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2005.10.22

文七元結(ぶんしちもっとい)/落語

                                                                                                       文七元結

名作ではありますが、演者によってだいぶ違いますね。

本所達磨(だるま)横町に住む、左官の長兵衛。

腕はいいが博打に凝り、
仕事もろくにしないので家計は火の車。

博打の借金が五十両にもなり、
年も越せないありさまだ。

今日も細川屋敷の開帳ですってんてん、
法被(はっぴ)一枚で帰ってみると、
今年十七になる娘のお久がいなくなった
と、後添いの女房・お兼が騒いでいる。

成さぬ仲だが、
あんな気立ての優しい子はない、
おまえさんが博打で負けた腹いせにあたしをぶつのを見るのが辛い
と、身でも投げたら、あたしも生きていない
と、泣くのを持て余ましていると、
出入り先の吉原・佐野槌(さのつぢ)から使いの者。

お久を昨夜から預かっているから、
すぐ来るようにと女将(おかみ)さんが呼んでいる
と、いう。

慌てて駆けつけてみると、
女将さんの傍らでお久が泣いている。

「親方、おまえ、この子に小言なんか言うと罰が当たるよ」

実はお久、
自分が身を売って金をこしらえ、
おやじの博打狂いを止めさせたい
と、涙ながらに頼んだという。

こんないい子を持ちながら、なんでおまえ、博打などするんだ
と、きつく意見され、
長兵衛、つくづく迷いから覚めた。

お久の孝心に対してだ
と、女将さんは五十両貸してくれ、
来年の大晦日までに返すように言う。

それまでお久を預り、
客を取らせずに、自分の身の回りを手伝ってもらうが、
一日でも期限が過ぎたら
「あたしも鬼になるよ」

勤めをさせたら悪い病気をもらって死んでしまうかもしれない、
娘がかわいいなら、一生懸命稼いで請け出しにおいで
と、言い渡されて長兵衛、必ず迎えに来るとお久に詫びる。

五十両を懐に吾妻橋(あづまばし)に来かかった時、
若い男が今しも身投げしようとするのを見た長兵衛、
抱き留めて事情を聞くと、
男は日本橋横山町三丁目の鼈甲(べっこう)問屋・近江屋卯兵衛の手代・文七。

橋を渡った小梅の水戸さまで掛け取りに行き、
受けとった五十両をすられ、申し訳なさの身投げだ
と、いう。

どうしても金がなければ死ぬよりない
と聞かないので、長兵衛は迷いに迷った挙げ句、
これこれで娘が身売りした大事の金だが、命には変えられない
と、断る文七に金包みをたたきつけてしまう。

一方、近江屋では、
文七がいつまでも帰らないので大騒ぎ。

実は、碁好きの文七が殿さまの相手をするうち、
うっかり金を碁盤の下に忘れていった
と、さきほど屋敷から届けられたばかり。

夢うつつでやっと帰った文七が五十両をさし出したので、
この金はどこから持ってきたと番頭が問い詰めると、
文七は仰天して、吾妻橋の一件を残らず話した。

だんなは、
世の中には親切な方もいるものだと感心、
長兵衛が文七に話した吉原・佐野槌という屋号を頼りに、
さっそくお久を請け出し、
翌日、文七を連れて達磨横町の長兵衛宅を訪ねると、
昨日からずっと夫婦げんかのしっ放し。

割って入っただんなが事情を話して厚く礼をのべ、
五十両を返したところに、駕籠(かご)に乗せられたお久が帰ってくる。

夢かと喜ぶ親子三人に、近江屋は、
文七は身寄り頼りのない身、
ぜひ親方のように心の直ぐな方に親代わりになっていただきたい
と、これから文七とお久をめあわせ、
二人して麹町(こうじまち)貝坂に元結屋の店を開いたという、
「文七元結」由来の一席。

【うんちく】

円朝の新聞連載

中国の文献(詳細不明)をもとに、三遊亭円朝が作ったとされますが、
実際には、それ以前に同題の噺が存在し、
円朝が寄席でその噺を聴いて、自分の工夫を入れて
人情噺に仕立て直したのでは、というのが、
八代目林家正蔵の説です。

初演の時期は不明ですが、
明治22年4月30日から5月9日まで十回に分けて
円朝の口演速記が「やまと新聞」に連載され、
翌年6月、速記本が金桜堂から出版されています。

