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2005.09.09

よかちょろ/落語

                                             よかちょろ

なんだか意味不明の「よかちょろ」。道楽息子の噺です。

若だんなの道楽がひどく、
一昨日使いに行ったきり戻らないので、だんなはカンカン。
番頭に、
おまえが信用しないと余計自棄になって遊ぶから
と、与田さんの掛け取りにやるように言ったのがいけない
と、八つ当たり。

今日こそみっちり小言を言うから、帰ったら必ず奥へ寄越すよう
に、言いつける。

実はこっそり帰っている若だんな、
おやじが奥へ入るとちゃっかり現れ、
番頭にさんざん花魁(おいらん)のノロケを聞かせた挙げ句、
ずうずうしくも、これからおやじに意見してくるという。

「おやじは、癇癪(かんしゃく)持ちだから、
すぐ煙管(きせる)の頭でポカリとくるが、
あたしの体は花魁からの預かり物で、顔に傷をつけるわけにはいかない。
もし花魁が傷のわけを知ったら
『なんて親です。おやじというのは人間の脱け殻で、
死なないように飯をあてがっとけばいいんです。
そういうおやじは片づけてくださいッ』」

興奮してきて番頭の首を締め上げ、
大声を出すので奥に筒抜けで、
「番頭ォ」と、どなる声。

「あたしがやりこめて、煙管が飛んできたら体をかわすから、
おまえが代わりに首をぬっと出しな」
「ご免こうむります」

嫌がるのをぽかりとなぐり、一回二円で買収し、おやじの前へ。

「おとっつぁん、ご機嫌よろしゅう」
「ちっともご機嫌よくないッ。
黙って聞いてりゃいい気になりゃあがってッ。
おまえみたいなのは、兄弟があれば家に置く男じゃないんだ」

与田さんとこで勘定は取ってきたかと追及すると、
確かに十円札で二百円もらったが、使っちまった
と、いう。

おやじ、?然(あぜん)として、
たった一日や半日で二百円の大金を使い切れるものじゃない
と言うと、
ちゃんと筋道の通った、むだのない出費です
と、譲らない。

いよいよ頭に来て
「なら内訳を言ってみろ。十銭でも計算が違ったら承知しないからな」

若だんな、いわく、
まず髭剃代が五円。

大正のそのころで、一人三十銭もあれば顔中髭(ひげ)でもあたってくれる。

「おとっつぁんのは普通の床屋で、
あたしのは、
花魁が『あたしが湿してあげます。こっちをお向きなさいったら』って」
と、おやじの顔をグイと両手でこっちへ向けたから、
おやじは毒気を抜かれてしまう。

あとは
「『よかちょろ』を四十五円で願います」

安くてもうかるものだというので、
「ふうん、おまえはそれでも商人のせがれだ。あるなら見せなさい」
「へい。女ながらもォ、まさかのときはァ、ハッハよかちょろ、
主に代わりて玉だすきィ……しんちょろ、味見てよかちょろ、
しげちょろパッパ。これで四十五円」

あきれ返って、そばの母親に
「二十二年前に、おまえの腹からこういうもんができあがったんだ。
だいたいおまえの畑が悪いから」
「おとっつぁんの鍬だってよくない」
と、ひともめ。

「孝太郎が自分の家のお金を喜んで使ってるんだから、
それをお小言をおっしゃるのはどういう料簡(りょうけん)です。
それに、あなたと孝太郎は年が違います」

「親子が年が同じでたまるかい」
「いいえ、あなたも二十二のときがありました。
あなたが二十二であたしが十九で、お嫁に来たとき三つ違い。
今でも三つ違い」
「なにを、ばかなことを言ってるんだ」

これから若だんな勘当とあいなる。

【うんちく】

遊三に始まり、文楽に終わる

「山崎屋」(→次項)の発端部分を、初代三遊亭遊三(→「六尺棒」)が
明治20年前後に、当時流行の「よかちょろ節」を当て込んで
滑稽落語に改作したものですが、現在では別話と見なされます。

遊三以後はほとんど演じ手がなく、昭和以後は
八代目桂文楽の独壇場でしたが、
その没後は継承者はいません。

遊三では、このあと、母親が父親との馴れ初めを
えんえんとのろけたあげく夫婦げんかになり、
おやじが今聞いた「よかちょろ」の歌詞を
もう忘れているというので、
「パッパというところがありますよ。お父さんパッパ」
「ハッハ、よかちょろパッパ」
となっていますが、
分かりづらい(英語のパパ=パッパを効かしたものか?)ので、
文楽が以下をカットしています。

文楽晩年の演出ではサゲはありませんが、
かっては、若だんながこれ以外の出費を並べて
二百円ちょうどにしたので、おやじがケムにまかれて
「うん、してみると無駄が少しもない」
と落とすやり方もありました。

山崎屋

長編で、道楽者の若だんなが番頭の知恵でおやじをだまし、
めでたく吉原の花魁を身請けして
かみさんにするという筋です。(近日アップ予定)

「よかちょろ」のもとになった発端部分は、
若だんなの花魁のノロケを、そっくり小僧が真似して叱られるという
他愛ないお笑いで、本体の「山崎屋」でも、
この部分はかなり早くから演じられなくなっていました。

よかちょろ節

明治21年ごろ流行した俗曲です。

「芸者だませば七代たたる、パッパよかちょろ、
たたる筈だよ猫じゃもの、よかちょろ、
スイカズワノホホテ、わしが知っちょる、知っちょる、
言わでも知れちょるパッパ」

という歌詞が伝わります。「スイカズワノホホテ」も
「パッパよかちょろ」も、単なる囃子言葉なのか、
意味はまったく不明です。

この噺のとは違いますが、とにかく
「パッパよかちょろ」が付けばいいと
かなり替え歌ができたようです。

よかちょろ節・蛇足

「よかちょろ」の「ちょろ」は、東京ことばの「ちょろ」または「ちょろっか」で、
「安易」「たやすい」の意味。

「よか」は薩摩なまりに引っかけたものでしょう。
つまり、「いいよいいよ、ちょろいもんだ」ということ。

遊三の現存の速記は明治40年のものですが、
噺中の替え歌「女ながらも……」の元唄は不明で、
おそらく内容から、日清か日露の戦時中のものと思われます。

蛇足ついでに「オリジナル」の方ですが、
「猫」は芸者の異称で、猫皮の三味線を商売道具にし、
客を「化かす」ところから。
「スイカズワのホホテ」は、前項で不明としましたが、
おそらく「すいかづら(忍冬=ツルクサ、カヅラの一種)の這うて」
の誤記・誤聞で、
ツルクサが長く這うように、相手をずっと思い続ける意味でしょう。

「玉かづら→這(延)う」は万葉時代からの代表的な枕詞です。

「いいよいいよ、おまえたちの仲はお見通しだ。
ワシが何もかものみこんでいるから心配するな」
という内容の、粋な唄ですね。

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