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2006.03.23

牛の嫁入り(うしのよめいり) 落語

今度の与太郎はちょいと知恵が働くんですが、それがまた一騒動の素。

小伝馬町の質屋の娘。

年ごろになるが、
なかなかの器量よしで、
その上、芸事は絵から俳諧、歌はおろか、
弓馬、槍剣の道まで心得ているという噂の高い才女。

一人娘なので、
そろそろ養子を迎えなければならず、
孝行者なので、早くいい婿が見つかって両親を安心させたいと、
向島の牛の御前(牛島神社)に願掛けをして日参している。

町内の若い衆の噂を聞きつけた、
本所松坂町に住む古紙回収業の与太郎。

ほかの与太郎とは少々違って頭が冴えているので、
女をなんとかして手に入れてやろうと、
牛の御前に先回りし、
麻の風呂敷をかぶって頭にお椀を乗っけ、
笏(しゃく)代わりにシャモジを手に持って、
娘が来るのを待った。

なにも知らない娘、
いつものように社前に立ち、
賽銭(さいせん)をあげて柏手を打つと
「なにとぞ私によい御養子をお授けください」
と、熱心に祈る。

そこへ与太郎が賽銭箱の間からスクッと立ち上がり
「ああ、これ、我こそは牛の御前なり。
その方は親孝行なるに感じ、利益によって養子を一人授けるなり」

娘は仰天。

願いがかなえられたと大喜びで
「ありがたいことでございます。その御養子はどこのお方でしょう」
「本所松坂町古紙回収業の与太郎と申す者なり。
この者は粋で立派でちゃんとして、
東男の主さんに惚れたが無理かションがいな、あーら疑いあるべからず」

たちまち娘は、このまだ見ぬ男に恋わずらい。

親には恥ずかしくて言いだせないから、
悶々としたまま床につき、
食事も喉へは通らない。

心配しただんな、乳母をやってようやく聞き出すと、
かわいい娘のためと、早速番頭の久蔵を呼び、
その「本所松坂町の古紙回収業の与太郎さんは
粋で立派でちゃんとして、
東男の主さんに惚れたが無理かションがいな、
あーら疑うべからず」という
寿限無並みに長い名前の男に会ってこいと命じる。

久蔵が見ると、えらく汚い男なのでがっかりしたが、
当人がそうだというのだから間違いはなかろうと、
帰ってだんなに報告した。

だんな、それは身なりでなく人柄がいいのだろうと、
「あーら疑うべからず」
を婿にすることに決めたが、
娘の体がまだよくないから、車では揺れてだめだと、
長持ちに空気穴を空けて、夜具一式と一緒に娘を入れ、
大勢だと評判になるから、善兵衛と喜助の二人に担がせて、
松坂町に送り届けることにした。

二人が途中の牛屋で一杯やっている間に、
本所の牛方が子牛をひいて通る。

牛屋の前に下ろしてある長持ちの中からうめき声がするので、
のぞくと娘っ子が入っている。

これは人さらいだと早合点して、娘を引っ張り出すと、
身代わりに子牛を入れ、娘を連れて行ってしまった。

すっかりできあがった二人、
長持ちを与太郎の家に届けると、すぐ帰ってしまったので、
与太郎はゾクゾクしながら中をまさぐる。

えらく臭くて太った娘だと思って別の所を触ると、
そこが子牛の尻尾。

「ウーン、大変に長い髪だ。大方下げ髪で来たんだろう」

【うんちく】

民話の落語化?

東京ヴァージョンのこの「牛の嫁入り」は、
明治23年の「鼻の」円遊こと初代三遊亭円遊の速記が残るのみの
今はすたれた噺です。

もともと上方落語の「おたおたの太助」を
東京(江戸?)に移したものといわれますが、
この元ネタ自体、オチが円遊版と同じという以外、
今では詳細がまったく分からなくなっています。

したがって、原話も、東京に伝わった経緯・時期も不明ですが、
ただ、民話に同じ題名のものがあるため、
上方のものも含め、ルーツはやはり
民話・昔話にあると思われます。

類話「お玉牛」

娘と牛が寝床ですりかわるという後半の筋と似ているのが、
現在でも上方で口演される「お玉牛」です。

これは、武士の娘・お玉が、
父親が悪人に陥れられたため父娘で都落ちし、
紀州と大和の国境の堀越村へ流れ着きますが、
土地の乱暴者・あばばの茂平に強引に言い寄られ、
今夜にも夜這いをかけられるハメに。

お玉の訴えを聴いた世話人の与次兵衛が機転で、
その夜、お玉の寝床に牛を寝かせておいたので、
何も知らず、舌なめずりで忍んできた茂平は牛に抱きつき、
肝をつぶして逃げ出します。

オチは
「どや、お玉をうんと言わしたか?」
「いや、モーと言わした」
というものですが、
これも民話ダネとみられるので、
「おたおたの太助」や「牛の嫁入り」とルーツは同じでしょう。

なお、こちらは古くは東京でも、
同題で後半のみを、上方通りに演じたこともあったようです。

違ったやり方も

現在は東京では演じられず、
また、円遊以後の演者についてもはっきりしませんが、
古い演出としては、娘ではなく父親が願掛けして
与太郎の化けた神の「御託宣」を開くやり方もあったといいます。

また、驚いた与太郎が大家の家に逃げ込み、
「暗闇から牛を引っ張り出しました」
とするオチや、
舞台を亀戸天神に(与太郎も天神に化ける) していた演者も。

牛の御前って?

正式には牛島神社で、
現在は墨田区向島一丁目の隅田公園内に移されていますが、
関東大震災で焼失前は、
現・向島五丁目の墨堤常夜灯下にありました。

牛の御前は、祭神のスサノオノミコトのことです。

小伝馬町って?

現・中央区日本橋小伝馬町
時代劇でもよく知られた小伝馬町大牢のあった町ですね。

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