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2005.08.30

ろくろ首(ろくろくび)/落語

                                              ろくろ首

どことなくユーモラスで、愛らしい感じの妖怪が主人公。

与太郎の松公。

おじさんの家にぼーっとやって来て、
モジモジしたあげく、突然大声で
「おかみさんが欲しいッ」

二十五になってもおふくろと二人暮しで、
ぶらぶら遊んでいるが、
兄嫁がご膳差し向かいで兄貴を「あなたや」などと
色っぽい声で呼ぶので、うらやましくなったらしい。

「そりゃいいが、おまえどうして食わせる?」
「箸と茶碗」
「どうしてかみさんを養ってくかってんだ」
「大丈夫だよ。お袋とかみさんを働かせて……」
「てえげえにしろ、馬鹿野郎」

すると、おばさんが何か耳打ち。

「え? なに? こいつを? そうよなあ。
こういうのは感じねえから、いいかも知れねえ」

そこでおじさん、
もしおまえがその気なら
と、けっこうづくめの養子の話をする。

さるお屋敷のお嬢さんで、年ははたち。
両親は亡くなって乳母、女中二人と四人暮らし。
資産はあるし美人だし、と聞いて松公は早くもデレデレ。

ところが、奇病があって、
草木も眠る丑三ツ時(午前2時ごろ)になると、
首がスーッと伸び、
行灯(あんどん)の油をペロペロなめるとか。

「お、おじさん、それ、どくどっ首」
「ろくろっ首だ」
「そんな遠くに首があったんじゃ、たぐらなくちゃならねえ」
「帆じゃねえや」

夜しか首は伸びないし、寝たら目を覚まさないからいいと、
松公、能天気に行く気になった。

おじさん、あいさつもできなければまとまらないと、
松公の褌(ふんどし)にひもを結び、乳母が出てきて何か行ったとき、
一回引っ張れば「さようさよう」
二回なら「ごもっともごもっとも」
三回なら「なかなか」
と、返事するんだと教え込み、
「これでまとまりゃ人間の廃物利用だ」と、
松公を連れてお屋敷へ。

ところが、乳母が
「ご両親さまが、草葉の陰でお喜びでございましょう」
と、あいさつすると松公、
「ごもっともごもっともォ。あとはなかなか」
と、後まで言ってしまい、おじさんは冷や汗。

庭を見ると猫がいたので
「柔らかくてうまそうな猫だ」とヒゲを抜く。
そのうち、お嬢さんが庭を通る。

「お、おじさん、あの首が」
「しッ、聞こえるじゃねえか」

よく見ると大変にいい女なので、松公うれしくなり
「あなたッ、おまえさん、さようさようッ」

お嬢さん、顔を赤くして逃げてしまう。

おじさんが小言を言っていると、猫が褌に取りついて、松公、
「さようさよう、なかなか、ごもっともごもっともッ」
と、大騒ぎ。

縁があったか、話がまとまって吉日を選び、婚礼の夜。

こういう者でも床が違うから寝つかれず、夜中に目を覚ました。
時計がチンチンと二つ打つ。

「ごもっともごもっとも」と寝ぼけていると、
隣のお嬢さんの首がスーッ。

松公「伸びたァー」と肝をつぶしてそのまま飛び出し、
おじさんの家の戸をドンドン。

「あばばば、伸びたーッ」
「馬鹿野郎。静かにしろ。伸びるのを承知で行ったんじゃねえか」
「承知だってダメだよ。初日から。あんなの駄目だ」
「何があんなのだ。第一、お前、夫婦のちぎりは結んだんだろ?」
「なんだい、そのちぎりって」
「そんなことはっきり言えるか。家へけえれ」
「あたい、お袋んとこに帰る」
「この野郎。どのツラ下げてお袋んとこィ帰れる。
大喜びで、明日はいい便りの聞けるように、
首を長くして待っているじゃねえか」
「えっ、大変だ。家へも帰れねえ」

【うんちく】

ろくろって?

