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2005.07.09

孝行糖(こうこうとう) 落語

なぁんだ、ただのだじゃれかい。 この1枚:孝行糖

今年二十一になるが、
頭の中が少々薄暮状態の与太郎が、
親孝行のほうびにお上から青ざし五貫文をちょうだいした。

大家がこれを機会に、
この金を元手にして、
なんとか与太郎の身の立つように
小商いでも考えてやりたい
と、長屋の衆に相談すると、
一人が、
昔、役者の嵐璃寛と中村芝翫の顔合わせが評判を呼んだのを当て込んで、
璃寛糖と芝翫糖という飴を売り出してはやらせた人がいるから、
それにならって、
与太郎に飴を売らせたらどうか
と提案。

璃寛糖は、
頭巾をかぶり鉦と太鼓を前につるして、
「チャンチキチン、スケテンテン」
というのを合方に、
「璃寛糖の本来は、
粳の小米に寒晒し、
榧ァに銀杏、肉桂に丁字」
と歌って歩いたものだが、
今回、与太郎は孝行でほうびをもらったのだから、
名前も「孝行糖」、
文句はそっくり借りることにしよう
というので一同賛成し、
それからというもの、総出で与太郎に歌を暗記させた。

ナントカの一つ覚えで、
かえって普通の人より早く覚えたので、
町内で笛、太鼓、身なりともにそっくりしたくしてやって、
与太郎はいよいよ飴売りに出発。

親孝行の徳か、
この飴を買って食べさせる
と子供が孝行になるという
噂が広がって大評判。

売れると
商売にも張り合いが出るもので、
与太郎、雨の日も風の日も休まず、
「スケテンテン、コーコートー」
と流して歩く。

ある日、
相変わらず声を張り上げながら、
水戸さまの屋敷前を通りかかる。

江戸市中で一番やかましかったのがここの門前で、
少しでもぐずぐずしていると
たちまち門番に六尺棒で
「通れ」と追い払われる。

ところがもとより与太郎、
そんなことは知らないから、
能天気に「孝行糖の本来は、粳の小米に寒晒し……」
とやったから、門番、
「妙な奴が来たな。とおれっ」
「むかしむかし唐土の、二十四孝のその中で」
「行けっ」
「食べてみな、おいしいよ」
「ご門前じゃによって鳴物はあいならん」「チャンチキチン」
「ならんというんだ」
「スケテンテン」
「こらっ」
「テンドコドン」
……叱言を鳴物の掛け声に使ったから、
たちまち六尺棒でめった打ち。

通りかかった人が、
「逃げろ逃げろ……どうぞお許しを。空馬鹿でございますが、
親孝行な者……これこれ、こっちィこい」
「痛えや、痛えや」
「痛いどころじゃねえ。
首斬られてもしょうがねえんだ。……どこをぶたれた」
と聞くと与太郎、
頭と尻を押さえて
「ココォと、ココォと」

【うんちく】

実在した与太郎

孝行糖売りは明治初期、大阪にいたという説がありますが、
実はそのずっと以前、弘化3年(1846)2月ごろから
藍鼠色の霜降に筍を描いた半纏(はんてん)を着て、
この噺の与太郎とまったく同じ唄をうたいながら
江戸の町を売り歩いていた飴屋がいたことが
幕末の政商・藤岡屋由蔵の「見聞日記」に記されています。

まず、当人に間違いありません。

青ざし五貫文

「唐茄子屋政談」「松山鏡」にも登場しますが、
銭五貫文は幕末の相場でおよそ一両一分。
四千八百文にあたります。

それを青く染めた麻縄の銭挿しに通して、
孝行の褒美に町奉行より下されます。

水戸さまの屋敷前

現在の後楽園遊園地、東京ドーム、小石川後楽園、
飯田橋職業安定所を含む文京区後楽一丁目全部を占めました。

このうち東京ドームの場所には、明治維新後
陸軍砲兵工廠が建てられ、
昭和12年、その移転後の跡地に
旧後楽園球場が建設されました。

コワーイ門番

藩邸の門番は、普通身分は若党で、最下級の士分です。

水戸上屋敷は「日暮らし門」と呼ばれた華麗な正門が有名で、
左甚五郎作の竜の彫刻をあしらっていました。

正門から江戸川堤まで、水戸さま百軒長屋といい、
ずらりと中級藩士の住む長屋が続いていました。

門番だけでなく、こうした中・下級藩士による
「町人いびり」も、ままあったようです。

これも上方ダネ

明治初期に作られた上方落語の「新作」といわれますが、
作者は未詳です。

三代目三遊亭円馬が東京に移植、
戦後は三代目金馬の十八番として知られ、
現四代目金馬が継承して得意にしています。
「本場」の大阪では、現在は演じ手がないようです。

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