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2005.10.04

長短(ちょうたん)/落語

                                                                                                             長短

短気とのんびり屋の、こっけいシーンの最高潮ですね。

気の長い長さんと、
むやみに気短な短七の二人は幼なじみ。
性格が正反対だが、なぜか気が合う。

ある日長さんが短七の家に遊びに来て、
「ゆうべええ、よなかにいい、しょんべんが、でたく、なって、
おれがあ、べんじょい、こおう、よろうと、おもって、
あまどをお、あけたら……うーん、はえええ、はなしがあ」
とスローテンポで始めたから、短七、ちっとも早かねえと、早くもイライラ。

星が出ていなくて空が真っ赤だったから、
明日は悪くすると雨かなと思ったら、
とうとう今日は雨が降っちゃったと、ただそれだけのことを言うのに、
昨夜の小便から始めるのだからかなわない。

菓子を食わせれば食わせたで、いつまでもモチャモチャやっているから、
じれた短七、腐っちまうと、ひったくって自分で丸のみ。

長さん、煙草を吸いだしたはいいが
「たんひっ、つぁんは、きが、みじかい、から、おれの、することが、
まどろっこしくて、みて、られない」

言いながら、悠然と煙管に煙草を詰めてから、
火玉を盆に落とすまで、あまりに間延びしているので、
それじゃ生涯かかっても煙草に火がつきゃしないと、
「煙草なんてもなァ、そう何服も何服もね、吸殻が皿ん中で踊るほど
のむもんじゃないんだよ。オレなんか、急ぐときなんざ、
火をつけねえうちにはたいちまうんだ」
と、短七、あっという間に一動作やってしまう。

気のいい長さんが感心してると、あまりせっかちすぎて、
火玉が自分のたもとに入ってしまうが、
そそっかしいので一向に気がつかない。

これを見た長さん、
「これでたんひっつぁんは、きがみじかいから、
しとにものォおそわったりすると、おこるだろうね」
「ああ、大嫌いだ」
「おれが、おしえても、おこるかい?」
「おめえとオレとは子供のころからの友達だ。
オレに悪いとこがあったら教えてくれ。怒らないから」

「……ほんとに、おこらないかい? そ、ん、な、ら、いうけどね、
さっき、たんひっつぁんが、にふくめの、たばこを、
ぽんとはたいた、すいがらね、たばこぼんのなかィはいらないで、
しだりのたもとんなかィ、すぽおっと、はいっちまやがって、
……だんだんケムがつよくなってきたが、ことによったら、けしたほうが」
「ことによらなくたっていいんだよ。何だって早く教えねえんだッ。
みろ、こんなに焼けっ焦がしができちゃった」
「それみねえ、そんなにおこるからさ、だからおせえねえほうがよかった」

【うんちく】

ルーツは中国笑話

中国・明末の文人、馮夢竜(ふう.・ぼうりゅう、1574~1645)が
撰した笑話集「笑府」巻六・殊稟(=奇人)部にある
「性緩」という小咄が、オチの着物が焦げる部分の原話です。
ところで、これにもさらにネタ本があるらしく、
宋代の巷談集「古今事文類聚」(1246年ごろ)に載っていた実話を
面白おかしく脚色したもののようです。

この原話では、スローモー男と普通人の会話になっていますが、
内容は現行の落語にそっくりです。

これを翻案したのが寛文7年(1667)刊の仮名草子
「和漢りくつ物語」巻一の「裳(すそ)の焦げたるを驚かぬこと」で、
主人公はそのまま唐土(=中国)の
「生れ付き裕(ゆたか)にして、物事に騒がぬ人」
となっています。安永9(1780)年刊「初登」中の「焼抜」が同話のコピーですが、
これには「物事については、よく見届けないうちは発言しないものだ」という
もったいぶった「教訓」が付いています。

「笑府」をネタ本に、無数の江戸小咄が作られていますが、
その多くはエロ噺です。
現行の落語では「三軒長屋」「松山鏡」「饅頭こわい」が
「笑府」ダネです。

噺のバーター取引?

この噺、もともと小咄かマクラ噺扱いだったらしく、
古い口演記録や速記が見つかりません。
したがって、いつ誰が一席の噺としてまとめたのか
はっきりしないのですが、
戦後は、三代目桂三木助、次いで五代目柳家小さんの十八番でした。

三木助は短気な方、小さんは気長な方に、
それぞれ芸風が出ていましたが、
実は、三木助が「長短」を教える代わりに、弟分の小さんから
「大工調べ」を移してもらったというエピソードが残ります。

三木助「長短」のマクラ

「……戦争に負けてッからこっち、なんだか知らないけど、
どんどん、どんどん、日がたッちゃいますな。
われわれこのゥ日本人てェものが、みんなこうせッかちンなりましてな、
(大きな声で)こんちや、ッてぇと、
(さらにまた大きな声で)さいならッてぇん。
なんにも用なんかいわないで帰ッちゃうンですからな、
やっぱし、あれ、気が短いッてンでしょうなァ……」
(安藤鶴夫「三木助歳時記」 旺文社文庫より)

戦後間もない昭和24年春、
再建されたばかりの人形町・末広で、
橘ノ圓時代の三木助が、
勉強会に「長短」を演じる場面。

「食い物は、何が好きだい?」「おさしみ」
「うーん、お酒によくっておマンマにいいんだからね。
で、ワサビをきかして?」
「いんや、オレはジャムをつけて食ってみてえ」

同じく、後年の「長短」のマクラ。いささかゲテながら、
人の好き好き→性格の違いから、本題に入る。

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