高弟の四代目円生が継承して得意にし、その他、
明治40年の速記が残る初代三遊亭円右、
四代目橘家円喬、五代目円生など、円朝門につながる
明治・大正、昭和初期の名人連が競って演じました。

戦後も巨匠連が競演

四代目円生から弟弟子の三遊一朝(1930年没)が教わり、
それを、戦後の落語界を担った八代目林家正蔵、
六代目円生に伝えました。
この二人が戦後のこの噺の双璧でしたが、
五代目古今亭志ん生もよく演じ、
志ん生は前半の部分を省略していきなり
吾妻橋の出会いから始めています。

次の世代の現円楽、談志、故志ん朝も
もちろん得意にしています。

身売りする遊女屋、文七の奉公先は、演者によって異なり、
オリジナルの円朝の速記では、それぞれ
吉原・江戸町一丁目の角海老、白銀町の近江屋卯兵衛ですが、
五代目円生以来、六代目円生、八代目正蔵を経て現在では、
佐野槌、横山町三丁目が普通です。
なお、五代目古今亭志ん生だけは
奉公先の鼈甲問屋を、石町二丁目・近惣としていました。

五代目円生(1940年没)が、全体の眼目とされる
吾妻橋での長兵衛の心理描写を細かくし、何度も
「本当にだめかい?」と繰り返しながら、紙包みを
出したり引っ込めたりする仕種を工夫しました。

家元の見解

いくら義侠心に富んでいても、娘を売った金までくれてやるのは
非現実的だという意見について、現立川談志は、

「つまり長兵衛は身投げにかかわりあったことの始末に困って、
五十両の金を若者にやっちまっただけのことなのだ。
だから本人にとっては美談でもなんでもない、
さして善いことをしたという気もない。どうにもならなくなって
その場しのぎの方法でやった、ともいえる。
いや、きっとそうだ」(「新釈落語咄」)

と、述べています。

文七元結

水引元結ともいいました。

元結(もっとい)は、マゲのもとどりを結ぶ紙紐で、
紙こよりを糊や胡粉などで練りかためて作ります。
江戸時代には、公家は紫、将軍は赤、町人は白と、
身分によって厳格に色が区別されていて、万一
卑しい町人風情が赤い元結など結んでいようものなら、
その元結ごと首が飛んだワケです。

文七元結は、白く艶のある和紙で作ったもので、
名の由来は、文七という者が発明したからとも、
大坂の侠客・雁金(かりがね)文七に因むともいわれますが、
はっきりしません。

麹町貝坂

現・千代田区平河町一丁目から二丁目に登る坂です。

元結屋の所在は、現在では六代目円生にならって
ほとんどの演者が貝坂にしますが、古くは、
円朝では麹町六丁目、初代円右では麹町隼町と、
かなり異同がありました。

歌舞伎でも上演

歌舞伎にも脚色され、初演は明治24年2月、
大阪・中座(勝歌女助作)ですが、長兵衛役は
明治35年9月、五代目尾上菊五郎の歌舞伎座初演以来、
六代目菊五郎、さらに二代目尾上松緑、十七代目中村勘三郎、
現七代目菊五郎、中村勘九郎(現十八代目勘三郎)と受け継がれ、
「人情噺文七元結」として代表的な人気世話狂言になっています。

六代目菊五郎は、左官は普段の仕事のくせで、
狭い塀の上を歩くように平均を取りながらつま先で歩く、
という口伝を残しました。

映画化7回!

舞台(歌舞伎)化に触れましたので、ついでに映画も。

この噺、妙に日本人の琴線をくすぐるらしく、
1920年(大正9)帝キネ製作を振り出しに、サイレント時代を含め、
過去何と映画化7回。
落語の単独演目の映画化回数としては、たぶん最多でよう。

ただし、戦後は1956年の松竹ただ一回です。

そのうち、6本目の1936年、松竹製作版では、
主演があの「元祖旗本退屈男」こと市川右太衛門。
見ていませんが、おそらく長兵衛役でしょう。

戦後の同じく松竹版では、文七が大谷友右衛門。
今や女形の最高峰にして現役最長老・
四代目中村雀右衛門の若き日ですね。
長兵衛役は…何と花菱アチャコ。
しかし、大阪弁の長兵衛というのも、何かねえ……。

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