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2005.08.22

夏どろ(なつどろ)/落語

泥棒から金を巻き上げる!? したたか男の痛快譚。

ある夏の夜、
路地裏の貧乏長屋にコソ泥が侵入。

目をつけたのは、蚊燻しを焚きっ放しにしている家。
こ汚いが、灯を点けずに寝ているからは、
食うものも食わないで金を溜め込んでいるに違いない
と、当たりをつけた。

火の用心が悪い
と、お節介を言いながら中に入ると、
男が一人で寝ている。

起こして
「さあ金を出せ」
とすごんでも、
男は
「ああ、泥棒か。なら安心だ」
と、全く動じない。

男は日雇いの労働者で、
昨日の明け方まで五円あったが、
博打で巻き上げられて今は一文なし。

取られる物など何もないという。

「しらばっくれるな。これでも一軒の家を構えていて、何もないはずがねえ。
銀貨か何かボロッきれにでも包んで隠してあるだろう。
オレが消してやらなかったら、
てめえは今ごろ蚊燻しが燃え上がって焼け死んじまったんだ。
いわば命の恩人だ」
「余計なことをしやがる」

二尺八寸ダンビラは伊達には差さないと脅しても
「てめえ、何も差してねえじゃねえか」

このところ雨が続いて稼業に出られず、
食うものもないので水ばかりのんで寝ているという。

いっそおめえの弟子にしてくれ
と頼まれ、泥棒は閉口。

その上
「縁あって上がってきたんだ。すまねえが三十銭貸してくれ」
と、逆に金をせびられた。

「どうせただ取る商売だ。貸したっていいだろう。かわいそうだと思って」
「ばか言え。盗人にかわいそうもあるか」

「どうしても貸さねえな。
路地を閉めれば一本道だ。
オレが泥棒ッてどなれば、長屋中三十六人残らず飛んでくる。
相撲取りだって三人いるんだ」

逆に脅かされ、しかたなく三十銭出すと、
今度はおかず代もう二十銭貸せ
と、言う。

とんでもねえ
と、断ると
「どうしても貸さねえな。路地を閉めれば一本道だ」

また始まったから、しぶしぶ二十銭。

すると、またまた今度は
「蚊帳を受け出す金三十銭頼む。
質にへえってるんだ。貸さねえと、路地を閉めたら一本道……」

泥棒はもうお手上げ。
合計八十銭ふんだくられた。

「ありがてえ。これは借りたんだ。今度来たときに」
「誰が来るもんか」
「そう言わずにちょいちょいおいで。
オレは身内がねえから、親類になってくれ」
「ばかあ言え。どなると聞かねえぞ」

泥棒がげんなりして引き上げると、
アワを食ったのか煙草入れを置いていった。

男は煙草を吸わないので、
もらってもしかたがない
と後を追いかけて
「おーい、泥棒ォ」
「こんちくしょう。間抜けめ。泥棒ってえやつがあるか」
「でも、おめえの名前知らねえから」

【うんちく】

上方から東京へ

原話は安永8年(1779)刊「気の薬」中の小咄「貧乏者」です。

原話では、「出張先」のあまりの悲惨な現状に泥棒がいたく同情、
現行の落語と逆に金子二百疋(二千文=二分=一両の二分の一)を
恵んでくれる筋です。オチは「おたばこ入れが落ちておりました」。

上方落語「打飼盗人(うちがえぬすびと)を大正末期に
柳家小はん(→「酢豆腐」)が東京に移したと言われますが
はっきりしません。

上方の題名は、オチが「カラの打飼忘れたある」
となっていることからきています。
打飼とは、布を袋状に縫い合わせた
旅行用の胴巻き(=腹巻き)のことです。

いろいろなオチ

昭和に入ってからは、三代目三遊亭小円朝が得意にしました。

小円朝は「忍び込んでからの泥棒の目の動きが難しい噺」
と、芸談を残していますが、同師は家のあるじをを大工とし、
暑いのでフンドシ一本で寝ている設定にしました。

そのオチは、泥棒が引き上げるところで切り、
「陽気の変わり目に、もう一ぺん来てくんねえ」
としていました。

同世代では三代目金馬も演じましたが、そのほか
オチは、演者によってかなり異なり、
たばこ入れが落ちていた説明を略した上で
「おーい」「どなるやつがあるか」「たばこ入れが落ちてた」
と、意表をついた上、原話通りに落とすもの、
「あとの家賃(用の金)はいつ持ってきてくれる?」
と、さらにずうずうしいもの、
「また質入れしたころ来てくんねえ」とするものなど、
さまざまに工夫されています。

あらすじの「おめえの名前を知らねえから」
は、前記小はんの師匠・三代目柳家小さんの作ったもので、
このオチが現在東京ではもっとも一般的でしょう。

ダンビラって?

短刀で、刃が幅広いものです。

徒広(ただびろ)が語源で、セリフの「二尺八寸……」は
芝居の泥棒の常套句です。

「転宅」の泥棒が、
この大仰なセリフのフルヴァージョンを
まくしたてていますので、これから「出動予定」で
商売用に丸暗記したい方は、その項を参照してください。

たばこ入れ

安永年間(1772~81)から普及し、幕末に近づくにつれ
しだいに贅沢なものが好まれるようになりました。

落語に登場の飯炊き男・権助が持っているのは
熊の革のたばこ入れと相場が決まっていて
これはいかにもぴったりな感じです。

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