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2005.06.03

浮世床(うきよどこ) 落語

日がな一日、床屋でごろごろ。こんな人生も悪くない。 この1枚:浮世床

髪結床で、
若い衆が集まってワイワイ馬鹿話の最中に、
留さん一人、講談本に読みふけっている。

すぐ目を付けられて、
退屈しているから読んで聞かせてくれと頼まれ、
「オレは読みだすと立て板に水で、
止まらなくなるから、同じところは二度と読まねえ」
と豪語して始めたのはいいが、
本当はカナもろくに読めないから、
「えー、ひとつ、ひ、ひとつ、ひとつ、
あねがわかっ、せんのことなり……真柄、
まからからから、しふろふざへもん」

「真柄十郎左衛門か?」
「そう、その十郎左衛門が、敵にむかむかむか……」
「金たらいを持ってきてやれ。むかつくとさ」
「敵にむ、向かって一尺八寸の大太刀を……まつこう」
「呼んだか?」
「何だよ」
「今、松公って呼んだだろ」
「違う。真っ向だ」

一尺八寸は長くないから、
大太刀は変だと言われ、
これは横幅だとこじつけているうちに、
向こうでは将棋が始まる。

一人が、王さまがないないと騒ぐので
「ああ、それならオレがさっきいただいた。
王手飛車取りの時、『そうはいかねえ』って、
てめえの飛車が逃げたから」
「おめえの王さまは、取られてないのにねえな」
「うん、さっき隠しておいた」
というインチキ将棋。

かと思うと、半公がグウグウいびきをかいている。

起こすと、
女に惚れられるのは疲れてしょうがねえ
と、オツなことを抜かしたと思うと、
芝居で知り合ったあだな年増と、
さしつさされつイチャついた挙げ句、
口説の末にしっぽり濡れて、
一つ床に女の赤い襦袢がチラチラ……
と、えんえんとノロケ始める。

女が帯を解き、
いよいよ布団の中へ……。

「こんちくしょう、入ってきたのか」
「という時に起こしゃあがったのは誰だ?」

床屋の親方が、あんまり騒がしいので、
「少しは静かにしてくれ。
気を取られているすきに、銭を置かずに帰っちまった奴がいる。
印半纏のやせた……」
「それなら、畳屋の職人だ」
「道理で、床を踏み(=踏み倒し)に来やがったか」

【うんちく】

意外にも上方ダネ

一尺八寸の大太刀の部分の原話は安永2年(1773)刊
「聞上手」中の「大太刀」、夢のくだりは同4年刊
「春遊機嫌袋」中の「うたゝね」、オチの畳屋の部分は
同2年刊「芳野山」中の「髪結床」と、
いくつかの小ばなしが合体してできた噺です。

これらの原話はいずれも江戸で出版されているのに、
意外なことに落語としては上方で発達し、明治末期に
初代柳家小せん(→「五人まわし」)が東京に
「逆輸入」しました。

なお、演題の「浮世床」は、式亭三馬(1776~1822)、
滝亭鯉丈(→「花見の仇討ち」)合作の
同名の滑稽本(初編文化10年=1813年刊)から
採られているとみられます。

無筆(=文盲)に近い者が見栄を張ってでたらめ読みし、
からかわれるくだりの原型は同書にあり、
これも原典の一つといえるでしょう。

あの三平のレコードも

戦後は六代目三遊亭円生三代目三遊亭金馬が得意としましたが、
その他数多くの落語家によって手掛けられ、
林家三平のレコードも、81年にビクターから発売されましたが、
CD化はされず、現在は廃盤です。

円生はこの噺について、
「テンポと呼吸をくずさないこと」
という芸談を残しています。

片側町

床屋の親方が客の片鬢(びん)を剃り落とし、
「これじゃ表を歩かれねえ」
と文句を言われると、
「なーに、片側をお歩きなさい」
とサゲる、「片側町」という小ばなしを含むこともありますが、
これは現在は、同じ床屋ばなしの「無精床」に
入れることが多くなっています。

なお、オチの「床を踏む」というのは、
畳屋が新畳のへりを踏んでならし、落ち着かせることと
髪結賃の「踏み倒し」を掛けたものですが、
これも今ではわかりにくくなっているでしょう。

髪結床 その1

起源は古く、応仁の乱(1467~77)後、
男がかぶりものを常時着けない習慣ができたので、
月代(さかやき)を剃って髪を整える必要が生じ、
職業的な髪結が生まれました。

天正年間(1573~92)にはもう記録があり、
一人一文で結髪したため、別名一銭職と呼ばれました。
黙阿弥の歌舞伎世話狂言「髪結新三(かみいしんざ)」の、
「一銭職と昔から、下がった稼業の世渡りに……」
というよく知られたセリフは、ここからきています。

万治元年(1658)から、髪結床は江戸で
一町内に一軒と定められましたが、
享保年間(1716~36)には千軒あまり、
幕末の嘉永年間(1848~54)になると
二千四百軒に増えたといいます。

髪結床 その2

この噺の中でも詳しく説明されるのですが、
江戸の髪結床は、通常は親方一人に
中床(下剃り=助手)、小僧の計三人です。
中床を置かず、小僧一人の床屋もありました。

二階は噺に出てくるように社交場になっていて、
順番を待つ間、碁将棋、馬鹿話などで
息抜きをする場でもありました。

髪結賃は大人三十二文、子供二十四文が幕末の相場です。

明治になっても「かみどこ」という呼び名と、
江戸以来の古い床屋の面影や性格は、下町では
まだ色濃く残っていて、町内のゴシップの発信地でもありました。

床屋が登場する噺は、「無精床」「十徳
お釣りの間男」「崇徳院」など、多数あります。

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