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2005.08.13

清正公酒屋(せいしょうこうさかや)/落語

落語版「ロミオとジュリエット」。だから、やっぱり陽気なんです。

酒屋の肥後屋の若だんなで一人息子の清七と、
向かいの菓子屋・虎屋の娘お仲は恋仲だが、
両家は昔から仲が悪く、二人は許されない恋。

それというのも、
もともと宗旨が一向宗と日蓮宗、
商売が酒と饅頭で、上戸と下戸。

すべての利害が対立している上、
肥後屋は清正公崇拝で、
その加藤清正は毒饅頭で暗殺されたという俗説があるから、
なおさらのこと。

もう一つ、
虎屋だけに、虎退治の清正とは仇同士。

というわけで、
とんだロミオとジュリエットだが、この若だんな、
おやじの清兵衛に、お仲を思い切らないと勘当だ
と、脅かされてもいっこうに動じない。

勘当はおやじの口癖で聞き飽きているし、
こっちは跡取りで、代わりがいないというバーゲニング・パワーもある。

思い切れませんから勘当結構、早速取りかかりましょう
と開き直られると、案の定おやじの旗色が悪い。

結局、お決まりで番頭が中に入り、
清七の処分は保留、「未決」のまま、
お仲から隔離するため、親類預けということになった。

そうなると虎屋の方も放ってはおけず、
お仲も同じく親類預け。

二人は哀れ、離れ離れで幽閉の身に。

ところが抜け道はあるもので、
饅頭屋のお手伝いと、酒屋の小僧の長松が、
こっそり二人の手紙を取り次ぐ手はずができた。

ある日、お仲から、夜中にそっと忍んで来てくれという手紙。

若だんなは勇気百倍、脱走して深夜、お仲を連れだす。

結局駆け落ちしかないというので、
二人は手に手を取って夜霧に消えていく。

しかし、しょせん添われぬ二人の仲。

心中しようと決まり、ここで梅川忠兵衛よろしく、
「覚悟はよいか」
「南無阿弥陀仏」
とくればはまるのだが、
あいにく男の宗旨は法華(日蓮宗)。

「覚悟はよいか」
「南無妙法蓮華経」
……いやに陽気な心中となった。

ナムミョウホウレンゲッキョウナムミョウホウレンゲッキョ
と蛙の交配期のようにデュエットし、にぎやかに水中へドボン……
その時突如、ドロドロと怪しの煙。

(ここで芝居がかりになり)
「やあ待て両人、早まるな」
「こはいずこの御方なるか」
「おお我こそはそちが日ごろ信心なす、清正公大神祗なるぞ」
「ちぇー、かたじけない。この上は改宗なしたる女房お仲の命を助けて下さりませ」
「イヤ、たとい改宗なしたりとも、お仲の命は助けられぬわ」
「そりゃまたなぜに」
と聞くと清正、ニヤっと笑って
「なあに、オレの敵の饅頭屋だから」

【うんちく】

清正公さま

「きよまさこう」ではなく、「せいしょうこう」、または縮めて
「セイショコさま」とも呼んでますね。

戦国時代の英傑・加藤清正の霊を神として祀ったものです。
武運・」金運をつかさどりますが、
清正が法華宗の信徒だったところから
法華(日蓮宗)信者の信仰を集めました。

江戸は、ほかの地方に比べて法華の宗旨が多く、
「法華長屋」「甲府い」「鰍沢」「おせつ徳三郎」「小言幸兵衛」など、
落語にも法華の登場する噺はたくさんあります。

この噺で伺われるように、
他宗への排斥が強いのも、この宗派の「伝統」でしょう。

江戸の清正公(清正公神祇、清正公大神祇)は二か所あり、
一つは浜町の清正公で、現在の中央区日本橋・浜町公園内。
元は細川家の中屋敷内にありました。
肥後本妙寺の別院で、この噺に登場するのは、こちらです。
お間違いのなきよう。

もう一つは港区白金の覚林寺境内に祀られる「白金の清正公」で、
こちらが本家とされます。

清正の画像、ゆかりの品を所蔵していますが、
こちらも細川家の白金の中屋敷がすぐ近くで、
同家は清正の加藤家が国替え(のちお取りつぶし)後、
後釜に肥後熊本に封じられたため、清正の霊を慰める意味もあり、
清正公神祇を手厚く庇護したといいます。

暗殺伝説に由来する噺

豊臣家の支柱であった清正が慶長16年(1611)、
徳川家康の手により、毒饅頭(毒酒説も)で暗殺されたという
俗説に基づいて作られた噺です。

オチは文字通りダジャレで、
アン殺されたから饅頭が天敵、
というわけ。

このフレーズ、「タイガー&ドラゴン」でも
使われてましたっけ。

明治期に六代目桂文治が
「縁結び浮名の恋風」の題で得意にしました。
この題名は、芝居噺が得意だった文治が、後半の道行きの部分を
芝居噺仕立てにしたためです。

その後八代目文治、四代目柳家つばめ、
戦後も六代目三升家小勝が手掛けましたが、
現在は立川談志がやるくらいで(音源とも)、
残念ながら忘れられかけた噺といっていいでしょう。
何せ、「東京かわら版」の「寄席演芸年鑑」索引にも
「せ」でなく、「き」の部で載っているくらいですから。

お題目のデュエット

心中場面のこのギャグは、
「おせつ徳三郎」「小言幸兵衛」にも取り入れられています。
どれが「本家」かはわかりませんが。

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