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2005.07.09

熊の皮(くまのかわ) 落語

思わずニヤリ。艶笑噺でっす。

横町の医者から、
祝い事があったからと、
赤飯が届けられた。

その礼に行かなければということで、
少し人間のネジがゆるみ加減の亭主の甚兵衛に、
女房が口上を教える。
「うけたまわれば、
お祝い事がありましたそうで、
おめでとう存じます。
お門多のところを、
手前どもまで赤飯をちょうだいしまして、
ありがとう存じます。
女房からくれぐれもよろしく申しました」
「おまえさんはおめでたいから、
決して最後のを忘れるんじゃない。
それからあの先生は道具自慢だから、
なにか道具の一つも褒めといで」
と注意されて送り出される。

まあ、おなじみの与太郎ほどではないから、
「ありがとう存じます」
まではなんとか言えたが、
肝心の「女房が」以下を
きれいに忘れてしまった。

「はて、まだ何かあったみてえだが……」

座敷へ上げてもらっても、
まだ首をひねっている。

「……えー、先生、
なにかほめるような道具はないですか」
「ナニ、道具が見たいか。
よしよし、……これはどうだ」「へえ、こりゃあ、なんです?」
「珍品の熊の皮の巾着だ」

なるほど本物と見えて、
黒い皮がびっしりと生えている。

触ってみると、
丸い穴が二か所開いている。
鉄砲玉の痕らしい。

甚兵衛、感心して毛をなでまわしている間に、
ひょいとその穴に二本の指が入った。
「あっ、先生、女房がよろしく申しました」

【うんちく】

触るものはいろいろ

原話は安永2年(1773)刊の笑話本「聞上手」中の
「熊革」ですが、その他、同3年刊「豆談語」、
同5年刊「売言葉」、同8年刊「鯛味噌津」など、
複数の出典に類話があります。

男が最後になでるものは、「熊革」ではたばこ入れですが、
のちに胴乱(腰に下げる袋)、熊の敷皮など、いろいろ変わりました。

前出の「売言葉」中の「寒の見まい」では敷皮になっていて、
現在ではほぼこれが定着しています。
先日(2005年4月)、TBS落語研究会で演じた柳家三太樓も
このやり方でした。 

エロ味を消す苦心

五代目柳亭左楽、六代目蝶花楼馬楽、六代目三升家小勝など、
どちらかというとマイナーで「玄人好み」の落語家が手掛けた噺です。

この程度の艶笑噺でも、やはり公では
そのままはやりにくいとみえ、
昔からエロ味を消した、当たり障りのないオチが
工夫されています。

たとえば、同じ毛皮を触るやり方でも、
女房が亭主のスネ毛を引っ張ったので、
後でその連想で思い出したり、
熊の皮は尻に敷くものだと言われて
初めて「女房がよろしく……」となったり、
演者によっていろいろですが、いずれも
面白くも何ともなく、味も素っ気もありません。

医者と巾着

昔の医者は、往診の際に巾着を薬入れに使ったため
それがオチの「小道具」として用いられるのが
いちばん自然ですが、
現在では理解されにくくなっています。

また、隠語では巾着は女性の局部を意味するので、
特別な会やお座敷で艶笑噺として演じる場合は
当然、オチに直結するわけです。

なお、鉄砲玉の痕をくじるやり方はかなり後発のものらしく、
安永年間のどの原話にも見られません。

たばこ入れ、巾着、敷皮と品は変わっても、すべて
なめし革ではなく、毛のびっしり付いたものですから
触るだけでも十分エロチックで、
穴まで出すのは蛇足なばかりか、
ほとんどポルノに近い、えげつない演出といえます。

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