ろくろとは、物をつるしあげる滑車で、
「ろくろ首」とは、その宙高く伸びた形から名がついた妖怪です。
江戸の古い洒落で、「ろくろ首のへど」とは、「長い」の意味。

歌舞伎の「髪結新三」・「永代橋の場」の場のセリフに、
「ろくろのような首をして」とあるように、
首の長い人を揶揄するたとえにも使われました。

ろくろ首の正体

この妖怪、どうも中国にルーツがあるようで、
向こうでは「飛頭蛮」と書きます。

水木しげる氏によると、
ろくろ首はたいてい女で、一説には
夜中に、寝ている男の精気を吸い取るとか。

さる大名が参勤で道中、本陣に泊まっているとき、
馬番が居眠りしているスキに、牡馬がろくろ首に
股間からすっかり精を吸われ、翌日フラフラで使い物にならなかったという、
笑話ともエロ噺とも、はた怪談ともつかない昔話があるそうです。

これをみると、どうもインランな女性のカリカチュアのようですが、
夜な夜な、魂が肉体を離れる「離魂病」だという
オカルト的解釈もあり、また、いやな話ですが、
ろくろ首には首に青あざがあるという説があるので
首つり死体から連想されたのでは、と考えられなくもありません。

上方の「後日談」

この噺、幕末から大阪で演じられていたものを
明治期に三代目柳家小さんが東京に移しました。
直接の原典ではありませんが、「ろくろ首」の小咄は
明和9年(1772)刊の「楽牽頭」中の「ろくろ首」ほか
たくさんあります。

上方落語では、まだこの続きがあって、
アホが逃げたので離婚の交渉になり、すったもんだの末
蚊帳を吊る夏だけ、「別居」することに。
「首の出入りに、蚊が入って困るのや」
と、サゲになります。

上方版だと、仲人の、
「先方をキズ物にして、いまさら嫌とは言わせない」
というセリフがあるので、
怖くてもしっかり「コト」だけは済ませていたのがわかります。
その点、江戸っ子のいくじのないこと。

東京では代々の柳家小さんが本家として得意にしたほか、
三代目桂三木助もよく演じました。

オチはいろいろ

オチは演者によって何通りかあり、
四代目小さんは「じゃ、お袋もろくろ首だ」としていましたが、
先年物故した「永谷園」の五代目小さんが
あらすじのように改めました。

三木助のは、
「そんなこと言わねえで、お屋敷に帰れ。お嬢さんが
首を長くして待っている」
というものでした。

インチキも楽じゃない

江戸時代、浅草・奥山などの盛り場では、
よく「ろくろ首」の見世物が出ましたが、
これはむろん、からくりもしくは
お座敷芸の二人羽織よろしく、
複数の人間を使ったインチキでした。

それにしても、具体的にどういう仕掛けで
ゴマカシたのか、一度見てみたいものです。

「ろくろ首」小咄三題

●その1

ろくろ首が酒をごちそうになり、
「これはうらやましい。あなたなぞは、
酒を味わう楽しみが長いでしょう」
と言われ、
「いや、そのかわり、オカラを食べるときは味気ない」
        
(明和9=1772年刊「楽牽頭」中の『ろくろ首』)

●その2

長崎・丸山遊郭の女郎になじんだ男。
請け出して女房にしようと話が決まったが、
実はあの女はろくろ首だと耳打ちされ、
恐怖のあまり夜逃げした。

女は怒って、体は長崎のまま、
首だけどこまでも伸ばして、男を追いかける。
追いつ追われつ、海越え山越え、
とうとう松前(北海道)まで追い詰めた。

さすがの化物もくたびれ果て、
腹が減って、そこらの芋畑から
サトイモを掘り出してむさぼり食ったので、
松前の頭は何ともないが、
長崎の尻がブーブー。

(文化3=1806年刊「言軍話江戸嬉笑」中の『ろくろ首』)

●その3

盲目の瞽女(ごぜ)の首が夜な夜な伸びると聞いて
見に行った男。

夜中に伸びた首があんどんにぶつかりそうになると、
思わず「右、右」

(元禄11=1698年刊「露新軽口ばなし集」中の『言いさうな事』)

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