみったれ野郎ッ」

隣で将棋をさしている連中、
さすがにうんざりして、
代表がしぶしぶ止めに来るが、
熊がケロっとしているので面食らう。

事情を聞くと、
ぜひ貸してくれと頼み、
こちらも袋に向かって
「やい、このアマッ、亭主を何だと思ってやがるんだッ」

これが大評判になり、来るわ来るわ。

おかげで、
袋は長屋中のけんかでパンク寸前。

明日は、海にでも捨ててくるしかない。

また、誰かが来ると困るから戸締りをして寝たとたん、
酔っぱらった六さんが表をドンドン。

開けないと、
雨戸の節穴から小便をたれると脅かす。

しかたがないので中に入れると、
仕事の後輩が若いのに生意気で、
オレの仕事にケチをつけやがるから、
ポカポカ殴ったら、
みんなオレばかりを止めるので、
こっちは殴られ放題、
がまんがならねえから、どうでも堪忍袋にぶちまけさせろ
と、聞かない。

もう満杯だから、
明日中身を捨てるまで待ってくれ
と言って、承知しない。

こっちィ貸せとひったくると、
袋の紐をぐっと引っ張ったから、
中からけんかがいっぺんに
「パッパッパッ、この野郎ッ、こんちくしょう、ちくしょう、この野郎ーッ」

【うんちく】

作者は三井の放蕩息子

益田太郎冠者(1875~1953)の作です。
益田は、三井財閥の大番頭で
明治・大正の財界の大立者・益田孝の長男。
大正初期に、帝劇のオペレッタを多数制作し、
「コロッケの唄」などのヒットで、時代の寵児となりましたが、
同時に明治末から大正初期にかけて、
第一次落語研究会のために新作落語を多数創作しています。

この噺もその一つで、
八代目桂文楽の十八番だった「かんしゃく」同様、
初代三遊亭円左(→「松竹梅」「粗忽の釘」「反対車」、明治42年没)
のために書き下ろされたものです。

堪忍袋

ギリシア神話の「ミダス王の耳はロバの耳」を
下敷きにしている節もあります。

「堪忍五両思案は十両」
「堪忍五両負けて三両」

など、江戸時代には、「堪忍」は
単なる処世術、道徳というより
功利的な意味合いで使われることが多かったようです。

オチの工夫

あらすじ、オチは五代目柳家小さんのものをもとにしています。

オリジナルの原作では、袋が破れたとたんに
亭主が酔っ払いを張り倒し、
「何をするんだ」
「堪忍袋の緒が切れた」
と落としていたといいますが、古い速記はなく、
現在はこのやり方は行われません。

また、やはりこの噺を得意にしていた三代目三遊亭金馬は、
「中の喧嘩がガヤガヤガヤガヤ」
としています。

そのほか、現立川談志は、口喧嘩が過激で派手ですが、
「堪忍」の実例に十八史略の韓信の股くぐりの故事、
大坂城落城の木村長門守や、
講談の、忠臣蔵の神崎与五郎の逸話(あらすじでは省略)を出すなど
どの演者も大筋のやり方は同じです。

それにしても「カンニン」という言葉自体も
もう死語になろうとしていますね。
いっそ「八つ当たり袋」「ブチ切れ袋」などと
改題した方が、分かりやすいかもしれません。

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