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2005.05.23

居酒屋(いざかや) 落語

映画「の・ようなもの」はここからきてるんですね。 この1枚:居酒屋

縄のれんに醬油樽、
切り回しているのは番頭と十二、三の小僧だけ
という、うらぶれた居酒屋に、
湯の帰りなのか濡れ手拭いを肩に掛け、
ドテラに三尺帯という酔っぱらいがふらふらと入ってくる。

無理やり小僧に酌をさせ、
おめえの指は太くて肉がいっぱい詰まってそうだが、
月夜にでも取れたのか
と、人を蟹扱いにしたりして、からかい始める。

肴は何ができる
と聞かれて、小僧が早口で、
「へえい、できますものは、
けんちん、おしたし、鱈昆布、あんこうのようなもの、
鰤(ぶり)にお芋に酢蛸でございます、へえーい」
と答えるのが
面白い
と言って、
「今言ったのは何でもできるか?」
「そうです」
「それじゃ『ようなもの』ってのを一人前持ってこい」

その次は、
壁に貼ってある品書きを見て
「口上てえのを一人前熱くしてこい」
と言ったりして、小僧をいたぶる。

そうかと思えば、
とせうけてえのは何だ
と聞くから、小僧が
「あれは『どぜう汁』と読むので、濁点が打ってあります。
イロハは、濁点を打つとみな音が違います」
と言うと、
それじゃあ、イに濁点が付けば何と読む、ロはどうだ、マは? 
と、点が打てない字ばかりを選ってからかう。

今度は
「向こうの方に真っ赤になって
ぶら下がっているのはなんだ」
と聞くので、
あれはゆで蛸です
と答えると、
ゆでた物は何でも赤くなるのか、じゃ猿のお尻やお稲荷さんの鳥居はゆでたか、
と、ますますからむ。

しまいに、
「その隣で腹が裂けて、
裸になって逆さまになっているのはなんだ?」
「あんこうです。鍋にします」
「それじゃ、その隣に鉢巻をして算盤を持っているのは?」
「あれは番頭さん」
「あれを一人前持ってこい」
「そんなものできません」
「番公(=あんこう)鍋てえのができるだろう」

【うんちく】

金馬の「居酒屋伝説」 その1

昭和初期、居酒屋の金馬か金馬の居酒屋か、というぐらい
三代目三遊亭金馬はこの噺で売れに売れました。

もちろん、戦後も人気は衰えず、
金馬生涯の大ヒットといっていいでしょう。

特に、独特の抑揚で、
「できますものはけんちんおしたし」
と早口で言い、
かん高く「へーい」と最後に付ける小僧の口調が
ウケにウケたわけです。

噺そのものはさして面白いわけでもなく、
ただ、いい年をしたオッサンが子供をいたぶるというだけのもので、
これといってギャグもないのに、
こんなにも人気が出たのは、ひとえにこの
「金馬節」とでも呼べる口調の賜物だったのでしょう。

噺のなりたち

文化3年(1806)刊の笑話本「噺の見世開」中の
「酒呑の横着」が原話です。

本来、続編の「ずっこけ」とともに、
「両国八景」という長い噺の一部だったようですが、
三代目金馬が一席噺として独立させました。
金馬の速記にも、「ずっこけ」をつなげて
演じているものがあります。

続編「ずっこけ」

居酒屋で小僧をいたぶったりして長っ尻をし、
看板になってもなかなか帰らない酔っ払いを、
たまたま通りかかった友達がやっと連れ帰る。

よろよろして歩けないので、ドテラの襟をつかんで
ようやく家までひきずっていき、かみさんに引き渡そうとすると
ドテラだけ残って当人が消えている。

あわててさがすと、往来で裸でグウグウ。
かみさんいわく、
「よく拾われなかったわねえ」

上方落語の「二日酔」では、さらにこの続きがあり、
実は、往来で寝込んでいたのは物乞い。
それを間違えて連れ帰り、寝かしてしまいます。

翌朝、亭主の方は酔いもさめて、コソコソ帰ってきますが、
さすがに気恥ずかしくて裏口にまわり、
「ごめんください」とそっと声をかけると、
かみさんはてっきり物乞いと勘違いし、
「(やる物は何も)ないよ」

するってえと奥で寝ていた「本物」が、
「おかみさん、一文やってください」
というものです。

ここまでいかないと面白くありませんが、
本来、「ずっこけ」も「二日酔」も、「居酒屋」とは原話が別で、
まったく別の噺を一つにつなげたものとみられます。

居酒屋事始

江戸市中に初めて居酒屋が現れたのは、
宝暦13年(1763)とされています。

それ以前にも、神田鎌倉河岸(現・千代田区内神田一、二丁目)の
豊島屋という酒屋が、田楽を肴に出して
コモ樽の酒を安売りしたために
評判になったという話がありますが、
これは、正式な店構えではなく、
店頭でキュッと一杯やって帰る立ちのみ形式で、
酒屋のサービス戦略だったようです。

初期の居酒屋は、看板に酒旗(さかばやし)を立てて
入口に縄のれんを掛け、
店内には樽の腰掛と、板に脚をつけただけの
粗末な食卓を置いて、肴も出しました。

「一膳めし屋」との違いは、
一応飯が看板か、酒が主かという点ですが、
実態はほとんど変わりなかったようです。

なお、木にうるしを塗った従来の盃が、
陶磁器製に変わったのは、居酒屋が興隆してからです。

金馬の「居酒屋伝説」 その2

金馬のレコード初吹き込みは昭和4年7月。
ほかに同時代で、七代目春風亭柳枝や
初代昔々亭桃太郎も演じましたが、
金馬の名調子の前には影の薄いものでした。

金馬の回想(「浮世断語」)によると、
戦後、この「居酒屋」をラジオで放送したとき、
「この酒は酸っぱいな。
甘口辛口は今までずいぶん飲んだことがあるが、
酢ぱ口の酒は初めてだ」
とやったら、
スポンサーの酒造会社が下りてしまったとか。

なお、現在、金馬のほかに音源としては、
大阪の初代桂春団治の珍しい録音がCD化されているほかは、
現役では見当たりません。
「ずっこけ」の方は、八代目春風亭柳枝と
現談志のものがあります。

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