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2005.06.14

あくび指南(あくびしなん) 落語

あくびの稽古譚。じつにまあ、くだらないお噺で。 この1枚:あくび指南

町内の、もと医者が住んでいた空家に、
最近変わった看板がかけられた。

墨黒々と「あくび指南所」。

常盤津や長唄、茶の湯の稽古所は聞いたことがあるが、
あくびの稽古てのは聞いたことがねえ、
金を取って教えるからにゃあ、どこか違っているにちがいないから、
ちょいと入ってみようじゃねえか
と、好奇心旺盛な男、渋る友達を無理やり引っ張って、
「へい、ごめんなさいまし」

応対に出てきたのが品の良さそうな老人。

夫婦二人暮らしで、取り次ぎの者もいないらしい。

お茶を出され
「こりゃまた、けっこうな粗茶で……すると、こちらが愚妻さんで」
と間抜けなことを口走ったりした後、
相棒が、馬鹿馬鹿しいから俺は嫌だというので、
熊一人で稽古ということになる。

師匠の言うことには、
普段あなた方がやっているあくびは、
あれは駄あくびといって、一文の値打ちもない。
あくびという人さまに失礼なものを、
風流な芸事にするところに趣がある
との講釈。

すっかり関心していると
「それではまず季節柄、夏のあくびを。
夏はまず、日も長く、退屈もしますので、船中のあくびですかな。
……その心持ちは、八つ下がり大川あたりで、
客が一人。船頭がぼんやり煙草をこう、吸っている。
体をこうゆすって……船がこう揺れている気分を出します。
『おい、船頭さん、船を上手へやってくんな。
……日が暮れたら、堀からあがって吉原でも行って、
粋な遊びの一つもしよう。
船もいいが、一日乗ってると、退屈で、退屈で、
……あーあ、ならねえ』とな」
「へえ。……えー、吉原へ……こないだ行ったら勘定が足りなくなって」
「そんなことはどうでもよろしい」
「船もいいが一日乗っていると、退屈で退屈で
……ハークショイッ」

これをえんえんと聞かされている相棒、
あまりの阿呆らしさに、
「あきれけえったもんだ。教わる奴も奴だが、
教える方もいい年しやがって。さんざ待たされているこちとらの方が、
退屈で退屈で、あーあ……ならねえ」
「ほら、お連れさんの方がお上手だ」

【うんちく】

たくさんあった指南噺

かつては「地口指南」「泥棒指南」など、
多くの指南ものの噺がありましたが、
今ではこの「あくび指南」と
「磯のあわび(別題「女郎買いの教授」)を除けばすたれました。

この噺を含めて指南ものは、安永年間(1772~81)以後、
町人の間に習い事が盛んになった時期に
まとめられたもので、
「あくび指南」も、文化年間(1804~18)には
すでに口演されていました。

「喧嘩指南」というのもあり、
弟子入り早々先制攻撃で師匠に
「マゴマゴしてやがると張り倒すぞ」
とやると、師匠が、
「うん、てめえはものになる」というもの。
これは、「あくび指南」のマクラ小ばなしとして
生き残っています。

また、同じくマクラとして、
師匠が釣り糸に糸を垂らした弟子を
下からひっぱり落としたので、
「先生ひどい。今のは何の魚がかかったんです?」
「今のは河童だ」
とサゲる「釣り指南」を付けることもあります。

「下手くそにやれ」!?

五代目志ん生、三代目小円朝、三代目金馬などがよく演じました。
金馬によれば、この噺は昔から、
待っている友達(登場人物)より、聞いている客の方が
あくびをするように、ことさらまずく演じるのが
口伝だといいます。

まずくやって客を客を退屈させるのが口伝とは
ジョークなのか、奥深い高等数学なのかわかりませんが
昔、ある落語家がこの噺でオチ近くになったとき、
客が大あくびをしたので、
「あのお客さまはご器用な方だ」
と即興でサゲ(オチ)、そのまま高座を下りたとか。

また、四代目柳家小さんは、後でサゲのあくびが引き立つように
師匠のあくびは、ごくあっさりとやるのがコツと
芸談を残しています。

原話は「あくび売り」

安永5年(1776)、大坂で刊行された噺本集
「立春噺大集」中の「あくびの寄合」が原話で、
あくび売りが「薩摩のあくび」「仙台のあくび」
「今橋筋のあくび」などを籠に入れて売り歩く趣向です。

これが上方落語「あくびの稽古」となり、
かなり早く江戸にも移されたと思われます。
上方では、入れ事として、
「風呂に入って月をながめるときのあくび」
「将棋で相手の長考を待つときのあくび」
など、演者によってさまざまに工夫されていました。

現在でも東西問わずよく口演され、音源も数多い噺ですが、
上方のものでは、故人桂枝雀が漫画的で報復絶倒、
あくびをしている余裕など与えないおかしさでした。

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コメント

「報復絶倒」について、広辞苑によれば、俗には「抱腹絶倒」ですが、正しくは「棒腹絶倒」とあります。

投稿: 宮部広司 | 2011.01.24 20:39

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受信: 2005.11.25 01:09

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