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2005.09.28

本膳(ほんぜん)/落語

テーブルマナーはフレンチばかりじゃございません。和食にだって。

ある村の村長(庄屋)の家で嫁取りをした。

村の衆が婚礼の際に祝物を贈った返礼に、
今夜、村のおもだった者三十六人が招待され、
ごちそうになることになったが、
誰も本膳の作法・礼式を知らない。

恥をかきたくないので、
江戸者の手習いのおっ師匠さんに頼んで、
ドロ縄で教えてもらうことにした。

相談された師匠、
今夜ではとても一人ずつ稽古する時間はないから、
上中下どこの席についても、
自分のすることを真似するように言い、
羽織りだけは着ていくように注意する。

それなら間違えがねえと一同安心して、いよいよ宴席。

主人があいさつし、盃が回された後、いよいよ本膳。

師匠が汁碗の蓋を取ると、一同同じように蓋を取る。

師匠が一口吸うと、隣の男が次席の者に
「これ、二口吸うでねえぞ。礼式に外れるだ。一口だぞ。一口一口」

これを順番に同じ文句で隣の人間に伝えていくのだから、
末席まで伝わるのにえらく時間がかかる。

今度はご飯を一口食うと、同じように
「たんと食ってはダミだぞ」
と、伝達が回る。

師匠、おかしくなってクスリと笑うと、
途端に鼻先に飯粒が二粒くっついた。

一同、さあ、食うだけでは礼式を違えると、一斉に飯粒を鼻へ。

間違って五粒くっつけてしまった男が、
あわてて三粒食ってしまう騒ぎ。

平碗が出て、中身は悪いことに里芋の煮っころがし。
しかも箸が塗箸だから、ヌルヌルしてはさめない。
師匠、不覚にもつるっと箸がすべって、
膳の上に芋が転がり出た。

仕方なく箸で突っ付いていると、
早速あちらでもこちらでも芋をコロコロコロ。
箸でコツンコツンやるから、膳は傷だらけ。

先生、今のは違う違うといくら注意しても聞こえないから、
隣の脇腹を拳固で突いた。
「あいてッ、今度の礼式はいてえぞ」
とまた、その隣をドン。それがまた隣をドン。

「いてえ、あにするだ」
「本膳の礼式だ。受け取ったら次へまわせ」
「さあ、この野郎」
「そっとやれ」
「そっとはやれねえ。覚悟スろ。ひのふのみ」
「いててッ」。

最後の三十六人目が
思いきり突いてやろうと隣を見ても誰もいない。

「先生さまぁ、この礼式はどこへやるだ?」

【うんちく】

二千年前から変わりなく……

中国・後漢(25~220)の笑話集「笑林」中の
「●人欲相共只喪」が最古の原話とされます。

これは、葬列で足を踏まれた人が怒って「バカ」と罵ったのを
後ろの者が追悼の儀礼と勘違いし、
一同まねして「バカ」と叫んだというお話。 

日本の笑話では、元和年間(1615~24)刊の
「戯言養気集」中の無題の小咄で、信濃国・深志の連中が
伊勢参宮して御師(=伊勢神宮の神職)に膳をふるまわれ、
先達の坊さんが山椒にむせて顔をしかめ、水をのんだのを
全員まねする、というお笑い。万治2年(1659)刊の
「百物語」にも、にゅう麺の薬味の山椒にむせて
クシャミをし、四つんばいで退出するのをまた
一同まねする小咄があります。

そのほか、各地の民話に類話があるようで、
現代の結婚式風景などを見ても、テーブルマナーなるものが
古今東西、いかに人を悩ませてきたかが伺われます。

●…イ+倉

本膳って?

日本料理の正式の膳立てで、普通、三の膳まであります。
最初に出る一の膳を本来「本膳」と呼びますが、
三の膳までひっくるめてそう呼ぶ場合もあります。

正式なマナーとしては、和え物と煮物に続けて箸をつけない、
菜と汁をいっしょに食べない、迷い箸をしない、
おかわりの時は飯碗を受け取ったら、必ず一度膳に置く、などがあります。
いやはや、うるさいことで。

本膳では、一の膳に飯がつくのが普通です。

彦六、小さんが得意に

三代目柳家小さんから四代目を経て、
五代目小さんに受け継がれていたほか、
三代目小さんの養子だった二代目柳家つばめに教わって、
彦六になった八代目林家正蔵もよく演じました。

地味で笑いも少なく、ウケにくい噺なので、
現在は若手ではほとんど手掛ける者がなく、
CDも出ているのは五代目小さんのもののみです。

正蔵のものは、小さん系のやり方とほとんど変わりありませんが、
招待されるきっかけが違っています。
三代目小さんの大正3年の速記では
名主の家へ江戸者の婿が来る披露で、
庄屋以下が出かける設定で、
つまり、江戸の人間に村の恥を見せたくないという見栄が、
師匠に作法を習いに行く動機になっているわけです。

正蔵ではこの要素を省き、村長の招待で村民一同が
出かけることにしてあります。
これで、名主と庄屋は同じであるのに、同じ地方の一つの村に
同時にいるのはおかしいという矛盾を解消しています。

サゲは、五代目小さんは、
「この拳はどこへやるだ?」としていました。

村長(むらおさ)

庄屋、名主に同じです。

藩主(天領の場合は幕府→代官)の任命で、
地頭(代官)の下で年貢そのほか、村の事務を司りました。

関東以北で名主、関西で庄屋と呼びました。

講談にも類話

講談「荒茶の湯」では、
福島正則以下の無骨な侍が、茶の席で
上座の加藤清正を逐一まねして失敗します。

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