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2005.09.04

一人酒盛(ひとりさかもり)/落語

上方系の噺。酒好きにはこたえられません。

これから仕事に出かけようという時に、
急用だからとのみ友達の熊五郎に呼び出された留公(とめこう)。

無理して来てみると、
たった今、上方に行っていた知人から、
土産に酒をもらったから、二人でのみたい
と、誘ったという。

造り酒屋から直接、一升だけ分けてもらった酒の元(原酒)で、
めったに手に入らないいい酒とか。

本当なら全部あげたいが、
ほかに一軒世話になった家があって、
そこへ半分持っていかなければならないから、五合で勘弁してくれ
と、置いていったという。

のみ友達は大勢いるが、
留さんは一番気が合うから呼んだ
と、お世辞を言われ、
酒に目がなく、お人よしの留公はニコニコ。

いい酒がのめると聞いて、
仕事などどうでもよくなった。

熊が、炭火を起こして燗をつけてくれの、
魚屋に行って刺し身を見つくろってこいの
と、自分をアゴで使い始めたのもいっこうに気にせず、
台所の板をひっぺがして漬物を出し、
また燗をつけ、のみたい一心でかいがいしく動きまわる。

今か今かと、のめと言ってくれるのを待っているのだが、
熊、一人でガブガブのみ、勝手な御託ばかり並べ立てるだけ。

ついにがまんしかねて
「うまいかい?」
と、せいいっぱいのカマをかけても、
グイグイ一息にのみ干してから
「のんでるときに、何か言っちゃいけねえ」
と、耳にも入らない。

「いい酒だね、うまくって、酔い心地がよくって、醒めぎわがいい。
七十五日どころか、三年ぐらい生き延びちゃった。
おい、もう一度燗をつけてくれ」

いっしょにのみてえのは留さんだけだ
と、繰り返すので、ついまたつけてやってしまう。

そのうち刺し身をムシャムシャ食いだし、
これも独り占め。

そろそろ完全にベロベロになってきて、
何かうたえ
と、からむからぶつくさ言うと
「なにもそもそ言ってるんだよォ。
酒のんだら、のんだ心持になんなきゃいけないよォ」

留、カッカしてきて燗番を忘れ、酒が沸騰。

熊、どじ助の間抜け、こんなに煮っくりかえしちまってと毒づきながら、
酒をフウフウ吹きながらのむ。

そこで五合はおつもり(終わり)。

無冠の太夫おつもり、
などと一人駄洒落で悦に入り
「一人でのんじゃもったいないから、おめえを呼んでやったんだ。
ありがたく思え。どうだ、うめえだろう」
などと言うに及び、留の怒りが爆発。

「なにォ言いやがんでえ、ベラボウめ。
うめえもまずいもあるかい。
忙しいのに呼びに来やがって、てめえ一人で食らいやがって。
てめえなんぞとは、もう生涯付き合わねえや。つらあ見やがれ馬鹿野郎ッ」

畳をけり立てて帰ってしまう。

隣のかみさんがのぞいて
「ちょいと熊さん、どうしたんだよ。けんかでもしたのかい?」
「うっちゃっときなよ。あいつは酒癖が悪いんだ」

【うんちく】

六代目松鶴の酒乱噺

もともと上方落語で、酒のみの地を生かした
六代目松鶴の十八番でした。

東京でこの噺を得意にした六代目三遊亭円生が
どちらかといえば、根は好人物という人物造形だったのに対し、
松鶴の主人公は酒乱そのものでした。

大阪では、もともと、
紙切りや記憶術などの珍芸を売り物にしていた
桂南天(1972年、83歳で没)が得意にし、
そのやり方は現・米朝が直伝で継承しています。

南天(米朝)では、主人公は引っ越してきたばかりの独り者で、
訪ねてきた友達に荷物の後片付けまですっかりやらせ、
その後「一人酒盛」のくだりに入ります。

円朝の名人芸

明治のジャーナリスト・山本笑月(1873~1936)著
「明治世相百話」に、明治28年秋、
すでに引退していた大御所・三遊亭円朝が、
浜町の日本橋倶楽部で催された「円朝会」に出席、
トリにこの「一人酒盛」を演じたことが書かれています。

それによると、円朝は、「被害者」の男を、後半まったく無言とし、
顔つきや態度だけで高まる怒りを表現、
円朝の顔色が青くなって、真実怒っているように見えたといいます。

名人芸のきわみでしょう。

その後、東京では円朝の高弟・二代目三遊亭円橘が最も得意にし、
のちの六代目円生は、子供のころ円橘の講座を聴いた記憶と、
三代目蝶花楼馬楽の短い速記をもとに構成しました。

七十五日どころか……

七十五日は、ほんのわずかな期間という意味。
「人のうわさも七十五日」「初物七十五日」など、
江戸ではよく七十五日を使いますが、
この数字の根拠不明で、六代目円生も
「よく分かりません」と言っています。

この噺に関しては、酒はすぐ醒めるから、
命が延びてもほんのわずか、と逆説的な意味を
含むのかも知れません。

おつもりって?

正確には「積もりっこ」で、杯を納めることです。
それと、平家物語の登場人物・
無官太夫平敦盛を掛けたダジャレ。

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