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2005.08.10

たがや/落語

                                               たがや

江戸っ子のカッコよさが出ている噺です。

安永年間、
五月二十八日は両国の川開き。

両国橋の上は見物人でごったがえす。

花火をめでると「玉屋」の声しきり。

本所方向から旗本の一行。

前には二人の供侍、中間は槍を持っている。

「寄れ、寄れいッ」
と、強引に渡ろうとする。

反対側の広小路方向から通りかかったのが、
商売物の桶のたばをかついだ、たがや。

「いけねえ、川開きだ。えれえことしちゃったなあ。
もっと早く気がつきゃァよかったなあ。
といって、永代橋を回っちゃしょうがねえし、
吾妻橋へ引き返すのもドジだし、どうにもしょうがねえ。
しかたがねえ。通してもらおう。すみません」

もみ合う中、後ろから押されたはずみに、
かついでいたたががはずれ、
向こうからやって来た侍の笠の縁をはがしてしまった。

恥をかかされた侍は、
カンカンになって怒り
「たわけ者め、屋敷へまいれ」

「腰の抜けたおやじと目の悪いおふくろが
あっしの帰りを首を長くして待っています。助けてください」

たがやはあやまるが、侍は容赦しない。

開き直ったたがや、
「血も涙もねえ、眼も鼻も口もねえ、
のっぺらぼうの丸太ん棒野郎ッ。四六の裏め」

「なにッ」
「三一(さんぴん)てえんだ」
「無礼なことを申すと、手は見せんぞ」
「見せねえ手ならしまっとけ」
「大小がこわくないか」
「大小がこわかった日にゃ、柱暦の下ァ、通れねえ」

必死のたがやは侍の刀を奪って、
次々と供を斬り殺していく。

最後に残った旗本が馬から下りて槍をしごく。

突いてくる槍の千段巻きを、
たがやはグッとつかみ、横一文字に刀をはらうと、
勢い余って武士の首が宙天に。

まわりにいた見物人が
「上がった上がったィ。たァがやァい」

【うんちく】

夏休み限定落語

生粋の江戸落語で、詳しい起源や原話は不明ですが、
両国の川開きで、花火が年中行事化したのは
享保2年(1717)ですから、
少なくともそれ以後の作でしょう。

かつては三代目三遊亭金馬、三代目桂三木助などが
威勢のよさを競いましたが、
現在でも、花火をあてこんで、夏になると
やたらと高座にかかる納涼ばなしです。

あらすじでもとにした三木助の速記では、
時代を、江戸中期の安永年間(1772~81)、
十代将軍家治の治世としています。

元はたがやの首が……

立川談志は、逆にたがやの首を飛ばすオチでやりますが、
これがオリジナルのやり方。
だいたいが、そうでなければ、
「上がった上がった、たァがやァい」
の掛け声の意味がなくなります。

この改変に関するどの解説でも、版で押したように
侍の首が飛ぶようになったのは、
幕末に安政大地震(1855)の復興景気で、
首ならぬ職人の手間賃が跳ね上がり、
景気のよくなった彼らが寄席に大勢来るようになったので、
職人仲間のたがやをヒーローにしてハッピーエンドに変え、
ニワカ客のごきげんをうかがったため、とあります。

まあ、そうには違いないでしょうが、いくら幕府の権勢が地に堕ちたとはいえ、
あの恐怖政治の井伊大老が、こんな武士への冒涜を
許しておくとも考えにくく、
案外、季節違いとはいえ、その井伊直弼の
首が飛んだこと(1860)がきっかけなのではないか、
と、勘ぐってしまうのですが。

「たがや」って?

大道で桶を修理したり、たがを交換したりする職人です。
たがとは、桶や樽などの周りを巻いて、
外れないように締める竹の輪。

極限まで馬鹿力でギリギリと締めてある上、竹ですから
一度外れた場合の反発力はすさまじいものでしょう。

というわけで、この噺の笠を跳ね飛ばす場面は
たいへんにリアルで無理がありません。

玉屋

両国にあった花火屋で、
日本橋横山町の老舗・鍵屋の番頭が
のれん分けしたものです。

以来、業界の勢力を主家筋の鍵屋と二分し、
川開きでも「鍵屋」「玉屋」と
平等に声が掛かるまでになりましたが、
天保14年(1843)、自火を出したとしてお上のお咎めを受け、
廃業処分になりました。
どうも、鍵屋の陰謀のにおいがプンプンしますが。

ところが、それ以来判官びいきの江戸っ子の同情を一身に集め、
店はなくなったのに、掛け声だけは
「玉屋」「玉屋」の一点張りで、
「鍵屋」のカの字もなくなったのは皮肉です。

柱暦

たがやのタンカの中に登場しますが、縦長の暦で、
柱に張っておくものです。

暦のたぐいは、表向き町人や百姓は所持を禁じられていましたが、
ないと生活に不便なので、簡単なものを
寺社などからもらってきていました。

千段巻き

槍の柄を籐(とう)で巻いて、漆を塗った部分です。

なお、侍の言う「手は見せんぞ」というのは、
時代劇では昔から常套句ですが、
刀を抜く手さばきも見えないほど、
素早く斬ってしまうという脅しです。

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