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2005.05.15

家見舞い(いえみまい)  落語

別題が「肥瓶」。お読みになれば、そっちのほうがしっくりくるかもしれません。

借金をしても義理だけは欠かないのが江戸っ子。

今度、兄貴分の竹さんが引っ越したので、
日ごろ世話になっている手前、
祝いの一つも贈らなくてはならないと考えた二人組。

ところが、何を買っていいか見当が付かないので、
直接本人に聞きに行く。

竹兄イが、そんな無理をしなくてもいい
と断るのに、
「箪笥長持ち一式はどうです?」
なんぞと大きなことを言う相棒に、
どこにそんな金があるんだ
と、片一方はハラハラ。

ところが、ふと台所を見ると、
昔はどこの家でも必需品の水瓶がなく、
バケツで代用しているようす。

さあこれだ、と二人、
兄イが止めるのも聞かず、
脱兎のごとく外に飛び出した。

早速ある道具屋に飛び込んで物色すると、
手ごろなのがあるので、値段を聞けば二十八円。

少しばかり、いや大いに高い。

一番安いのを見ると四円。

ところが、馬鹿なことに、
所持金額は一人が一銭、相棒は一文なし。

お互いに、相手の懐を当てにしていたわけ。

しかたなく消え入りそうな声で、
「あの、もう少しまかりませんか?」
「へえ、どのくらいに?」
「あの一銭」
「ははあ、一銭お引きするんで?」
「一銭はそのまま。後の方をずーっと……」

これでは怒らない方がおかしい。

顔を洗って出直してこい、来世になったら売ってやる
と、おやじにケンツクを食わされ、
別の道具屋を覗くと、またよさそうなのがある。

当たって砕けろと、恐る恐る一銭と切り出すと、
「一銭? そんな金はいらない。タダで持ってきなさい」

大喜びの二人。

早速、差し担いで運ぼうとすると道具屋、
「あんた方、それを何に使いなさる?」
「水瓶だよ」
「そりゃいけねえ。見たらわかりそうなもんだ。
おまえさん方、毎朝あれにまたがってるでしょう」

ん……? 毎朝またがる? 

よくよく見ると、果たしてそれは紛れもなく、
便器用の肥瓶(こいがめ)。

タダなわけ。

と言って、今さらどうしようもない。

洗ってみても、
猛烈な悪臭で鼻が曲がりそう。

しかたなく水を張ってゴマかし、
引っ越し祝いに届けると、
兄イは大喜び。

飯を食っていけと言われて、
出てきたのが湯豆腐。

うめえ、うめえと食っているうちに、
ふと気づいて二人、腰が抜けた。

豆腐を洗った水はどこから汲んだ? 
へえ、その、豆腐は断ってまして
と言うと、それじゃ香の物はどうだと出され
「そりゃいい、古漬はかくやに刻んで水に
……あの、コウコも断ってます」
「何でも断ってやがる。それじゃ焼海苔で飯を食え」
「その飯はどこの水で炊きました?」
「決まってるじゃねえか。てめえたちがくれたあの水瓶よ」
「さいならツ」
「おい、待ちな。あの瓶が……おい、こりゃひでえ澱(おり)だ。
こんだ来る時、鮒ァ二、三匹持ってきてくれ。
鮒は澱を食うというから」
「なに、それにゃあ及ばねえ。今までコイ(肥=鯉)が入ってた」

【うんちく】

水がめと肥がめ

水がめは、明治三十一年に近代的な水道が敷設され始めてからも、
その普及がなかなか進まなかったため、
昭和に入るまでは家庭の必需品でした。
特に長屋では、共同井戸から汲んでくるにしても
水道の溜枡からにしても、
水を溜めておく容器としては欠かせません。
素焼きの陶磁器で、二回火といって
二度焼きしてある頑丈なものは、値が張りました。
噺に最初に出てくる二十八円のものがそれで、備前焼です。
水がめより低く、口が広いのが肥がめです。
五人用、三人用など、人数によって
横幅・容量が異なりました。 
江戸の裏長屋では、総後架(そうごうか)と呼ばれた
共同便所に、大型のものを埋めて使用し、
トイレが各戸別になっているところでは、
それぞれの裏口の突き出しに置かれました。

上方の「雪隠壺」

「雪隠(せんち)」は東京では「せっちん」と読みますが、
元々関西の言葉です。
上方のやり方は、東京のものとはかなり異なり、
家相を見てもらって、ここに雪隠を立てて、
肥壺(肥がめ)は一回だけ使えとアドバイスされた男が
もったいないと、使用後道具屋に売る場面が前に付きます。
それを水がめ用に買っていった男が、新築祝いにしますが、
宴会でバアサン芸者が浮かれたので、
「ババ(=糞)も浮くわけや。雪隠壺へ水張った」
と、汚いサゲになります。
オチがこれなので、せめて演題だけでもと(?)、
現・桂米朝は「祝いの壺」として演じます。

東京では小さん系

明治期に三代目小さんが東京に移植、改作しましたが、
速記は残されていません。
八代目春風亭柳枝を経て、
五代目小さんが十八番にしていました。
今回のあらすじのテキストも小さんのものですが、
小さんは高座では「こいがめ」で演じても、
後年、レコードやCDでは
「家見舞」「祝いがめ」の題名で入れていました。
先ごろ亡くなった桂文朝も、「こいがめ」で
レコードに吹き込んだことがあります。

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